第585話、わたくし、現実というゲームは、ハズレの選択肢を選ぶべきだと思いますの⁉

『──おめでとうございます! あなたは我がエロゲメーカー『ロック』の、『シナリオライターアニメ脚本挑戦100連敗目』を記念した、特別プレゼント企画の当選者に選ばれました! あなたには現実世界をエロゲやギャルゲにできる『選択肢アプリ』を、今お使いのスマホにインストールして差し上げます!』




 ………………………………は?




 完全無料のスマホ用エロゲ『ナイスボート・ピープル』を、膨大なる時間と労力とをかけて、何とか全ルートクリアを果たしたその瞬間、派手なファンファーレとともに突然聞こえてきた、幼い女の子の声。


 な、何だ、これ?


 現実世界を、エロゲやギャルゲにできる、って。


 新手の詐欺か、何かか?


 ──そのように、僕が呆気にとられながら、画面を見つめていると、




『お疑いはごもっともですが、心配は要りませんよ、へいへいさん』




 なっ⁉


 ……ど、どうして、僕の名前を?


 このゲームを利用するのに、個人情報を登録したりは、しなかったはずなのに⁉


『別に驚く必要はありません、何せ私は、本物の「女神」なのですからね☆』


 へ?




 本物の………………………女神、って。




『だから、この世界を、エロゲやギャルゲそのものにすることなんて、朝飯前なのです』


『もしあなたが、「この子のことをオトしたい」と思った際には、スマホのカメラで対象をディスプレイに映し出しながら、アプリを起動してください』


『その状況下において、彼女をモノにするための、最も推奨する言動か、最も忌避すべき言動かの、どちらかを表示いたします』


『あなた様にご提供するアプリは、どちらか一方だけですので、今ここで選んでください』




 ……何だ、一体?


 その『最も推奨する言動』の通りにすれば、絶対に女の子をオトせると言うのか? そんな馬鹿な!


『もちろん、たった一度の言動で、相手を完全に篭絡できるとは限りませんが、同じ対象に対して何度も何度も、スマホの推奨する言動を続けていけば、必ずモノにすることが可能です』


 ……それじゃあ、もう一つの、『最も忌避すべき言動』ってのは?


『こちらは、たった一度の言動でも、確実に相手から嫌われてしまいます』


 ──駄目じゃん⁉ そんなの絶対選ぶもんか!


『それでは、「最も推奨する言動」のほうでよろしいでしょうか? ──ただし、こちらのほうは効果が絶大で、現実世界の因果律に多大なる影響を及ぼしかねませんので、不用意な濫用は控えられるようお願いいたします』


 も、もちろん、慎重かつ有効に使わせていただきますよ、はい!




『──OK、ではただ今から、インストールを開始いたします』




 そうして僕は、まさしく『女神様からのプレゼント』として、正真正銘本物の『奇跡のアプリ』を手に入れた。




 それ以来僕の学園生活は、ハーレムものギャルゲ(&エロゲ的ガチH要素)そのものとなったのであった。
















 ……そのはずで、あったのだが。




「──ちょっと、平太、これってどういうことよ⁉」


「どうして君には、この私以外にも、『彼女』がいるのかな?」


「……殺す、他の女どもは、みんな殺す。平太は、私だけのモノだから」


「お兄ちゃん、どうして? お兄ちゃんは、私のこと、騙していたの?」


「責任は取ってもらいますからね、私のお腹には、あなたの赤ちゃんが」


「平太、私と二人だけで、『あちらの世界』で幸せになりましょう!(血糊のついた出刃包丁を取り出しながら)」




 ここは、僕が通っている聖スクイズ学園高等部の、1年F組の教室。


 すでに放課後となり、他の教室では生徒の姿は見えなくなっていると言うのに、なぜか今僕の周囲には、いかにも殺気立った大勢の少女が取り囲んでいた。




 ──自称女神様から授かった、謎の選択肢アプリを使ってオトしてきた、僕だけの『ハーレムメンバー』たちが。




 ……どうしてこんなことに、なってしまったのだろう。


 最初はあんなにも、うまく行っていたのに。


 スマホの示す『最も推奨する言動』の通りにすれば、どんな女の子でもオトすことができたし、


 付き合い始めてすぐの段階で、どんなことでも受け容れてくれるようになったし、


 ハーレムメンバーの誰もが、完全に僕に首ったけになって、他の男のことなぞ見向きもしなくなったし、


 どんな命令でも無条件で聞き入れて、金でも何でも用立ててくれたし、




 てっきりこのまま、まさしくエロゲやギャルゲの主人公そのままに、『ラブラブハーレム学園ライフ』を、ずっと続けていけるものと思っていたのに。




 ……ほんと、どうしてこんなことに、なったのだろう?


 この万能アプリさえあれば、恋愛関係では無敵になれるから、何ら考えることも無しに、どんどんと好みの女の子をオトしていっていたら、自分以外のハーレムメンバーの存在に気づいた女の子たちが、今更になって騒ぎ始めたのだ。


 そしてアッと言う間に、本日に至って、ハーレムの崩壊の危機と相成ったのであった。


 ……一体、どういうことなんだ?


 アプリの提示する言動通りにすれば、何もかも無条件で、うまく行くはずじゃ無かったのか?




『……いや、無条件でうまく行くなんて、誰も言っていないでしょう? むしろ、現実世界でエロゲやギャルゲそのままのハーレムルートなんかを目指したら、人間関係が破綻してしまうのは、当然でしょうが?』




 その時唐突にスマホから聞こえてくる、いかにもあきれ果てたかのような、幼い声音。


 咄嗟に画面を覗き込めば、まさにこのアプリをインストールする時にも姿を現した、銀の髪に金の瞳のあたかも天使か妖精そのままな、可憐なる美少女の姿を映し出していた。




 ──その、真珠のごとくつやめく小ぶりの唇に、こちらを見下すかのような嘲笑を浮かべながら。




「……な、何言っているんだよ、今更⁉ あの時おまえはちゃんと、このアプリが推奨する言動を行えば、どんな女の子でもオトすことができて、現実世界をエロゲやギャルゲそのままにしてしまえるって言っていたじゃないか⁉」




『そう、エロゲやギャルゲそのままにできるのは、あくまでもお目当てのなのであって、その後の「フォロー」については当然のごとく、あなたご自身の意思と努力で行っていかねばならないのであり、ほんのちょっとでも対応を間違うと、バッドエンドにもなりかねず、よりによって「ハーレムルート」なぞといった、人道にもとる鬼畜ルートを目指そうものなら、女の子たちから「総スカン」を食らってしまうってわけよ。──そりゃそうでしょう、現実世界でエロゲやギャルゲの主人公そのままに、何の波風も立てずにハーレムなんてつくれるものですか』




「えっ、このアプリが効果を及ぼせるのは、女の子をオトす時だけなの⁉」


『だって、女の子をオトすと言っても、別に催眠術をかけたり洗脳したりするわけでは無く、彼女たちはちゃんと、常に自分の意思を持った現実の存在なのだから、それ以降の対応を誤れば、あなたに対して愛どころか憎しみさえも持つことだって、十分あり得るのよ? ──何せ、この現実世界における物理法則の根本原理である量子論に基づけば、未来というものには無限の可能性があるんだし、女性の気持ちだって、ほんの一瞬後に激変しようが、別におかしくも何とも無いじゃない』




「……そ、そんなあ。このアプリさえ使えば、無条件ですべてうまく行くと思っていたのに! だったらこんなの、まったくの役立たずじゃないか⁉」




『いえいえ、あなたはむしろ、「最も忌避すべき言動」を表示してくれるアプリのほうを、選ぶべきだったというだけの話なのよ』




 ………………………………は?


「な、何でだよ? 『推奨する言動』でもうまく行かなかったのに、『最も忌避すべき言動』のほうを選んだりしたら、最初からまったく望みが無いだろうが⁉」




『……ったく、それはあなたが、自分ではまったく努力をしようとはせず、すべてをアプリ任せにしているからでしょうが? 本来このような「未来の便利道具」そのままのアプリは、あくまでも「補助的」に使うべきであって、まずはあなた自身が己の望みを叶えるために、「不断の努力」をしなければならないのよ? ──ていうか、現実世界でハーレムの実現を目論んだりしたら、ハッピーエンドどころか、人間関係ぶち壊しのバッドエンドまっしぐらになってしまうのは、ほんの子供でもわかりそうなものじゃない?』




「こんな便利なアプリでありながら、何よりも本人の努力こそを、必要にするだってえ⁉」




『「最も忌避すべき言動」のほうのアプリを選択した場合で言えば、「意中の女の子に対するNGワードや行動」が前もってわかるので、常に「致命的な失敗を回避」しつつ、彼女の性格や立場を慮ることはもちろん、「NG言動」をことで、彼女にとって好ましいと思われる言動に努めるとともに、自分自身も不断の努力を重ねて、彼女にとって好ましい人物になれるように磨き上げていくことによって、たとえ時間や労力等の様々なコストが膨大にかかろうとも、けしてあきらめること無く忍耐強く対応していけば、いつかは彼女のあなたに対する絶対的な信頼に基づいた、「真実の愛」を手に入れることができるって寸法よ』




「──なっ⁉ あえてNG言動を逆算することで、相手にとって好ましい対応を心掛けていくだと? そんなことが、本当にできるのか⁉」




『あなたのように、アプリばかりに頼らずに、不断の努力を続けて行けばね。「絶対にしてはいけない致命的な言動」は必ず避けることできるので、気持ちのこもったアプローチを心掛けて行けば、どのような難攻不落の攻略難易度の高い女性であろうとも、いつかは心を開いてくれるわよ。──だって相手はあくまでも、血の通った人間なんだから。エロゲやギャルゲのヒロインキャラのような、単なるプログラムじゃ無いんだから。こちらが真摯な対応をしていれば、きっと想いは届くはずだわ』




「……つ、つまり、僕の『敗因』は、このような便利極まるアプリを手に入れたために、いつしか我知らずに、女の子たちを『ゲームの登場人物』そのままに、見下していたからなのか?」


『まあ、そんなとこね』


「──だったら、僕はこれから、どうすればいいんだよ⁉」


『あら、そんな時のためのアプリでしょう? 自分で確かめてみれば?』


 そ、そうだ、そうだった!


 このアプリは、いついかなる時だって、対象とする女性にとって最も望ましい言動を、示唆してくれるんだっけ⁉


 ようし、やり方次第では、ハーレムの修復だって、今からでも十分可能だぞ!


 そのように意気込んで、みんなの先頭切って僕のことを罵倒している少女へと、スマホのカメラレンズを合わせてみたところ。




 ──平太、○ね。




 ………………………………………………え。




 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。


 ──平太、○ね。




 ──○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。 ○ね。




 ──すべての女性の敵、平戸平太は、今すぐ、○んでしまええええええ!!!




「……な、何だよ、これって。どうしてここにいるすべての女の子たちが、僕が○ぬことを望んでいるんだ⁉」


『ぶははははは! まるでクリスマス恒例の「スク○ズ」全話一挙配信における、視聴者の主人公に対する心の声みたいね♫』


「笑い事じゃ無いだろうが⁉」




『ええ、そうね。武闘派の方やヤンデレ系の方が、武器や刃物を取り出し始めたから、そろそろ彼女たちってば、単なる「願望」じゃ無くて、「実力行使」に移りそうよ?』




「──ちょっ、ちょっと、待って! 皆さん、落ち着いて! 話せばわかるから………………うぎゃあああああああああああああああああああ!!!」




 ついにガチにキレて、問答無用に襲いかかってくる、女の子様たち。




 たちまちのうちに、殴られたり切り裂かれたりひねり潰されたりして、血まみれの満身創痍となる僕。




 そんな『惨状』をスマホの中から見ながら、ぼそりとつぶやく女神様。




『……いやそもそも、こういった「恋愛成就のためのアプリ」は、どうしてもオトしたい、この世において絶対の想い人を相手に使うものであって、最初から不特定多数を狙ったハーレム願望を満たそうとするなんて、根本的に間違っているでしょうが?』

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