第714話、【緊急提言】わたくし、『LGBT』保護の『落とし穴』に気づきましたの⁉(前編)

「──裁判長、我々今回の裁判に『陪審員』として選ばれた一同は、被告人ツーカイ=リャントウに対して、『同性婚法』規程違反の『ホモ詐称』の罪により、懲役10年の刑を求刑いたします!」




 エイジア大陸極東海上に浮かぶ、弓状列島神聖皇国『旭光ヒノモト』。


 その首都『アズマノミヤコ』の高等裁判所の大法廷にて響き渡る、民間陪審員を代表する男性の断罪の声。




 ……しかし、そのすぐ目の前の被告席にだらりとたたずんでいる、三十絡みのいかにも軽薄そうな男のほうは、あたかも他人事であるかのようにニヤニヤと笑みを浮かべるばかりであった。




「──はあ? 俺を罪に問うって、そんなことできるわけが無いだろうが、何をとち狂ってんだよ? 俺は何の罪も犯していないし、何よりもこの国の法律が、俺を守ってくれるはずだぜ?」




「「「なっ、何だと⁉」」」




 神聖なる法廷の場での、あまりにもふてぶてしい態度と不遜極まる言い草に、つい激昂して口々に非難の声を上げる、選ばれし高潔なる名士ばかりの陪審員一同。




「き、貴様、我々を愚弄するつもりか⁉」


「貴様は重大なる、法律違反の現行犯だぞ!」


「男同士で『同性婚』をして、『LGBT保護法』によって、男女の夫婦と同等──いやむしろ、それ以上の優遇処置を散々受けておきながら、不倫を…………しかもよりによって『女性』と不倫をするとは、一体どういう了見なんだ⁉」


「つまり貴様は、ホモでもゲイでも無かった──すなわち、『同性愛者』では無かったってことか⁉」


「だったら、貴様が『同性婚法』によって得た利益は、すべて『不法取得』と言うことになるだろうが⁉」


「もちろんもはや貴様には、『LGBT保護法』は適用されないからな!」


「貴様こそは、同性愛者の面汚しだ!」


「せっかくの『LGBT保護法』が、台無しだ!」


「これより世間は再び、性的マイノリティに対して、不信の目を向けることだろう!」


「これまでの我々知識層や活動家を始めとする、関係者の苦労も水の泡じゃないか⁉」


「そもそも貴様は、『同性愛者』を騙って、何を目的にしていたのだ⁉」


「元々女性を愛せるのなら、『男女の夫婦と同等の法的利益の享受』ではあるまい?」


「むしろ、我が皇国の平穏なる夫婦制度──ひいては、世界に誇る『戸籍制度』を、破壊するためではあるまいな?」


「貴様が『ホモ婚』をした相手は、我が国指折りの名家の跡取り息子だと言うことだし」


「……まさか、折を見て、御曹司を亡き者にして、戸籍どころか家そのものを、乗っ取るつもりだったのでは無かろうな?」


「何せ『同性婚法』の制定により、たとえ同性でも後継者の配偶者であれば、死亡者の家督を受け継ぐことができるようになったのだからな」


「しかも、莫大なる、遺産付きでな」


「更に何よりも問題なのは、『同性婚』なので、亡き御曹司の血の繋がった子孫が残されないことだ」


「それどころか、貴様が浮気相手の女性と正式に婚儀を結び、子供をこしらえれば、何とそれ以降は、名家は完全に貴様の血統が引き継いでいくことになるのだからな」


「これでは完全に、『乗っ取り』そのものでは無いか⁉」


「そういえばおまえは、『外国籍』だったな」


「確か、かの悪名高き、『毒亜ドクーア三国同盟』の出身かと」


「……もしや、最初から我が国の名家を乗っ取るために潜入してきた、毒亜ドクーア中央政治局ご自慢の、噂の凄腕『同性愛ハニトラ工作員』ではあるまいな⁉」


「──だが、残念だったな!」


「つい我慢できず、女と事に及んだのが、運の尽きよ!」


「貴様はこれ以降同性愛者とは認められず、『同性婚』状態が解消されるとともに、『LGBT保護法』さえも、まったく受けられなくなるのだからな!」




 そのように自信満々に締めくくる、陪審員の皆様。


 ──さて、そんな貴重なるご意見を踏まえた上での、裁判長殿による、正式なる判決はと言うと、




「静粛に! これより判決を言い渡す! 被告ツーカイ=リャントウ、貴殿に対する訴訟内容を、各種法令に則り詳細に吟味した結果、無罪であることを認めるものとする!」




「「「………………………は?」」」




 あまりにも予想外な言葉を突きつけられて、呆気にとられる、首都指折りの名士たち。


 それに対していかにも揶揄するような、飄々とした声音。




「さすがは裁判長さんだな、どこかの名ばかりの陪審員どもとは違って、法律のことをちゃんとわかっておられる。…………ほんとおまえら、『LGBT保護法』というものを、きちんと理解しているのか?」




 それは言うまでも無く、たった今無罪判決を勝ち取ったばかりの、他称『毒亜ドクーア三国同盟から遣わされた、凄腕同性愛ハニトラ工作員』氏であった。


 その一言でたちまち息を吹き返し、口々に怒声を上げ始める、陪審員たち。


「な、何だと⁉」


「我々が、『LGBT保護法』を、理解できていないだって?」


「そんなことが、あるものか!」


「これは判決のほうが、間違っているのだ!」


「『同性婚法』の規程に明確に違反してしまった貴様が、これ以降『LGBT保護法』によって守られるはずが無いではないか⁉」




「……おいおい、『LGBT保護法』は、その名の通り、『L』や『G』なんかの同性愛者だけでは無く、『B』つまりは『両刀遣いバイセクシャル』も範囲に含まれるんだろうが? 確かに俺は『ホモ婚』をしたけど、別に『G』──つまりは、『男性だけしか愛せない』とか言った覚えは無く、『B』として普通に女を愛しても文句は無いだろ? 一応『不倫』と言うことで、道徳的に問題があるけど、そもそも『浮気を処罰する法律』なんか存在していないし、それに対して『同性婚法』自体はちゃんと『B』にも適用されるから、結婚した時点では法的にまったく問題無く、法的利益をいくら享受していても、後からになって『不法行為』の誹りを受ける筋合いは無く、しかも『B』であると言うことは『G』と同様に、依然変わらず『LGBT保護法』の適用を受け続けることになるので、少なくとも『B』である俺に対して、『同性婚法』を悪用してこの国の名家の乗っ取り工作を行ったなどと『言いがかり』をつけようものなら、むしろおまえらのほうこそが、『法律違反の差別主義者』と言うことになるんだよ」




「──なっ⁉」


「だ、だが貴様が、毒亜ドクーア三国同盟の国籍であることは、間違い無いだろうが⁉」


「それがどうした? まさか外国人がこの国において、『同性婚』ができなかったり、『LGBT保護法』の適用を除外されたりするとか、言い出すつもりじゃないだろうな? それこそ皇国民の言論を統制してでも外国人の権利を優先する、『ホリノウチ石鹸王国市役所条例』違反を問われてしまうぜえ? ──それとも、俺様が毒亜ドクーアの工作員だという、確かな証拠でもあるのかよ?」


「「「──うぐっ!」」」




「まあ、恨むんだったら、戸籍制度を始めとする、この国古来の社会システムをしっかりと守ろうと為せず、おまえらの言うところの『毒亜ドクーア三国同盟の工作員』どもによる、『ジェンダー世論操作』にすっかりと騙されて、『同性婚法』とか『LGBT保護法』とか『夫婦別姓制度』とか言った重大なる法案を、まともに審議もせずに成立させてしまった、過去の政策担当者どもを恨むんだな」



















メリーさん太「……何だよ、これって?」


ちょい悪令嬢「何って、見ての通りですけど?」




メリーさん太「──見てもわからないから、聞いているんだよ⁉ 一体何をいきなり、無茶苦茶危ない【作中作】なんかを、ブチかましているんだよ⁉」




ちょい悪令嬢「そうですね、これだとあまりにも『インパクト優先』にし過ぎてしまって、少々説明不足かも知れませんね。──そこでこれ以降は、論点を極力シンプルにまとめた、【補足説明】を行っておくことにいたしましょう」




メリーさん太「……まず何よりも問題なのは、『同性愛者』というものの認識が、世間と実態とでは、大きく異なっていることだよな?」




ちょい悪令嬢「そうです、普通『同性愛者』と言うと、絶対に異性を受け付けず、死ぬまで『同性愛者』であり続けるものと思われがちですが、肉体的か精神的かにかかわらず、異性を愛することも絶対にあり得ないとは言えないし、もちろん他人がそれを止めることも、批判することも、けしてできやしないのですよ」




メリーさん太「そうなると、『同性愛者とは一体何なのか?』といった風に、『同性愛者の定義』があやふやなものとなってしまい、『同性愛者なんて、普通の人間と大した違いは無く、別に特別に保護する必要なんて無いんじゃね?』ということで、『同性婚法』とか『LGBT保護法』そのものが根本から否定されて、『同性愛者』の存在自体を全否定されかねないよな」




ちょい悪令嬢「──ところがどっこい、まさにその『LGBT』の中には、いわゆる『両刀遣いバイセクシャル』である『B』が含まれているのであり、『ホモ婚』をした男が女に手を出すという、常識的に考えれば『立派な裏切り行為』が、非常識極まるジェンダー世界においては、『ホモと思っていたら実は両刀遣いだったからセーフ☆』になってしまうという、この上なき御都合主義っぷりなのでございます」




メリーさん太「何だよ、それって? そんなんじゃもう、『同性婚』でも『同性愛』でも無いだろうが? それとも『両刀遣い』って、『同性愛者』の一種で、『同性婚』の対象になり得るのか?」




ちょい悪令嬢「そもそも『同性愛者』の定義自体が定かでは無いので、そこのところは何とも言えないのですが、少なくとも『LGBT』内において、同性愛者である『LG』と両刀遣いである『B』とは、のですよ」


メリーさん太「え、そうなの? こいつらって、同じ『性的マイノリティ』として、仲間じゃ無かったのか?」


ちょい悪令嬢「実際上においても(本作でたびたび言及しているように)論理上においても、本来は厳然たる差異は無いはずなのですが、あえて『LG』と『B』とに分けていると言うことは、それこそ世間一般の『LGBT観』としては、『真逆』と言っていいほどの明確なる差異があるのです」


メリーさん太「ま、真逆って、そんなにか⁉」


ちょい悪令嬢「世間一般的なイメージでは、レズやホモは未来永劫同性しか愛せない『差別主義者』であり、両刀遣いは男でも女でもイケる、『節操無しのクズ野郎』と言ったところですかね」


メリーさん太「──『LGBT』の世間一般のイメージって、割と容赦はねえな⁉」


ちょい悪令嬢「ちょっと誇張してしまいましたが、『LG』と『B』とが、相容れないのは、良くわかっていただけたかと存じます」


メリーさん太「そんなに違うんじゃ、『ホモ婚』した男が、後からになって女に手を出しておいて、『実は俺って、両刀遣いだったのでした★』とか言い出したりしたら、けして許せないよな⁉」


ちょい悪令嬢「憲法における、『内心の自由』や『いかなる差別の禁止』を鑑みれば、非難することはけして許されないでしょうが、その一方で、あえて『同性婚法』なんかを制定して、わざわざ保護してやる必要だってありませんよね」


メリーさん太「下手にそんな法律を制定したところで、別にホモでも無いやつらが『偽装結婚』という形で、『ホモ婚』をしかねないしな」


ちょい悪令嬢「しかも(次回以降に詳しく述べる予定ですが)、外国勢力の工作員による、日本の家系の乗っ取りや、社会システムそのものの破壊に利用されたんじゃ、目も当てられませんしね」


メリーさん太「……まあ、こんな体たらくじゃ、『同性婚法』や『LGBT保護法』なんて、文字通りに『百害あって一利無し』なんだから、絶対に制定させちゃ駄目ってことは確かだよな」







ちょい悪令嬢「つまり一言でまとめると、たとえ『ホモ婚』をしていようが、男性である限り、女性とも関係を結べるのであり、しかも『両刀遣い』は『LGBTの保護』の適用範囲内なのだから、いくら女性と浮気しようとも、責められたり処罰されたりしないということで、何と『LGBTの保護』が存在することによって、『同性婚』の理念自体が形骸化されかねないという、相互矛盾的な関係にあって、これらを両方共強引に法律化してしまうということは、文字通りに『重大なる法的瑕疵』に他ならず、絶対に認められないってことなのですわ♡」







(※更に詳しい解説は、次回以降二回にわたって行う予定です)

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