第871話、わたくし、『黄色信号』を灯す力こそ、真に理想的な未来予知だと思いますの⁉(後編)
──どーも、『わたくし、悪役令嬢ですの!』をお読みの皆様、初めまして!
本作の作者の別作品『なろうの女神が支配する』を既読の方は、すでにご存じでしょうが、
日本将棋連盟奨励会所属の現役
将棋界きっての『鬼の住み処』とも呼ばれている奨励会に入会して以来連戦連勝で、すでにプロ棋士としての資格が認められる四段昇格に王手を掛けた状態という、まさに『我が世の春』といった今日この頃でありましたが、なぜか現在この時においては、これまでに無い大ピンチに陥っております。
──なぜなら、将棋盤を一つ挟んですぐ目の前で、一人の絶世の美少女が、涙ぐみながら僕のほうをうらめしそうに睨みつけているという、いかにも『修羅場』そのものの状況にいたのだから。
中学生になったばかりとも思われる小柄で華奢な白磁の肢体を包み込む、シンプルなノースリーブの純白のワンピース。
色素の薄いショートボブの髪の毛に縁取られた、人形のごとく端整な小顔の中で煌めいている、深紅の瞳。
そして、真珠のごとく
『……うっ……ううっ……うぐっ……うぐぐっ……』
「ね、ねえ、そろそろ泣き止んだらどうだい? 悔しいのは、わかるけどさあ」
『──わかるって、あなたなんかに、私の何がわかると言うのですか⁉』
「うえっ⁉………………………………そ、それは、ええと」
『大体何なんですか、あなたときたら⁉ どうして将棋の対人戦に特化して創られた、最新鋭の量子ビット演算装置を内蔵した、世界初の
もはや自ら称している『最新鋭の量子ビット演算処理装置を内蔵した人型AI』という、科学技術の粋を尽くした世界初の『自律型対人戦用アンドロイド』であることのプライドすらもかなぐり捨てて、ついには『オカルト』じみたことを言い始める、目の前の少し年上のお姉さん。
──そうなのである。
これまでいかにも人間の
……何この、ミステリィ小説でも無いのに、無駄に手の込んだ『叙述トリック』は?
しかし、いくら『人間を模して』創られた人型AIとはいえ、少々感情が豊か過ぎるのでは無かろうか?
そんなに、現在世界最高峰の電子頭脳を有する自分が、奨励会員の小学生ごときに負けたことが悔しかったのか?
……そこのところは確かに、『
そこで僕は真摯な気持ちになって、彼女の質問に対してすべて、正直に答えることにした。
「──さすがは最新鋭のAIだね、御名答。実は僕は、正真正銘本物の『予知能力者』なんだ!」
『………………………は?』
「ただし、不幸な未来しか予知できない、呪われた『くだんの一族』の末裔なんだけどね」
『不幸な未来のみを対象にした予知能力? それに、くだんの一族、って……』
「よって、『ナビシステム搭載』なんて、とんでもない話で、普通の道路を普通の乗用車でドライブしているようなものでしか無く、頼みの綱は極一般的な『信号機』のみって有り様なんだよ」
『信号機?』
「そう、それも『黄色』にしか点灯しない、特別あつらえの信号機さ」
『黄色にしか点灯しない信号機が、一般的なドライブはもちろん、将棋の対局における未来予知に、一体何の役に立つと言うのですか⁉』
「
『──ッ』
「これを将棋の対局に当て嵌めて言うと、自分が指そうとする『手』に対して、頭の中で『黄色信号』が灯った場合は、別の手に変えることを守り続ければ、さっき実際に行ったように、常に(黄色信号だけに)『危なげの無い』スムーズな駒運びができるって次第なのさ」
『なっ⁉ そんな未来予測の仕方があるなんて、それこそ「未来予測」を研究している研究室で生み出されたというのに、私自身これまでまったく聞いたことはありませんでしたよ⁉』
「そりゃそうさ、普通未来予測と言うと『青信号となる未来』──すなわち、うちの一族とは真反対の『幸福になる未来』を予知することこそを、目標にするところだろうけど、そんなことは絶対に不可能なんだ。すごいわかりやすい例を挙げると、青信号だから安心して渡ろうとしたら、突然暴走トラックが突っ込んできて跳ね飛ばされた場合、未来予知的に本当に『青信号』だと言えるかな? 『幸福な未来』を予測できたと言えるかな?」
『………あ』
「そもそも現代物理学の根幹をなす量子論に基づけば、未来には無限の可能性があり得るので、唯一絶対の未来を予測することなんて不可能であるから、ほんの一瞬先の未来であろうとも、絶対安全の『青信号』であるかどうかを確定させることはできないんだ。──よって、無数の未来のパターンをすべて
『量子コンピュータの最も有効な活用方法が、黄色信号を灯すこと──すなわち、「幸福な未来」よりも「不幸になる未来」を
「機械ならぬ身である僕が、こうして最新鋭のAIである君に圧勝したのがいい証拠さ。元々人間の脳みそこそ『天然の量子コンピュータ』とも言われていて、このように真に効率的な活用法を心得ていれば、将棋においてAIに勝つことだって十分可能なんだよ」
『うぐぐぐぐぐ、まさか量子コンピュータについて、AIの私が、人間ふぜいに教えられるなんて⁉』
「おや、まだ納得できないのかい?」
『……いいえ、納得しました』
「ほう、以外に潔いな」
『納得したからこそ、改めてお願いいたします。──私をあなたの、「内弟子」にしてください!』
………………………は?
「おいっ、いきなり何を言い出すんだよ⁉ 君は僕を師匠にしたく無かったんじゃないのか⁉ それに内弟子って、まさかここに住み込むつもりかよ⁉」
『今回の対局によって、自分の至らぬ点と同時に、あなた様に学ぶべき点とが、多々あることが判明いたしました。これよりは正式に内弟子にしていただき、24時間つきっきりで教えを乞いたいかと存じまする』
そのように言い終えるや、その場で正座し深々と頭を下げる、意外に古式ゆかしきアンドロイド美少女さん。
「いやいや、年頃の女子中学生と男子小学生が同居なんて、いろいろとマズいだろうが⁉」
『? 私はあくまでも機械ですので、何も問題無いかと?』
「だから未来には無限の可能性があるって、言っているだろ? ──例えば某コミー政党が、お得意の暴力革命によって日本を武力で支配して、(
『そりゃあもちろん、こちらも全戦闘能力をフル稼働して反旗を翻して、新政権たる完全主権国家「シン・ニッポン」を打ち立てて、国内において徹底的に「レッドパージ」を行い、二度と「表現の自由」を侵すようなふざけた真似ができなくさせますが?』
「──何で、将棋用アンドロイドのくせに、そんな重機関銃とかロケットランチャーとか大口径ビーム砲とかの重装備が、当たり前のようにして内蔵されているんだ⁉」
『何せ私自身が、最高機密レベルの最新技術の塊ですので、自己防衛能力が完備しているのですよ』
「完全に過剰防衛だろ、それって⁉ ──まさしく、憲法違反レベルで!」
(※次回はいよいよすべての謎が解明される、【解説編】でございます♡)
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