第908話、わたくし、『神様ランキング』を開催しますの⁉(後編)

 ──そして出来上がったのが、現在の『この世界』である。




 基本的には剣と魔法のファンタジーワールドであるが、そこは元々私自身が現代日本からの『転生者』であることもあって、近代的な軍隊が存在していてハイテクな兵器を駆使しての大規模な戦争が起こったり、SFアニメそのままの宇宙艦隊が侵略しに来たりといったふうに、『何でもアリの世界観』となっていた。




 だって、こういった『ごちゃ混ぜ感山盛り』の世界のほうが、楽しいじゃないか?


 ──特に、すべてを一段階高いところから傍観している、私のような『神様』にとっては。




 例えば、ほんのこの間まで自分のライバルであった他の『神様候補』たちも、記憶を書き換えた後に以前同様の高いレベルの超常の力を与えて、さもこの世界の『実力者』であるかのように自認させて、お互いに相争う姿を眺めるのも、おつなものであった。


 たまには、そこら辺の極平凡な平民階級の子供あたりに、殊更強い力──すなわち、上級の集合的無意識とのアクセス権を与えて、掟破りの『下克上』により騒乱が巻き起こるのを楽しんだりもした。


 何せ私は『神』であり、この世のことわりを司る絶対無敵の存在なのであって、すべてはしょせん『他人事』に過ぎないのだから、


 ただ有象無象どもがあたふたと、もがき苦しむ様を、高みの見物をするだけであった。







 ──などと、思っている時期が、私にも有りました!







「……何だ、おまえは? 一体どうやって、この『神の座』にたどり着いたのだ⁉」




 あり得ない。


 私はこの世界の神であり、


 私の住み処は常に強力なる結界で守られていて、誰にも見えず、なんぴとであろうとも足を踏み入れることなぞ、けしてできないはずなのに、


 ──その少年は、突然私の目の前に現れたのだ。




「そんなに驚くことは無いよ、僕も現代日本からの『転生者』であり、あんたや他の『神様候補』たち同様に、『集合的無意識とのアクセス権』を与えられているんだ」




 ……何?


 つまりこいつは、この世界における、『新たなる神様候補』と言うことか?


 ふん、見たところ、それ程高レベルの『集合的無意識とのアクセス権』を持っているようでは無いけどな。


 これはすでに勝負は、決まったかな?


「つまり、これから私とこの世界の神の座を賭けて、戦おうってわけか? ──いいだろう、受けて立とうではないか」


「いや、その必要は無いよ」


「何?」




「僕は神様なんかになるつもりは無い、ただ『普通』でありたいだけだ。よってあんたにも『普通』になって欲しいし、この世界そのものも『普通』にしたいんだ」




「……普通って、どういう意味だ?」


「普通は、普通だよ。僕たちがこれまでいた、現代日本みたいにさ」


「へ?」





「つまりは、現在この世界を司っているあんたを始めとして、誰一人として集合的無意識とアクセスできず、神様なんか存在していなくて、誰一人として超常の力なぞ使えず、剣と魔法のファンタジーワールドなんかじゃないし、近代的な軍隊によるハイテクな戦争なんて起こらないし、SFアニメそのままに宇宙艦隊が侵略して来たりしないし──といったふうに、いかにも『なろう系Web小説』そのままな『何でもアリ』なんかじゃ無い、『ごく普通の世界』のことだよ」




「──なっ⁉ それってつまりは、私の『世界観』の全否定では無いか⁉ ふざけるな! そんなことなぞ現在神の座にいるこの私が、断じて許すものか!」




「許すも許さないも、もう遅いよ。さっき僕のほうで勝手にすべてを、『普通』にしちゃったからね」




 は?


「普通にした、って……」




「確かに『レベル』的には、僕の集合的無意識とのアクセス権は、あんたよりも格下だけど、その使い途が『特殊』なんだよ。──そう、僕が今回異世界転生する際に与えられた『固有スキル』は、他人の『集合的無意識とのアクセス権』を、強制的に未来永劫無効化することなんだ」




 ──‼




「集合的無意識とのアクセスを無効化するって、まさか⁉」


「そう、世界の改変や、人々の記憶の改竄を始め、ありとあらゆる超常の力が、未来永劫使えなくなったわけさ」


「──くっ!」


 その驚愕極まりない言葉を聞くや、私はすぐさま周囲の大気の形態情報を書き換えて、炎を現出させようとしたが、まったく何の変化も生じなかった。


 そ、そうか、とっくに私から力がすべて失われていたからこそ、この住み処を取り巻いていた結界も無効化されていたんだ。


「ようやくおわかりのようだね? そうなんだよ、もうすでにこの世界に存在している者はすべて、元の形態と記憶を取り戻しているから、もはやここはあんたの理想とする世界では無いし、あんた自身も神様でも何でも無いんだよ」


 そう言うや、茫然自失となっている私を尻目に、さっさと踵を返す、自称『転生者』の少年。




 ──ただし、こちらに向かって、『とどめの一言』を放つことだけは、忘れずに。




「ああ、そうそう、当然あんたと『神の座』を巡って争っていた『元神様候補』の皆さんも、とっくに元の記憶を取り戻しているはずだから、今までいいようにあんたに操られていたことを知ったら、きっと徒党を組んで復讐しに来ると思うんで、早いとこ逃げたほうが身のためだよ」

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