第504話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その24)

 驚いたことに何といきなり、この沖縄において『米軍基地闘争』を扇動していた、外国人工作員や国内(ただし県外)のプロ市民等からなる、己の部下たちの『命』そのものとも言える、『魔女の魂ヘクセンジーレ』を複数人分一気に呑み込むや、そのままボリボリと喰らい始めた、異世界『中つ国』からの先遣部隊のリーダーたる、オーク隊長。




 ……一体、


 こいつ一体、何をするつもりなんだ⁉




 そのように僕が、胸中で盛大に疑問を呈した、その刹那、




『──集合的無意識に緊急要請、現在稼働中のアクセス経路を、全面カットされたし!』




 ………………………………は?





『──うぎゃああああああああああっっっ‼』




 すぐさま己の肉体を物理的に維持できなくなり、耳をつんざく絶叫を上げながら、その場に崩れ落ちてしまう、隊長殿。


 それも、当然であった。


 この世の万物は初期状態デフォルトでは、かのクトゥルフ神話で高名なる不定形暗黒生物『ショゴス』そのままに、『形が無い』のであって、常に(文字通り無意識に)集合的無意識とアクセスすることによって、自分自身の形態情報を参照し、肉体を維持しつつ、成長や老化等の『変化』を行っているのだ。


 それなのに、たとえ己自身の意志とはいえ、集合的無意識とのアクセス経路を唐突に全面的に遮断したりすれば、現在の形態を維持できなくなるのも、必然のことわり以外の何物でも無かった。


 案の定、自分の部下たち同様に、多数の青い瞳の生えた紅い肉塊と化す、かつては『オークだったモノ』。




 ──ただし、むしろ『異変』はこれからが、本番であったのだ。




「うおっ⁉」


 思わず我が目を、疑った。


 先に同じく紅い肉塊と化していた工作員やプロ市民たちが、まるで甘い砂糖菓子に群がる蟻のようにして、オーク隊長が変化メタモルフォーゼした肉塊へと殺到し融合してしまったのだ。


 ……いや、ようく考えてみれば、不思議でも何でも無かった。


 オーク隊長が変化メタモルフォーゼした肉塊には、元々彼ら自身の魂そのものと言える、『魔女の魂ヘクセンジーレ』さえも含まれているのである。


 生物の本能として、己の魂に惹かれるのは、至極当然のことであろう。




 こうして、一つの巨大な『ショゴス』となった肉塊は、天を衝かんばかりの勢いで立ち上がっていき──


「……何だ、ありゃ」


 基本形は、巨大な『猪豚オーク』であろう。


 それではただ単に、元の形態スガタに戻っただけなのかと言えば、さに非ず。


 頭だけは猪豚のままであるが、もはや人間のような二足歩行の形態では無く、全体的には『四つん這いになった猪』に近かった。


 ただし、その巨体は誇張でも何でも無く『小山』ほどもあり、耳まで裂けた口からは多数の鋭い牙が何本も覗いており、瞳は灼熱の業火のごとく真っ赤に燃えさかっていて、更には黄色い毛並みの全身からは、無数の大砲や機関砲の砲身が、あたかもハリネズミやヤマアラシそのままに突き出ていたのだ。




 言うなれば、『動く要塞』とでも、呼ぶべきであろうか。




 そしてその砲門のほとんどは、僕はもちろん、大和を始めとする、軍艦擬人化少女たちのほうへと向けられていたのだ。




「あ、あんなたくさんの大砲に、集中砲火を喰らったりしたら、僕たち自身はおろか、この浜辺の地形そのものが変わってしまうぞ⁉」


 つまり、相手の絶大なる火力の前には、もはや逃げも隠れもできないといった有り様だったのだ。




「……仕方ありません、これだけは避けたかったのですが、『奥の手』を使うことにいたしましょう」




 この窮地にあってもなお、落ち着き払った少女の声。


 それはあえて振り返ってみるまでも無く、かの自称『僕の守護者ガーディアン』である、頼もしき幼女さんのものであった。


「……大和」


 長い黒髪に縁取られた端整な小顔の中で煌めいている、黒曜石の瞳。


 それは、明確なる『意志の光』を、有していた。


「お、おい、『奥の手』って、何だ? あまり無茶なことは、するんじゃないぞ?」


「何をおっしゃるのです、我が提督。もはや『無茶なこと』をしなければ、いけない状況ではないですか?」


「──ッ」


「うふふ、大丈夫ですよ。私たちはこう見えても、『軍艦』なのです。少々無理がきくように、最初から設計されておりますので。──矢矧、浜風、初霜、これより、敵巨大オークを、殲滅いたします!」


「「「──了解らじゃ!!!」」」


 いつの間にかこの場に現れていた、かつての『沖縄特攻』の際における、己の『随伴艦』の擬人化少女たちに向かって、『作戦開始の号令』を下す、大戦艦幼女。


 そして、四人の軍艦擬人化少女たちが、声を揃えて口にしたのは、


 ──文字通りに、『魔法の呪文』であった。




「「「「集合的無意識と、緊急アクセス! 最終拘束術式を解除し、『空式モード』を発動!」」」」




 そして僕の目の前で、『奇跡』が起こった。




 そう、奇跡だ。


 それ以外には、たった今起こったことを表現すべき、言葉は見つからなかった。




 ──何せ、元から天使か妖精かと見紛うほどの美少女たちの背中から、突然白く大きな、『翼』が生え出したのだから。

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