第734話、わたくし、女相撲は『LGBT力士』を使って叩き潰しますの⁉
「……ああ、ついに、この日が来たのね」
その日、私こと
──真新しい、『土俵』を前にして。
そう、今日は長年夢見た、『女相撲プロリーグ』の門出の日なのである。
「これまでどんなに、苦労したことか。これでようやく、夢が叶ったのね!」
そのように独り言ちながら、真っさらな土俵の上へと、右足を乗せるや。
──さも憎々しげに、踏みにじった。
「……何が、『女性禁制』だ! 『穢れ無き聖域』だ! どうだ、こうして女の私が、足を踏み入れてやったぞ? ははっ、ざまあねえな!」
忌々しい国技ならではの、『男尊女卑の差別制度』なぞ、もはや関係は無い。
何せここは、『女性専用』の相撲部屋であり、
他でも無くこの私こそが、初代名誉横綱にして、『女相撲リーグ』の初代理事長なのだから。
……それもこれも、アメリカ最大のスポーツメーカーの『
それに、我が国における野党やマスコミや学術会議や各種活動家や果ては外国人工作員組織に至るまでの、『ジェンダー勢力』も、私の心強き味方なのよ!
黴の生えた古くさい固定観念にしがみつき続けている、日本の男どもなんて、もはや相手にする必要も無いわ!
──どうよ、文句がある?
女である私が、女のためのプロ相撲リーグの、女のための土俵を、いくら踏みにじろうが、別に構わないでしょう?
……くふ、
……くふふ、
……くふふふ、
……くふふふふ、
……くふふふふふ、
……くふふふふふふ、
「──くふぁははははははははははははははは!!!」
「ついに糞男どもが最後まで守り続けていた、相撲の土俵を、女の私が土足で踏みにじってやったぞ! これからは『女尊男卑のフェミニズム
真新しくピッカピカの相撲場に響き渡る、私の不敵極まる大笑。
まさに、その刹那であった。
「「「──世迷い言は、それまでよ!!!」」」
まるで私の高揚した気分に冷や水をぶっかけるかのように放たれる、複数の野太い声。
思わず振り向けば、入り口の手前には、
あまりにも珍妙なる格好をした男たちが、五、六名ほど、腕組みをして仁王立ちしていた。
──ただし、
『珍妙』とは言っても、
『この場』においては、非常に似つかわしいものであったのだ。
なぜなら彼らは、でっぷりと肥え太った裸体に、『廻し』のみをまとっていたのだから。
「……あなたたちは確か、大相撲の番付的にあまりぱっとしない、下っ端の力士の方々では?」
「「「──何その、いきなりの失礼極まる、言い草は⁉」」」
「……それで、あなたたちのような殿方が、この男性禁制の『女相撲リーグ』の稽古場に、一体何の用ですか?」
「「「『男性禁制』って、それじゃあんた自身あれほど忌み嫌っていた、これまでの相撲界の『男性独占主義』の二の舞じゃん⁉ 実はフェミニズムって平等主義では無く、『女性上位主義』だったのかよ⁉」」」
「へっ、私は『ビジネスフェミ』なんだから、細かいことなんて、どうでもいいんだよ!」
「「「『ビジネスフェミ』って、何そのパワーワードは⁉」」」
「もうホント、これ以上御託は必要ないから、どうしてあなたたちがここに来たのか、とっとと教えなさいよ。私の『聖域』を荒らしておいて、まさかただで済むとは思っていないでしょうねえ?」
そのように凄むように言い放つや、闖入者どものほうを怒気をこめて睨みつける、れっきとした『格闘家』の私。
しかし当の『招かれざる客』たちのほうは、むしろ余裕の笑みを浮かべるばかりであった。
「「「そんなことは思っていないわよ。ただで済ますつもりが無いのは、こっちも同様ですもの」」」
──⁉
「……何ですって? あなたたち本当に、何しに来たわけ?」
「そんなに、警戒しないでちょうだい」
「私たちはただ、お祝いと感謝の意を伝えに、来たのだから」
「まずは『女相撲リーグ』の設立、誠におめでとうございます!」
「「「わざわざ私たちのために、苦労に苦労を重ねて『活躍の場』を作ってくれて、本当にありがとう!!!」」」
………………………え?
「ちょ、ちょっと、私があなたたちのために『女相撲リーグ』を設立したって、どういうことよ⁉ あなたたちは男なんだから、『女相撲』とはまったく関係無いでしょうが⁉」
「いいえ、関係大アリよ、だって私たちは、男じゃ無いんだから!」
「はあ?」
「「「そう、私たちは『身体は男♡心は乙女』な、『LGBT力士』なのよ!!!」」」
──はああああああああああああああああああああああああ⁉
「な、何よ、『LGBT力士』って⁉ 何でそんなのが、突然私のところにやって来るのよ⁉」
「そりゃあ当然、『道場破り』のためよ」
「ど、道場、破りぃいいいい⁉」
……何その、時代劇にしか登場しないような、古式ゆかしいお言葉は⁉
「あなたも『格闘家』なんだから、私たちの挑戦を拒んだりしないわよね?」
「さあ、お互い全力をもって、正々堂々勝負いたしましょう!」
「もちろん、私たちが勝てば、『女相撲リーグ』を丸ごといただいて、あなたを始めとする純粋な女性からなる『フェミ力士』の方々は、永久追放させてもらうわ」
──ツッコミどころが多過ぎて、処理しきれねえよ⁉
「いくら心が女だからって、肉体は正真正銘『男性力士』なんだから、女である私たち『フェミ力士』が敵いっこないでしょうが⁉ ──いやそもそも、『LGBT力士』か何か知らないけど、あなたたちのようなのが、『女相撲リーグ』に参加できるわけが無いじゃない!」
「いいえ、できるわよ」
「何せ私たちはすでに、新設された『LGBT保護法』によって、あらゆる場面において、間違い無く『女』であることを認められているのですからね」
「我々の肉体が男のものだからって、『女相撲リーグ』への参加を拒めば、あなたは『差別主義者』の烙印を押されるだけでは無く、下手したら『不法行為』として処罰されることになるわよ?」
フェミニストであるこの私が、『差別主義者』ですってえ?
「──ッ、そうか、そういうことか! あなたたち、『キョウカイ』からの刺客でしょう⁉ 『LGBT』であるのはあくまでも見せかけだけで、私たち女性のための『女相撲リーグ』を(事実上の)男たちで乗っ取って、有名無実化することを目的にしているに違いないわ!」
「さあて、何のことやら」
「ちょっと、変な言いがかりは、やめてちょうだい」
「もはや国際的にも『LGBTアスリート』の存在と権利は認められているんだから、滅多なことは言わないほうがいいわよお?」
「──ふざけるな! 私たち『フェミ工作員』のバックには、『中つ国』の共産党政治局と、世界的スポーツ用品メーカーの『
「ああ、ご愁傷様、『
……………………え。
「──ちょっ、ちょっと! 『
「あらあなた、ニュースを見ていなかったの? 中つ国内の『
「そうそう、なぜか人民解放軍の正式な武器を完全装備した、少数民族のゲリラ兵によってね」
「──ていうか、ひょっとして人民解放軍の正規兵士が、少数民族になりすましていたりしてねw」
「ど、どうして人民解放軍が、『
「『
「中つ国の上層部の、『虎の尾』、ですって?」
「ほら、ほんのこの間、それこそあなたたちのような国内の『フェミ勢力』を
「……それがどうしたのよ? 確かに現在の日本においては、ほぼ完全にあり得ないほどに、あまりにも時代錯誤な価値観に基づいているとは思うけど、取り立てて問題にする必要は無いのでは?」
「日本国内では、ね」
「でも、中つ国においては、どうでしょうねえ?」
「特に『為政者』にとっては、『古傷』が痛むんじゃないのお?」
…………あ。
「そ、そうか、『一人っ子政策』か⁉」
「その通り! 日本なんかよりも更に古い価値観に囚われていた、『過去の中つ国』においては、国家統制的に子供を一人しか儲けることができない状況にあって、そのためどうしても『男児』ばかりが望まれることになり、もしも出産前の検査等で『女児』を授かったことが判明した際には、両親がつい落胆してしまったとしても、一概に責めることはできないでしょうよ」
「しかしあくまでもそれは、『昔の話』に過ぎず、すでに中つ国においては『二人っ子政策』が採られており、更に今年に至っては、『三人っ子政策』さえも発表されたばかりなの」
「──つまり、『中つ国』自体すでに己の過ちを認め、ちゃんと法令を改正したというのに、今更になって『古傷をえぐる』ようにして、『現在の手のつけようが無い少子高齢化は、おまえら党政治局の失策のせいだ!』と言わんばかりの、『反中ヘイトCM』を全世界公開したりするんだから、激昂するなと言うほうが無理な話でしょう」
「その結果、中つ国の日本社会システム破壊工作の現場においても、あんたたちのような『フェミ勢力』は完全に切り捨てて、これまで以上に私たち『LGBT勢力』の躍進に、力を注いでいくことを決定なされたようですので、今後あなたたち『フェミ勢力』は、『中つ国』のバックアップを期待したところで、無駄ですからね?」
「……わ、私たちが、『
「──と言うことで、さっさと勝負と参りましょう!」
「これが、あなたたち『フェミ力士』が、『女相撲リーグ』において取り組みを行う、最初で最後の
「ああ、わかっていると思うけど、あなたが負けた場合、もはや『工作員』としての利用価値がまったく無しってことになって、『
そうして、私たち『フェミ力士』にとっての、最後の取り組みが、
──否、
文字通りの、一方的な『屠殺ショウ』が、
絶望的状況の中で、開始されたのである。
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