第857話【試作】わたくし、魔法令嬢ですの⁉【ワイヤード編】(その2)

「──こちらワルキューレ49! 目標ターゲットを肉眼で確認! これより攻撃に移る!」




 そのように司令基地へと報告するや否や、私は乗機He162を急降下態勢に移行した。




 眼下の海面を覆い尽くす、無数の巨大なる異形の群れ。


 ──海底の魔女ヘクセンナハト


 魔導大陸エイジア東部と、極東海上に浮かぶ弓状列島旭光ヒノモト皇国に囲まれた、『ジパング海』の海底に棲み着いている、超常の力を誇る怪物たち。


『彼女』たちはなぜだか、我々人間ヒューマン族が住まう魔導大陸へと、我が身を省みずに侵攻してくる習性を有しているので、私のような異世界からの転生者であり、強大なる魔導力と戦闘能力とを有する『魔法少女』たちが、討伐の任に当たっていたのだ。




 それもなぜだか、『元の世界』の第二次世界大戦時の旧ドイツ第三帝国の、初期のジェット戦闘機を駆って。




『──こちらワルキューレ13、攻撃を許可する! すぐさま目標ターゲットをすべて掃討せよ!』




「ワルキューレ49、了解JA! ──分隊全機、攻撃開始!」


『『『──了解JA!!!』』』


 基地の小隊司令官からの攻撃指示を受けての、分隊長たる私の命令一下、一斉に海上の目標ターゲットに向かってロケット弾『R4M』をお見舞いする、八機二編隊からなるHe162分隊。


 全弾見事に命中するものの、『魔女』たちの肉体が幾つかに分裂しただけで、命が絶えたり活動を停止した者はいなかった。


 ただし、さすがにそれ以上大陸のほうへと侵攻を続行することは無く、順次一匹残らず海底へと戻っていく。


 ……非常にあっけない幕切れであったが、


 とにもかくにも我らの任務は、これで終了であった。




 ──それと言うのも、どんなに攻撃を加えようが、基本的に『海底の魔女』たちが、のだから。




『彼女』たちの肉体はすべて、『元いた世界』で言うところの『クトゥルフ神話』で高名なる、不定形暗黒生物『ショゴス』によって構成されており、ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の情報が集まってくる『集合的無意識』とアクセスして、己の肉体情報を書き換えれば何にでも変化メタモルフォーゼすることができ、いくら肉体的にダメージを受けようとも、すぐさまに完璧に『修復』することすら可能であったのだ。




 どうして、異世界の海底に棲んでいる未知の生物の生態を、これほどまでに断定的に論じることができるのかと言うと、実はこの剣と魔法のファンタジー異世界においては、まさしく我々が元いた世界において『ショゴス』に該当するものによって、すべての物質が構成されていたのだ。




 ──となるともちろん、私たち『魔法少女』自身も、変幻自在の『ショゴス』によってできていることになるわけである。




 ……考えてみれば、『魔法』なんて言う物理法則をガン無視した反則技を、当たり前のように使える『魔法少女』なるものが、普通の肉体をしているほうがおかしいわけで、そういう意味では『魔法少女』になると同時に、それまでの肉体が単なる『外付けハードウェア』へと変わり、事実上『不老不死』状態となるとした、某『魔法少女アニメ』は理に適っていると言えよう。




 ──ていうか、そもそも私たち『魔法少女』のほとんどが、現代日本からの『異世界転生者』なのであるが、もちろん実際に『魂』とか『精神』とかが複数の世界間を移動することなぞあり得ず、あくまでもこちらの世界において『ショゴス』によって魔法少女としての『受け皿ニクタイ』を創っておいて、いわゆる『召喚術士』と呼ばれる者が、集合的無意識から現代日本人の『記憶』をインストールすることによって、擬似的な異世界転生を実現しているといった次第であった。




 よって、元の『現代日本』において、私たち自身がすでに『自殺』していようが、別に問題は無かったのだ。




 何せあらゆる情報が集まってきている集合的無意識には、すでに死んだ者の『記憶』さえも、当然のごとく存在しているのだから。




 もはや私たちは、この剣と魔法のファンタジーワールドの存在でしか無く、『魔法少女』として与えられた任務をまっとうし、自分たち同様に『ショゴス』の肉体を持った『怪物』たちを退治していくだけの話で、元の日本人としての自分自身の生死すらも含めて、『現代日本』が現在どうなっていようが、何の関心も無かったのだ。




 それはむしろ、私たちにとっては、至極幸せなことであった。




『いじめ』等によって『自殺』してしまった、文字通りの『現実逃避者』にとっては。





 ここには、私たちをいじめる者なぞ、ただの一人もいやしない。


 愚にもつかない、『同調圧力』なんて、存在しやしない。


 ただ単に、『魔法少女』としての実力を問われるだけであり、


 とにかく『怪物』たちを退治すれば、それで良かったのだ。




 ──まるで、前世の憂さを、晴らすかのようにして。



















 ……ところで、




 このように、ファンタジーだかSFだかつかない世界観において、


 いかにもドイツ的な軍隊に所属して、


 謎の巨大生物と戦う、うら若き少女たちという、


 壮絶でメカニカルな戦争物語となると、


 某『ギャルゲの皮を被ったディストピアロボットアニメ』あたりが、つい頭をよぎってしまうのだが、


 果たして、私の気のせいであろうか?










『──こちら小隊指令ワルキューレ13! それはあくまでも、君の思い込みに過ぎない! この【魔法令嬢】シリーズは、最初からこんな感じだったじゃないか⁉ 他の作品の影響なぞ微塵も受けていない、れっきとしたオリジナル作品なのだ! それにそもそも「魔法少女作品モノ」とくれば、「ディストピアそのものの世界観」であるのは、もはやお約束だろうが⁉』(必死)







「……いや、『魔法少女作品モノ』だからって、別に『ディストピア』とは決まっていないでしょうが?」

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