第738話、わたくしたち、悪役令嬢アイドルグループ『アクドル』ですの♡(その9)
『王立アクドル学園』
この剣と魔法のファンタジーワールドである『東エイジア大陸』に存在している、様々な国や地域から様々な種族や階級の少女たちが集う、『
ここでは
──そう、大陸一の大国の王子様の、永遠の『伴侶』として選ばれると言う。
しかも、いったんこの学園に籍を置いて以降は、身分の差を問題にされることは原則的に無く、ただひたすら演技力の巧拙のみが問われることになっており、そのため『我こそは』と夢と希望を胸に抱いて入学してきた、演技自慢の多数の少女たちが、日夜切磋琢磨をし続けていたのだ。
この私、学園の所在地でもあるホワンロン王国きっての貧乏男爵家の娘、アイカ=エロイーズのように。
「……でも、私自身の目標は、顔も知らない王子様の『奥方様』になることなんかじゃ無いけどね」
それにどうせ、誰が『悪役令嬢』の役を射止めるかは、すでに決まっているようなものだし。
──ホワンロン王国筆頭公爵令嬢、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ。
別名、『
この王国の──否、この大陸のすべての民にとっての、宗教的指導者にして、至高の存在。
──まさしく彼女こそは、生粋の『
それは本来ライバルであるはずの私たち学園の生徒たちも先刻ご承知で、あえて彼女と争おうとする身の程知らずなぞほとんどおらず、その他の(生徒の総数に比べれば著しく数が限られている)脇役の席を巡って、しのぎを削っているのみであったのだ。
もちろん中には彼女同様に、他国における上級貴族出身のやんごとなき御令嬢たちも少なからずいて、よせばいいのにアルテミス嬢に対抗心を燃やして、日夜演技に打ち込んでいる例外的な者たちもいた。
──それに対して、私自身の入学動機はと言うと、彼女たちとはまったく異なっていたのだ。
ただただ、崇拝するアルテミス嬢の
……そうなのである。
幼い頃に見た、巫女姫の『継承の儀式』。
自分よりも更に幼い絶世の美少女の、純真無垢でありながら、空恐ろしいまでの神聖さ。
その時一目で魅了されてしまった私は、すっかり彼女こそが『憧れの的』となってしまった。
「──彼女に、近づきたい」
まさにそれこそが、私の唯一の『
……しかしそれはあくまでも、『見果てぬ夢』でしか無かった。
それは、そうだろう。
相手は筆頭公爵家令嬢であり、聖なる巫女姫なのだ。
貴族と言っても末席の没落男爵の娘でしか無い私なぞでは、近づく術どころか、存在を知ってもらうことすら、無理な話であった。
もちろん私自身も、すっかりあきらめ果てていた。
──そんな時である。
彼女が、『王立アクドル学園』に入学したと、噂に聞いたのは。
……当然、耳を疑った。
どうして大陸一番の『聖女』様が、演劇上での話とはいえ、『悪役令嬢』なんかを演じる必要があると言うのだ。
これも何かの、『国策』なのか?
それとも、凡人には計り知れない、『宗教的意味合い』でもあるのか?
……まさか、何だかんだ言ったところ、幼い子供でしか無い彼女自身の、好奇心や悪戯心の為せる業だったりして?
そのように、私自身、大混乱に陥ってしまったものの、
思わず飛び上がりそうになるほど、狂喜乱舞したのも、また事実であった。
当然のごとく、私自身もすぐさま、入学手続きを行った。
もちろん、『悪役令嬢』の座を彼女と争い合おうなんてつもりは、毛頭無かった。
争い合うのはむしろ、『劇の中の役所』を演じる時のみで、十分であった。
──そう、私が狙った『配役』は、
……なぜあえて、最も彼女から『嫌われそう』な、役を選んだかと言うと、
そのものズバリ、『嫌われそう』だからだ。
実は人の『好悪』の感情は、プラスかマイナスかの違いはあれど、ほぼ同じぐらいの『強度』と『影響力』を有しているのだ。
つまり、あえて『敵役』を演じて、彼女に嫌われれば嫌われるほど、私のことをより強く、意識してもらえると言うわけなのだ。
……どうせこちとら、本来なら畏れ多くも公爵令嬢様から気にも留めてもらえない、取るに足らない存在なのである。
どんな形であっても、彼女の認識の対象になれるのなら、これ以上の喜びは無かったのだ。
それに何と言っても、私自身男爵の娘だから、役柄的にもマッチしているしね。
しかも何を隠そう、家が下級貴族のそのまた末席ゆえに、将来は他の貴族の家への嫁入りもままならなくて、幼い頃から独立して平民になることを決意していたので、家族に黙って演劇の猛勉強をしていて、これまで在籍していた下級貴族専用の女学園においては、それなりの『スタァ』だったりするのだ。
そのような貴族の令嬢にあるまじき特技を生かして、アルテミス嬢に何とかして取り入って、親密な関係になろうという『腹づもり』であったが、
何とそれは、『王立アクドル学園』に入学して早々、粉々に打ち砕かれてしまったのである。
「──あなたが、
…………はい?
「まったく、身の程知らずにもほどがありますわね。あなたごときでは、『泥棒猫』になるにも役不足なのでは?」
あ、あの……。
真珠のごとき小ぶりで上品な唇より飛び出してきた、あまりに予想外の罵倒の言葉に、思わず茫然自失の状態となってしまう私。
それに対して追い打ちをかけるように、くすくすと嘲笑を漏らす、『悪役令嬢の取り巻き』である、上級貴族のお嬢様方。
……え、何これ?
今、私の目の前にいる、『彼女』は一体、誰なの?
歴史ある王国の、筆頭公爵家令嬢?
神聖なる、
いまだ10歳の、純真無垢なる幼い女の子?
──いや、違う。
まさに彼女は、『悪役令嬢』以外の、何物でも無かった。
もはや『天才的な演技力』、などといったレベルでは無く、
まるでこれこそが、彼女自身の『地』であるかのように。
……何て、何て、凄い、『演技力』なの?
いやいや、これって本当に、『演技』なの?
まさか元々『悪役令嬢』だったりして、むしろこれまでのほうこそ『猫を被っていた』だけとか言った、あまりにもありきたりなオチじゃ無いでしょうね?
……甘かった。
彼女こそ、『本物』だ。
本物の、演技者──『乙女ゲーム』の
彼女を前にしては、私なんか、『偽物』でしか無い。
……そうか、こここそが、彼女の真の
彼女こそは、『乙女ゲーム』そのままのこの
彼女こそが、正真正銘本物の、『アクドル』だったのだ。
…………などと、思っていた時期が、私にもありました。
まるで、悪役令嬢であることこそが、彼女の『地』であるかのようだと?
彼女は、『悪役令嬢』になるために、生まれただと?
──いいや、私はまだまだ、認識が甘かった。
彼女は間違い無く、『
彼女の『真の演技力』は、私なぞの想像を絶するまでに、『全次元最高峰』だったのである。
(※これまでの演劇系小説や漫画の常識を完全に覆す、衝撃の次回に続きます♡)
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