第643話、わたくし、『LGBT転生』いたしますの⁉

「──もはや、我慢なりませんわ!」




 魔法大国ホワンロン王国の王都にそびえ立つ、王城『スノウホワイト』を取り囲んでいる、七支塔セブン・リトルズうちの『七の塔セブンス・リトル』──人呼んで、『国会議事堂』棟。


 その最上階に設けられた、瀟洒なサロンにて、




 ──一人の少女の時ならぬ、金切り声が鳴り響いた。




「どうしてわたくしたちばかりが、このような屈辱を強いられるの! ──ねえ、そう思われるでしょう、皆様⁉」


 それは、ひときわ豪奢なドレスで着飾っている、タチコ=キネンシス公爵令嬢による、室内の中央に置かれている円形のテーブルを等間隔に座している、同じく可憐なドレス姿の少女たちへの、問いかけの言葉であった。


「そ、それは」


「…………」


「──くっ」


 しかしそれに対して、悔しそうな顔をして口ごもるばかりの、美しき王女たち──ヨウコ=タマモ=ヒノモト公爵令嬢に、ユーフォ=ニアム公爵令嬢と、メア=ナイトウ公爵令嬢。


「……ええ、皆様のお気持ちも、よくわかっております。我らは現在、公爵家の令嬢としての身分を与えられているとはいえ、元々は敵国の王家の末裔。本来ならこの王国において発言権を与えられるはずも無い、『外様』の身。こうして形ばかりではあるものの、各公爵家の娘たちに『国会議員』として役職を担わせて、国政に参加させていただくだけでも、心から感謝しなくてはならないところでしょう。──しかし、それでもです!」


 そして、一瞬だけ間を置いた後に、烈火のごとく吠え立てる、元お姫様。




「国会議員に『殿方』を参加させるとは、一体どういうことですの⁉ ここはわたくしたち公爵令嬢にとっての、最後の砦だと言うのに!」




 サロン中に響き渡る、裂帛の怒号。


 さすがにこれ以上無制限にボルテージを上げられても困るので、ようやくなだめ始める他の令嬢たち。


「し、しかし、タチコ様」


「彼らのおっしゃる『男女平等』は、一応のところ、理に適っているではありませんか?」


「むしろそれを否定してしまうと、女性である我らのほうが、不利になりましょうぞ」


 それらはあくまでも、相手の顔色を窺いながらの、努めて穏やかな口調であった。


 しかし結局は、火に油を注ぐだけであったのだ。




「──何が、男女平等ですか! 今度このたび新たに参加予定となっている男性議員たちは、地方領主の子息というのは名目だけで、ほとんどは各大臣の肝いりの官僚経験者ばかり。──つまり、実務面で秀でている彼らによる、事実上の『国会の乗っ取り』であり、わたくしたち公爵領代表議員の発言権はますます低下して、すべては王政の意のままになるばかりではありませんか⁉」




「「「──ッ」」」




「……それで無くても、行政権と司法権は、完全に王政に独占されていて、『三権分立』なぞ名ばかりだと言うのに、この上国会における立法権まで奪われてしまえば、わたくしたち公爵領は、王権に搾取され放題となってしまいますわ! ここは何としても、国会の独立性を守り抜かねば!」




「──とは、おっしゃいましても」


「もとより、我々元敵国の王女には、拒否権なぞあろうはずも無く」


「王政の決定に、従う他はありますまい」




 一人だけ焦燥感を募らすばかりのタチコ嬢に対して、いまだ煮え切らない態度のままの、他の公爵令嬢たち。


 その様子を見て、ついに意を決し、


 ──けして切ってはいけない『切り札』を、切ってしまう、筆頭公爵家令嬢。




「いいでしょう、女ばかりの国会が差別的だと言うのなら、わたくしたちが男になってやろうではないですか?」




「「「………………………は?」」」




「ちょ、ちょっと、タチコ様?」


「今何と、おっしゃいました?」


「殿方になるなんて、そんな馬鹿な⁉」




「それがそうとも、言えないのですよ。『あちらの世界』のゲンダイニッポンと言う国には、反政府的な売国奴議員どもがなぜだか存在を許されていて、やはり国会に無理やり『男女平等』を持ち込もうとしているのですが、それに対するカウンターパンチとして、これまた売国奴議員どものお家芸である『LGBT』をぶつけてやることこそが、最良の策と言われているのです」




「「「えるじーびーてぃー?」」」


「『L』がレズで、『G』がゲイで、『B』が両刀遣いバイで、ございます」


「「「──きゃあああああ♡♡♡」」」


 ……何その、『シャンデリア百合心中』の場で、『クレイジーサトコレズ』を目の当たりにした、おハイソな女学生のような反応は?


「──あら? そうすると、残りの『T』は、一体何ですの?」


「それこそが今回の秘策であって、たとえ身体が女性であっても、自己申告で『それがし、心は男でござるッ!』と申し出るだけで、何と男性として認められることになりますの」


「何ソレ?」


「ま、まさか⁉」


「そんなもの、ただの『ペテン』ではありませんか⁉ 頭の狂った売国奴議員どもが幅を利かせている、『あちらの世界』の国会はどうだか知りませんが、常識あるこのホワンロン王国においては、まかり通るわけが無いでしょう⁉」




「ペテンですって? とんでもない! よその世界の売国奴議員どもの反国家的活動なんかと、一緒にしてもらっては困りますわ。──お忘れになられまして? この世界は、錬金術でも召喚術でも何でもアリの、剣と魔法のファンタジーワールドですのよ?」




「「「──‼」」」




「……召喚術、って」


「ま、まさか」


「本当に、『中身ココロ』だけ、殿方になるおつもりですの⁉」




「──そう、わたくしたち公爵令嬢議員は全員、『あちらの世界』から歴史に名を残す優秀なる男性政治家たちの魂を、この身に転生させることによって、『LGBT』的にれっきとした男性になると同時に、王政すら凌ぐ政治手腕を発揮することで、王権による独裁を阻止するのでございますわ!」














メリーさん太「……何よ、これって?」




ちょい悪令嬢「もちろん、今回の『ネット小説大賞』へのエントリー作品の、【試作版プロトタイプ】ですよ」




メリーさん太「……ああ、前に言っていた、『LGBT転生』ってやつか」




ちょい悪令嬢「本当は前回の続きとして、某ガヴィ国首都『セクハラ市長魂特別市』において、相も変わらずガヴィ国人どもが、『滅星重工製品不買デモ』をやっているところに、滅星製のエンジンが供給されなくなると倒産の憂き目に遭ってしまいかねない、『ヒ○ンダイ』社製の自動車が大挙して突っ込んできて、阿鼻叫喚の地獄絵図になるといったエピソードを予定していたのですが、あまりにもしつこ過ぎるので今回のに差し替えたのでございます」




メリーさん太「──当然だよ! 下手したら今度こそ、『国際問題』待ったなしだったよ⁉」




ちょい悪令嬢「まあ、せっかく思いついた『LGBT転生』なのですし、こうして一度作品にしてみたほうが、反省点のみならず、いろいろと有益な『新たなるアイディア』さえも、得ることができますしね」


メリーさん太「……確かに、単に現実問題の『映し鏡』にするのでは無く、あえて皮肉たっぷりに、デフォルトを『女性上位の国会』にしつつ、王国内の『外様差別』問題をもフィーチャーすることによって、世界観に厚みをもたらすところなんかは、なかなか興味深いよな」


ちょい悪令嬢「『なぜ女性ばかりの議会なのか?』に、ちゃんとした理由が無いと、あまりにも『薄っぺらく』なってしまい、とても長期連載に耐えられませんからね」


メリーさん太「今季のコンテスト向けの最大のテーマである、『なろう系の復権』についても、最後の最後に『異世界転生』をヒロイン自ら『切り札』扱いしたことで、いい感じに印象づけているしな」




ちょい悪令嬢「──と言うわけで、本作『LGBT転生』(仮題)については、現在鋭意作成中ですので、本編が公開された暁には、是非ともご一読のほど、よろしくお願いいたしますわ♡」

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