第591話、わたくし、「異世界自衛隊、結成!」ですの☆

「──隊長、三角諸島への上陸、全小隊とも完了!」


「全周において、敵影、皆無ナシ!」


「第1段階フェーズ達成クリア!」




 新年もまだ明けたばかりの深夜の、エイジア大陸極東海上にぽつんと浮かぶ小島の連なり、人呼んで『三角諸島』。


 本来は弓状列島国家『旭光ヒノモト』の領土のはずだが、たった今夜陰に乗じて上陸してきた多数の強襲艇は、すべて大陸東部の覇者『中つ国』の、コミー猪豚オーク解放軍の物であった。


 2メートルほどもある屈強なる人間型の体躯の上に乗っている、猪豚の頭部。


 ──黄色オーク。


 中つ国の支配階級にして、個体数十億にも上る、東エイジア大陸最多の種族。


 獰猛にして狡猾、しかも好戦的という、周辺諸国にとっては、『迷惑』以外の何者でも無い存在。


 現在も、強大な軍事力と兵員数とに物を言わせて、他国の領土にずかずかと土足で乗り込んできたわけだが、




 ……何だか、様子がおかしかった。




「──ほ、ほんとだな、誰もいないんだな⁉」


「隊長?」


「そ、そんなこと言っておいて、大昔の軍服を身にまとって旭光ヒノモト刀を手にした、鬼族兵とかが出てくるんじゃないだろうな⁉」


「はあ?」


「お、俺は騙されないぞ! もう二度と、あんな怖い目に遭うのは、ごめんだ!」


「ちょっと、隊長、落ち着いてください! 本当にこの島には、我々以外には、長命種族はいませんから!」


「ほ、ほんとか?」


「ほら、我が国が開発に成功した本格的な量子コンピュータを活用した、この『生命体探知マシン』に、我々以外の反応がまったく無いでしょう?」


「……ああ、うむ」


「これ以上疑われるおつもりなら、中つ国の誇る技術に不信感を有する、『不穏分子』の疑い有りと、党中央政治局に報告しますからね!」




「わかった、わかったから! 党への告発だけは、やめてくれ! ──しかし、そうか、今度こそ、作戦は成功したんだな! もうこの島は、我々コミー猪熊オーク解放軍のものなんだな⁉ 勝った、勝った、我らの勝利だ!」




「「「──この隊長、手のひら返しが、はえええええ⁉」」」




 一体何のトラウマを抱えているのか(※第537話、【ハロウィン特別編】『わたくし、三角諸島で大決戦ですの⁉』を参照)、異様に旭光ヒノモト兵の存在を恐れていた、一際巨大な3メートルほどもある隊長殿であったが、自国の最新技術の結晶である量子コンピュータを引き合いに出されたことで、ようやく気を取り直したようであった。


「よ、良し! 実効支配開始の証しとして、『五芒紅旗』を立てるのだ!」


「「「イエッサー! 我が『紅の猪豚ポルコロッソ旅団』に、栄光あれ!」」」


 オーク兵たちが今にも、中つ国及びコミー解放軍の象徴である、十億頭を超える人民の生き血を吸い尽くしたかのように真っ赤な五芒紅旗を、三角諸島の大地に突き立てようとしたまさにその時、


 突然その場に鳴り響く、涼やかなる声音。




「──おっと、その薄汚い紅い旗を立てるのは、ちょっと待ってくださらない?」




「「「なっ⁉」」」


 部隊全員で振り向けば、そこには場違いにも甚だしい、漆黒のネオゴシックのワンピースドレスに小柄で華奢な肢体を包み込んだ、幼くも妖艶なる人類ヒューマン族の少女がたたずんでいた。




 長い黒髪に縁取られた端整なる小顔の中で、月光を浴びてギラリと煌めく黒曜石の瞳。




「──そ、そんな馬鹿な⁉」


「半径5キロメートル以内に、生命反応はまったく無かったはずだぞ⁉」




「そりゃあ当然でしょう、だって私は、『生きていない』んですもの」




「「「は?」」」


「あらあ、ご存じないかしら? 私は『不死者アンデッド』──」


「「「──‼」」」


 一斉に顔色を変える、歴戦のオーク兵たち。


 それ程『不死者アンデッド』は、戦闘の場において、この上無き『脅威』であったのだ。


 何せ文字通りに『不死』であるので、生半可な攻撃を与えたところで、ほとんど効き目が望めないとともに、体力は最初から尽きており、『魔法』や『呪い』の類いで動いているので、無限に戦えるのである。


 たとえゾンビやスケルトンのような、ただの不死者アンデッドが一体のみ、敵軍の中にいるだけでも、勝機がほとんど無くなると言っても、過言では無かった。


 そう、『ただの』、不死者アンデッドであってもだ。




 しかし、彼女の言葉には、『続き』があったのだ。




不死者アンデッド…………………………の、王、『リッチー』なのだから♫」




「「「──ッ⁉」」」




「さあ、甦れ、我が眷属たちよ!」


 自ら『不死者の王ノーライフキング』を名乗った、漆黒の少女が、


 両腕を天に向かって、高々と突き上げれば、


 それに応じるようにして、


 小さな島中の地面から、


 まるで彼女を真似るかのごとく、




 ──無数の腕が、突き出てきたのであった。




「ひいっ⁉」


「な、何だ、これは⁉」


我が国特有のゾンビキョンシーか⁉」




「──今から80年ほど前に、あなたたちコミー軍に惨殺された、秘密ウイルス研究所の研究員たちの亡霊よ」




「「「は?」」」


「つまりは、かの高名なる『サイキン大虐殺』の、犠牲者たちってこと☆」


「へ? 『細菌研究都市事件』は、旧旭光ヒノモト軍の仕業のはずだろうが? 何言っているんだ!」




「あなたたちはそのように洗脳されているでしょうけど、真実はコミー猪熊オーク解放軍が、旭光ヒノモト軍はおろか、同じ黄色オーク勢力である国民党軍までも皆殺しにすることを目的として、極秘に開発した『大陸風タイリク・フーウイルス』の研究に従事していた、研究員を始めとする大勢の関係者たちを、ウイルスの完成とともに、すべてを闇の中に葬り去るために、研究所が所在していた『ブーハン省』丸ごと、当のその新型ウイルスを使って、証拠隠滅と実用試験とを強行したって次第なのよ」




「──何だと、かつてのブーハンの細菌研究都市の数十万の人民を殺したのが、我々コミー軍だったなんて、でたらめだ! すべては旭光ヒノモトのでっち上げだ!」


「でたらめでもでっち上げでも、別に構わないじゃ無い。──どうせあなたたちは、今夜ここで死ぬのだから。無敵の不死軍団、我が『アンデッド部隊』を相手にしてね」


 その言葉に思わず周囲を見回せば、すでに地面から這い出ていた泥だらけのキョンシーたちに、すっかり取り囲まれてしまっていた。


『……おのれ』


『コミー主義者どもが』


『その走狗イヌの解放軍めが』


『どうして、同胞である、我々を殺した?』


『しかも、我々自身に開発させた、新型ウイルスの実験体にして!』


『……許さん、許さんぞ』


『コミー主義者どもめが、皆殺しにしてくれる!』




「「「うわっ、近寄るな⁉ こっちに来るんじゃ無い!」」」




 必死に小銃や機関銃で応戦するものの、不死者アンデッドに対しては足止めにもならず、次々に喉笛を食いちぎられて絶命していく、黄色オーク兵たち。




「ま、まさか、神聖皇国旭光ヒノモトが、不死者の軍隊なんて、密かに創っていたなんて⁉ これって明確なる、『憲法違反』だろうが⁉」


「いいえ、そんなことは無いわよ? これはあくまでも『専守防衛』じゃないの?」


「せ、専守防衛って」




「だって、攻めてきたのはあなたたちのほうだし、私たちは仕方なく反撃しただけでしょう?」




「………………………………あ」




「何せこう見えて、私たちもれっきとした『自衛隊』の一部隊なのですからね。『専守防衛』は堅持しなくてはならないの♡」




「何で自衛隊に、絶対無敵の不死者アンデッドの軍隊なんかが、存在しているんだよ⁉ ……………………って、うぎゃあああああああああああ!!!」




 あまりにも理不尽な状況に、堪らずわめき立てる隊長殿であったが、




 ──結局それが彼の、『断末魔』となってしまったのであった。







(※どうして無敵の『不死者アンデッドの軍団』が、『専守防衛』に甘んじているかについては、次回にて詳しくご説明いたします)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る