第910話、わたくし、『女神様にお願い♡』ですの⁉(中編)

「……例えばさ、神様が『世界のすべてを消滅させる』とか自信満々に宣言した場合に、その神様自身もその世界の中にいるとしたら、どうなるわけ? 『すべて』と言うことは、自分も消滅してしまうの? それってただの馬鹿じゃん。それとも自分だけは除外するとか? でもそれだと今度は、『すべて』では無くなるのでは? ──わかったか、どっちにしろこの例え話一つで、神様の『全知全能性』は、完全に否定できるんだよ」




「──うぐっ⁉」




 な、何なの、こいつ、


 ──一体、何なの⁉


「……まあ、あんたが本物の女神だろうが偽物の女神だろうが、どっちでもいいんだけどね」




「──貴様ああああああああああああああああああああああ⁉」




 散々人アイデンティティとレゾンデートルを全否定しといて、何だよ、その言い草は⁉




「むしろ『真の問題』は、あんたがいかにも『女神面』しながら、僕のことを嵌めようとしていることだしな」




 ──ギクッ⁉


「ちょ、ちょっと、何をいきなり言い出すのです? 女神である私があなたを嵌めるなんて、そんなことなぞ有るはずが無いでしょうが? おほほほほほほほっ!」




「……あのなあ、こんなこと、ちょっと考えるだけでわかるだろうが? 普通の『異世界転生作品モノ』において、こちらのリクエストに応じて無条件で、女神がホイホイと『最強チート』をくれたりするかあ? 当然これは『特殊なケース』であり、これまでの転生者に対しても望むままに『最強系のチート』を与えているものと思われ、このまま異世界に転生してしまったら、転生者同士で『デスゲーム』でもやらされるってところじゃ無いのか?」




「──うっ」




「それにしたって、無制限にチートを与えるだけでは無く、何らかのルールとか制限とかを設けるはずだから、僕こそがあんたの司っている異世界の『代表プレイヤー』で、他の女神が司っている別の異世界に転生している、やはり最強系のチートスキルを授かった転生者たちと争わせて、『世界』同士の優劣を決めさせる──ってところまでありそうだな?」




「──ううっ」




 ……さ、さすがは、Web作家。


 ほんのちょっと女神である私と対話するだけで、ここまで見抜くことができるなんて⁉(※普通はできません)




「……そこで、『世界を壊す力』ってわけですか。なるほど、他の女神推薦の転生者たちが、どんな強力なチートスキルを有していようが、世界そのものを壊してしまえば、その時点で決着がつきますからね」




 ようやく納得がいって、私がそうつぶやくや、


 ──なぜか、これまで以上に侮蔑の表情となる、目の前の少年。


「……あんた、『神様』どころか『世界』のことすら、全然わかっていなかったのかよ? それで良く『異世界を司る女神』なんてやってられるな?」




 ──また、『ダメ出し』された⁉


 一体何なの、こいつって⁉


「さっきから言いたい放題言ってくれているけど、だったら『世界や神様』が一体どういうものなのか、あなたのお説を聞かせてくださらないかしら⁉」




「──世界や神様なんて言う、具体的なものは存在しない。あくまでも『抽象的な概念』や人の『無意識の集合体』に過ぎないんだ」




 ………………………。


「いやもう、女神の私ですら、あなたが何を言っているのかわからないのですけど⁉」


「では、こう言い直そうか? ──『神などいない、在るのは人々の信仰心だけだ』」


「──ッ」


「この言葉こそが、『神とは抽象的概念であり、無数の人々の無意識の具象化に過ぎない』と言うことを、よく表しているだろう? ──そしてこれは、『世界』についても同様なんだ」


「世界も同じって、世界が抽象的というのはわからなくも無いけど、人の無意識の集合体とか具象化とかって、一体どういうことなのです?」


「……あんたまさか、世界というものが具体的に、『万民にとって共通なものとして認識できる』とでも思っているんじゃないだろうな?」


「そうですけど? 厳密には世界そのものとは言えないけど、地球人にとっての世界とは、『地球』だし、日本人にとっての世界とは、『日本』だし、今この謎空間にいる私たちにとっては、『この謎空間』こそが世界だし──てな感じで、ちゃんと具体的に把握でき、共通認識を持っているではないですか?」


「──自分で『謎空間』とか言うな! せめて『女神空間』とか言え!」


 おっと、失礼いたしました。


「……あんたさあ、自分の言っていることが『穴だらけ』なのを、まったく自覚していないのか?」


「穴だらけって、一体何がです?」




「同じ地球と言っても、日本とブラジルとでは、見ている世界はまったく違うだろうし、同じ日本の中だって、北海道と沖縄とでは全然違うし、ここにこうしてたった二人きりでいる僕とあんたですら、自分の周囲の世界を見る目は、まったく違うんじゃないのか?」




「──‼」


 た、確かに……。




「つまり、世界と言うものは『人それぞれ』であって、『人の数だけ世界がある』と言っても、過言では無いんだよ」




「そ、それが、『世界とは無数の人間の無意識の集合体』ってことなのですか?」




「いっそのこと、『世界観』と言い換えてもいいけどね。さっきの僕の推測が正しければ、あんたら女神は無数にある各異世界の代表者として、無数の現代日本からの転生者を戦い合わせて、異世界を最後まで勝ち残った一つだけにしようとしているようだけど、大枠としての『抽象的概念』に過ぎない世界というものは最初から一つだけしか無く、転生者はあくまでも己の『世界観』を戦わせているだけで、最後まで勝ち残った転生者の『世界観』によって新たに世界が作り替えられることになるのであり、本当に他の無数の異世界が滅んでしまうわけでは無く、敗者である転生者たちの『世界観』が否定されるだけなんだ」




「……その『世界観』における、それぞれの転生者ごとの『違い』って、同じ地球における、日本人とブラジル人の『世界観』の違いのようなものなのですか?」


「現実的にはそうだけど、こういった『なろう系小説』そのままの異世界においては、少々話が違ってきて、転生者の『世界観』とは、彼ら自身の『願望』の具象化みたいなものなんだよ」


「が、願望、って……」




「『剣と魔法のファンタジーワールド』のような世界観が好きなやつもいれば、『VRMMO』のような世界観が好きなやつもいれば、『乙女ゲーム』のような世界観が好きなやつもいれば、『戦国時代』のような世界観が好きなやつもいれば、『中華風王宮物語』のような世界観が好きなやつもいれば、『自衛隊の異世界遠征物語』のような世界観が好きなやつもいる──ってな感じで、『転生者の数だけ異なる異世界がある』と言っても過言では無いだろう。よって、現在行われているあんたたち女神による『異世界勝ち残りバトル』は、転生者同士の己の『世界観』を賭けた戦いとなっているんだ」




「──つまりそれって、最初から様々なタイプの異世界が存在しているのでは無く、転生者の願望の具現である『世界観』こそが新たに創り出していて、転生者同士の戦いとは、『世界観』同士の戦いであり、最後まで勝ち残った転生者の『世界観』こそが、最終的な異世界の有り様を決定するってことですか⁉」







(※後編に続きます)

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