第625話、わたくし、この聖なる日に、心臓(型チョコレート)を捧げますの♡
ここは二月某日深夜の、異世界某国のお嬢様学園『リリィーアンアン』高等部の、寄宿舎の一室。
魔法大国ホワンロン王国からの留学生である、
「──ああ、アルテミスお姉様、ようやくお目覚めですの?」
最初に目に入ったのは、縦ロールの
「……
「嫌ですわ、お姉様、
「──いや、
そのようにまくし立てながら、ベッドに横たわったままの上体を、起こそうとしたところ──
「うぐっ⁉」
耳障りな金属音とともに、首元と手首と胴体とに、激痛が走った。
「──なっ⁉」
見るからにごつく頑丈そうな金属製の鎖で、ベッドへと繋ぎ止められていた、頭部と四肢と胴体。
──そして、ゆっくりと剥ぎ取られた毛布の中からさらされる、一糸まとわぬ幼い肢体。
「……これは、一体」
「アルテミスお姉様が、悪いのですよ?」
「え?」
「せっかくご一緒に憧れのリリィーアンアン女学園へと留学できたと言うのに、お姉様お一人だけ、由緒正しき『
「──やめろ! この作品は『オリジナル』だと、何度言えばわかるんだ⁉」
「おほほほほ、冗談でございますわよ、冗談」
「あんた生粋のお姫様だけあって、『お嬢様言葉』だし、
「──それはもちろん、ヴァレンタインデーだからに、決まっているではございませんか?」
………………………は?
「おや、何をさも意外そうなお顔を、なさっているのです?」
「い、いや、ヴァレンタインデーって、確か一昨日だったんじゃないの?」
「それはほら、当日においてはいろいろと災害が起こって、被害に遭われた方も大勢おられることですし、このような不謹慎な作品を広く公開するのは、さすがにあのアホ作者でも、はばかれたようでして」
「──不謹慎という自覚があるのなら、そもそも作成したりするなよ⁉」
「そう言わずに、
「この素っ裸で、ベッドに繋がれた状態でか⁉」
「まあまあ、お気になさらずに、これも『演出』の一つに過ぎませんので」
「──気にするよ! それに何だよ、『演出』って⁉ 一体どこの世界に、お姫様が悪役令嬢を裸に剥いてベッドに縛りつける、ヴァレンタインデーの演出があるって言うんだよ⁉」
「? 現在の日本の乱れきったヴァレンタインデーにおいては、恋人同士の間で、こういった『趣向』を凝らすこともあり得るのでは?」
「──うっ」
……た、確かに、そう言われてみると、けして皆無とは言えないぞ?
クリスマスにおける、聖夜ならぬ『性夜』のイベントといい、どこまで西洋文化を愚弄すれば気が済むんだ、現代日本人は⁉
「西洋文化ならぬ、『性用』文化だったりして♡」
「やかましい! 勝手に人の心を読むなよ⁉ それにそもそも
「──大丈夫です、今宵こそ
「うぐっ⁉」
ほんの目と鼻の先の至近距離で、
──ひいいいいいいいいいいいいいいいっ⁉
本気だ、
ヤツは、本気だ!
……
今夜、
「くくくくく、そう怯えなくてもよろしいでしょうに。ご安心をお姉様、『お楽しみ』は
そう言って差し出された、それまでずっと背中に隠されていた、彼女の右手に握られていたのは、
「──ちょっと何ですのその、真っ白い箱の中から真紅の液体を垂れ流しながら、ドクドクと脈打っている、いかにも物騒な物体は⁉」
「え? もちろん
「それもう、ハート型と言うよりも、ガチで丸ごと『心臓』が入っているんじゃないのか⁉」
「ちゃんと、チョコレートソースも添えておりますので、『
「──はっ! そ、そういえば、同室のユーちゃんはどうしたのです⁉ こんな真夜中だというのに、何でお姿が見えないのですか⁉」
そうなのである、ふと気がつけば、隣のベッドは、もぬけのからであったのだ。
「ベンジャミン公国の世継ぎの姫君、ユーディ=ド=ベンジャミン殿下におかれましては、このチョコレート作りにご協力いただきましたの。──主に、『材料』として☆」
「──つまりその心臓は、ユーちゃんのかああああああ⁉」
「……
「第三者をダイレクトに巻き込んでいる時点で、もうあんた『ひぐ○しのなく頃に業』の沙○子ちゃんを、完全に凌駕しているよ⁉ どうしてそこまでガチの、『猟奇系ヤンデレキャラ』になっちまったんだ⁉」
「実は今回のヴァレンタインデーに合わせるようにして、『ひぐ○し』だけでは無く、『スクールデ○ズ』や『BL○○DーC』や『鷲○須美は勇者である』等々の、無料全話配信が始まって、時ならぬ『鬱系グロアニメ祭り』となってしまったのございますわ!」
「どうしてヴァレンタインデーに、そんな嫌がらせをするの⁉」
「そりゃあ、ユーザーのニーズに合わせた結果ですわよ。そもそもヴァレンタインデーやクリスマスにおいて、動画サイトのアニメチャンネルにアクセスするような方々って、全員が全員、非モテ──」
「──それ以上は、いけない!」
「……とにかくお姉様は、この特製チョコレートを召し上がりになって、ユー様と永遠に決別なされれば、それでよろしいのですわ!」
「いやむしろ、身も心も一体化しそうなんですけど⁉ それはそれでカニバリズム的に、絶対嫌あああああああああ!!!」
「あ、こら、無駄な抵抗をせず、
「うわっ、血糊が口に入りそうになった! ──もうこれある意味、『
そのように
──まさに、その刹那であった。
「……いい加減、うちの心臓で、遊ばないで欲しいんやけど?」
唐突に室内に響き渡る、第三の声。
振り向けば、そこにいたのは、
「…………ユー、ちゃん?」
そう、入り口近くの暗がりにいつの間にかたたずんでいたのは、
──これ見よがしに目に飛び込んでくる、真っ赤に染め上げられた、純白の夜着の胸元。
「「嫌あああああああああああああ、オバケええええええええええ!!!」」
思わずベッドの上で抱き合って絶叫する、ホワンロン王国出身の二人。
「コラ、真夜中にそんな大声出したら、ご近所迷惑やろが?」
そのように『異世界関西人』らしく、ボケながら近づいてくる、ユーちゃん。
「ご、ごめんなさい! 心臓をくりぬいたりして、申し訳ございませんでした! だからこっちに来ないでええええええええ!!!」
「ゆ、ユーちゃん、幽霊なの⁉ それともゾンビなの⁉ 悪役令嬢なのに関西弁で、しかも米軍シールズ仕込みの戦闘能力を誇るミリタリィガールでありながら、その上更に、『属性』を増やすつもり? どこまで欲張りなのよ⁉」
もはや完全に気が動転して、あらぬことばかり口走り始める、三の姫と
それに対して、またしても予想外のことを言い出す、目の前の血まみれの少女。
「は? 幽霊? ゾンビ? 何を言っているんや? うちはちゃんと、生きているで?」
「「………………へ?」」
呆気にとられる
「生きている、って……」
「心臓をえぐり出されているのに、ですか⁉」
「うちら『六甲の民』が、心臓が無くなったくらいで、死ぬはず無いやろが!」
「「六甲の民?」」
「そうや、六甲──すなわち、第六号重機甲兵器『ティーガー』を、すべてに優先して信奉している、うちら異世界関西人のことや! 我々『
「「結局今回も、『進○の巨人』ネタかよ⁉」」
「──コラあっ! 何が『巨人』や、ワレえ!
「『進○』と『タイガース』と『ドイツ軍』との三つのネタを使って、これほどまでにガッチリと
「……二次創作では無く、あくまでも『引用』な? それにしても、ユーちゃんの本編途中からのいきなりの『関西人設定』って、こういう時のための伏線だったのか⁉(違います)」
「ごちゃごちゃ言っていないで、うちの心臓、返してんかあ?」
「「あ、はい、どうぞ!」」
「うん、さすがにこのまま胸に埋め込むだけじゃまずいから、学園のほうの医務室行ってくるわ。うちが帰ってくるまでに、ちゃんと室内の血糊とか掃除しとくんやで?」
「「はっ、仰せのままに!」」
そう言って最敬礼する
……その
「──いや、
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