第1023話わたくし、異世界裁判長ですの⁉【ジェンダー全否定編・前編】

「──ホワンロン王国近衛師団長嫡男、イアン=グールドマン、『異世界裁判長』アルテミス=ツクヨミ=セレルーナの名において、有罪を言い渡す!」




 ホワンロン王国王都中央大法廷内にて響き渡る、幼い少女の断罪の言葉。


 それは、目前の被告席で手鎖で拘束されて直立している、DK男子高校生くらいの年頃のいかにもチャラい感じの優男のほうに向けられていた。




「ゆ、有罪って、俺が何をしたと言うんだ、アルテミスちゃ〜ん⁉」


「被告はこの法廷内においてはわたくしのことを、『裁判長』あるいは、アルテミス『様』と呼びなさい」


「名前呼び自体はいいんだ…………いやだからさあ、有罪と言うのなら、具体的な罪名を教えてくれよ⁉」


「言うまでも無く、『LGBT集合準備罪』ですわ」


「──うおいっ、まるで『LGBT』そのもの自体が、『悪しきもの』や『危険物』であるかのように言うなよ⁉」




「だって『LGBT』なんて、それ自体が『悪しきもの』では無いですか?」




「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいっ⁉」




「おやわたくし、何かまずいことでも申しました?」


「申しましたよ! これって間違いなく、『大問題発言』だよ!」


「ああ、お断りしておきますけど、わたくしが全否定しているのはあくまでも『LGBT』のことであり、『性的マイノリティ』の方たちに対する差別等の意思はまったくございませんので、悪しからず」


「『性的マイノリティ』と『LGBT』の、何が違うと言うの⁉」




「違いますよ、全然違います。──言うなれば、『本物と偽物』くらいの違いがあります!」




「に、偽物って、まさか、『LGBT』のことでしょうか?」


「え、違いますよ?」


「ホッ、それは、良かっ──」




「『男女平等』を標榜するフェミニズムをも含む、『ジェンダー全般』についてですわ」




「──余計悪いわ⁉」




「なぜか、おわかりになりますか?」


「わからんし、わかりたくも無いよ⁉」


「あの『偽物』どもの、最大の『因縁』の付け所は、何でしたっけ?」


「因縁て…………まあそりゃあ、『LGBT』や女性に対する、『差別の根絶』だよな?」


「いつ、そんなものが、有りましたか?」


「は?」




「女王陛下が君臨し、宗教的指導者が女性たるこのわたくしこと『の巫女姫』である、このホワンロン王国は言うに及ばず、異世界の平和憲法に基づいて『いかなる差別も許されない』ことを国是としている、かの『ゲンダイニッポン』において、いつ『女性差別』なんかが行われたと言うのですか?」




「そ、そりゃあ有るだろ、それこそいっぱい! テレビとか新聞とかネットとかで、散々ゲンダイニッポンは国際的に『ジェンダー指数が最低レベルだ!』って言われているじゃ無いか⁉」




「何ですか、『ジェンダー指数』って、いかにもいい加減そうな『抽象的なデータ』は? もっと『具体的なデータ』は、無いのですか?」




「ぐ、具体的な、データ、って?」




「例えば過去数年間において、全国の小学校において深刻な『男女差別事件』のニュースなんて、有りましたっけ?」


「え、いや、異世界の小学校の話をされても……」


「──まったく無いんですよ、それも小学校どころか、中学でも高校でも!」


「へ? あれだけ『いじめ事件』が問題になっていて、今や(特に東北地方においては)『ポピュラーなお遊び』にまでなっているゲンダイニッポンで、いじめなんかよりも更に『ポピュラー』であるはずの、『差別』に関する事件が皆無だと⁉」




「……本作において何度も何度も申しておるように、日本国憲法は何よりも『差別を絶対許さない』ことこそを『基本的原則』としておりますので、戦後優に七十年以上も『差別の根絶』に国を挙げて邁進してきており、教育現場でいかなる理由があろうが『差別事件』を起こしたりすれば、各方面から袋だたきの目に遭って、担任教師や校長はおろか、下手したら教育委員会幹部や自治体の首長のクビすら飛びかねないのです! それにそもそも子供を含むゲンダイニッポン人一人一人においても、今更他人を差別するような低レベルなことなぞ、特別な理由でも無い限り行おうとはしないので、最初から問題にならないのです」




「……そういや、本作の作者の田舎では歴史的事情により、小中学校においてはかなりの割合を『在日』の児童たちが占めているけど、もはや『同じ地方の仲間』として普通に『親友』とか『喧嘩友だち』とかになっていて、『差別』なんて『何ソレ? どこの国の冷やし中華?』状態だったそうだしな」




「もちろん、これは学生のみの話だけでは無く、社会人の世界でも同様です。──さて、これほどまでに『女性の社会進出が国際的に遅れている』と揶揄されているゲンダイニッポンですが、企業やお役所等の各職場において、ここ数年ほどの間に具体的に、深刻なる『女性差別事件』が起こったなんて、聞いたことがお有りですか?」




「え………………………あ、あれ? そういや、あれだけ『ゲンダイニッポンの職場は女性差別の巣窟ダニ!』とか、(毒亜ドクーアの息のかかった)マスゴミどもが盛んに喧伝アピールしていると言うのに、具体的な『差別事件』なんて、ただの一件さえも聞いたこと無いぞ?」




「そりゃそうですよ、ゲンダイニッポンは『男女間』のみならず『LGBT』すらも含めて、ジェンダー方面でほとんど差別が起こり得ない土壌を有しているからこそ、諸外国みたいに『ジェンダー問題にうるさくなく』、『ジェンダー指数』などと言う『恥ずかしい指数』が低くて、問題になっていないのですから」




「え、待って、君が何を言っているかわからないんだけど? ……もしかしたら、『ジェンダー的差別が無い』からこそ、『国際的ジェンダー指数が低い』のだ──と言っているわけなの⁉」




「アメリカにおいて、どうしてあんなに『黒人保護運動』が盛んだと思っているのです? ──それだけあの国では、黒人差別がもはや『風土病』そのままに蔓延っているからなのですよ。これは他の国のその他のジャンルの差別についても同様で、それに比べて『差別』に対して関心の薄いゲンダイニッポンは、むしろ国風的に差別がほとんど見られないのですよ!」




「……ゲンダイニッポンではもはや国風的に、差別がほとんど見られないって、そんな馬鹿な! 現にマスゴミどもが盛んにアピールしているでは無いか⁉ 企業の幹部とか大学教授とか国会議員において、圧倒的に『男女格差』存在していると」




「ええ、そうですね。──それで、それが何か?」


「何か、って……」




「確かに経済界や学界や国会において、数的な男女格差は存在しておりますが、果たしてそれらの世界には、女性の進路を妨害するような『差別的システム』は、存在しているのでしょうか?」




「あ」




「いえいえ、そんなものなんて、存在していませんよね? もしも存在しているとしたら、今頃大問題になっているはずでは? 何せ憲法において『いかなる差別を許さない』と言うことになっているのに、他の誰よりも憲法を守り抜かなければならない『立法府』である国会において、恣意的な『男女差別』が行われていたとしたら、それこそマスゴミが大喜びで大騒ぎするはずですよねえ?」




「──そう言われてみれば、その通りじゃん⁉」




「結局、ゲンダイニッポンにおける各界の『男女格差』は、『結果』でしか無いのですよ。それも、、個々人が必死に頑張ってきた結果そのものであり、そこには何の『差別』も『ズル』も存在していないのです。──本作において何度も何度も申しておりますが、例えば国会の議席の男女格差に関して言えば、男性議員が女性議員に比べて、『楽して議員になっている』とでも思っているのですか? とんでもない! 性別にかかわらず、誰もがどうにかして限られた議席を手に入れようと、必死こいているだけでしょうが⁉ いやむしろ、男のほうが大多数と言うことは、まさしく『男の敵は男』であり、男同士の間で激しい『足の引っ張り合い』が行われており、『女性を差別的に陥れる』暇なんて有りゃしないのですよ!」







(※後編に続きます)

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