第909話、わたくし、『女神様にお願い♡』ですの⁉(前編)

「──あなたにはこれから、ある異世界に転生していただく換わりに、何でも願いを叶えて差し上げます。さあ、何なりとおっしゃってください!」




 私は、無限に存在している異世界の一つを司っている、いわゆる『女神』である。




 今日も今日とて、現代日本において若くして(暴走トラックにはねられたりして)不慮の事故に遭ってお亡くなりになったの者のうち、『勇者』等異世界の役に立ちそうな素質を有する者のみを、この『神の座』に召喚して、女神としての『常套句』を諳んじていた。


 今目の前にいるのは、一見何の取り柄も無いような、極平凡な男子高校生である。


 どうしてこのようないかにも何の役にも立ちそうに無い者を、異世界への転生者に選んだかと言うと、何よりもその『知識』を買ったからだ。


 ──実は何と、この少年こそは、現在Web上で大人気の『なろう系』小説の、原作者様であったのだ。


 ……このように言うと、「Web小説ごときの知識が、本当に本物の異世界で役に立つのか? 小説と現実とは違うんだぞ」などと思われるかも知れませんが、その点は大丈夫です。




 そもそも、剣と魔法のファンタジーワールドである異世界は、現代日本人からしたら、『創作物フィクション』以外の何物でも無く、それこそ『小説の知識』だけでも、十分やっていけるのだから。




 むしろ、少々武術に長けていたり、秀才的な知識を持っていたりしたところで、『常識』に囚われたままでは、いきなり『非常識極まりない』異世界に放り込まれたりしたら、かえって状況をまったく把握できず、ほとんど役に立たないであろう。


 それに対して、現在の日本においてはもはや『異世界のプロ』と申しても過言では無い『なろう系Web作家』であれば、異世界においても(他の一般的な現代日本人比べれば)順応性が高く、何が何だかわからないうちに、命を失ったり、身ぐるみ剥がされたり、奴隷として売り払われたりする──なんてことは、基本的にあり得ないかと思われた。


 ……え、何ですって?


 たとえ異世界の知識に長けていようと、武術の心得がまったく無く、天才と言わないまでも秀才レベルの知能すらも無くて、異世界などといった過酷なる非日常的状況を生き抜いていけるのか、甚だ疑問ですって?


 そこら辺のところは、ご心配なく。




 何せそのための、『チートスキル』なのですから。




 ある意味、自分自身で異世界そのものを(細かい設定からすべて)創り出しているも同然の、Web作家なのである。


 そこにチートスキルまで加えれば、もはや『絶対無敵』とも言えるであろう。




 ……ぐふふ、さすがは私! 私、ナーイス!




 まさか『Web作家』を転生者に選ぶなんて、女神どもには、思いつきもしないだろう。


 これで、今回の『女神対抗異世界転生者勝ち抜きバトルゲーム』は、この私の優勝ね!


 ──おっといけない、こちらの思惑を、目の前の少年に悟られてはならない。


 まさか、単に『危機に瀕している異世界を救う』とかでは無くて、自分と同様にチートスキルを有する現代日本からの転生者と、自分が送り込まれる異世界の命運を賭けて戦わされるなんて聞いたら、あまりにも埒外バカバカし過ぎて、転生すること自体を拒否しかねないものね。


 まあ、とにかく適当にチートスキルを押しつけて異世界に放り込んでしまえば、後はもうこっちのものだし、とっととこのルーチンワークを終わらせてしまいましょう。


「──さあ、あなたが欲しいのは、どんなチートスキルですか⁉」


 それに対する、目の前のいかにも凡庸な少年の答えは、


「あ、じゃあ、完全無欠の『最強のチート』をくれ」


 ふむふむ、『最強』ね。


 見かけによらず、『やる気』みたいじゃん。


 結構、結構♡


「『最強』なのは構わないけど、もっと具体的に指定してくれませんか? 『不老不死』とか『未来予知』とか『死に戻り』とか『即死チート』とか。もちろん、何でもOKですよ」


 ま、『最強』と言ったら、ここら辺で決まりでしょう。


 とはいえ、Web作家だけあって、何かこちらの予想を裏切る珍しいスキルが飛び出してくるかも知れないけどね。


 どのみち、我々女神に叶えられない願いなんて無いんだから、ドンと来いってもんよ。


 ──さあ、何でもどうぞ!




「だったら、『世界を壊す力』を」




 ………………………は?


「世界を壊す、力?」


「うん、そうだけど?」


 な、何だ?


 某猫型ロボット謹製の、『惑星破壊爆弾』でも欲しいわけなの?


 でも、転生したい世界を壊されたりしたら、管理者である女神としても困るんですけど。


 ……やべ、こいつって、自分自身の犠牲すらも厭わず『破壊願望』の有る、ペシミストかなんかじゃないだろうな?


 いかん、もしかして私、人選間違えた?


 やっぱ『なろう作家』なんて、碌でもなかったわ。




「……おい、何を人のことを、胡乱な目で見てやがるんだ?」




 うおっ⁉


 何こいつ、何で女神の心を読んだりできるの⁉


 ……ていうか、こっちの内心が、表情にダダ漏れしていただけか(テへ☆)。


「あんたさあ、女神である自分が僕たち転生者に授けているのが、単なるチート系のスキルに過ぎないとでも、思っているんじゃないだろうな?」


 え。


「い、いや、そう思っておりますけど、それが何か?」




「──馬鹿か、女神が与えているのは、単なるスキルなんかじゃ無い、『世界そのもの』なんだよ!」




 なっ⁉


 私たちが与えているのが、世界そのものですってえ⁉


「──いや、言っていることもわけがわからないけど、それよりもそもそも、どうしてただの人間であるあなたが、私たち女神のことを決めつけたりできるのですか⁉」


「……え、もしかしてあんた、自覚していなかったの?」


「な、何をです?」




「自分が本物の女神様とか神様とかでは無く、ただ単に『女神として設定されているキャラ』だと言うことだよ」




「──何かすごいこと言い出したぞ、こいつ⁉」




 そ、そうか、


 Web小説家と言っても、実はこいつってば、


『メタ系』の作家だったのか⁉


「だからどうして、むしろあなたのほうこそが、この私のことを勝手に、『キャラ設定』しようとするんだよ⁉」


「そりゃあもちろん、神様なんて、本当にいるはずが無いからさ」


 へ?


「いやいやいやいや、何言い出すの! 現に今目の前に女神であるこの私がいると言うのに、どうしてそんなことが言えるんだよ⁉」


「だからあんたは、『女神という名のキャラ』でしか無いって、言っているだろう?」


「何だと、てめえ⁉」


「……あのさあ、むしろ今僕の目の前にいるからこそ、あんたは神様では無いと、断言できるんだけど?」


「は?」




「神様と言うものはあくまでも、『抽象的』でなくてはならないのであり、あんたみたいに人間の姿をして、人間と同じ空間に存在しているなんて、ギリシャ神話やローマ神話の昔からお馴染みの、『創作物の中の神様』以外の何物でも無いんだよ」




「──ッ」




 ……ひょっとして、『メタ』と言うよりも、意外と『真理』をついているんじゃないのか、こいつ⁉







(※中編に続きます)

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