第502話、【連載500回記念】わたくし、『ワルプルギスの夜』ごときには、負けませんの!

「──来た! あれが、『海底の魔女ヘクセンナハト十号』だ!」




 魔導大陸東海岸、最終絶対防衛ライン。




 ずらりと並んでいる、わたくしたち『魔法令嬢部隊』の前方遙か彼方に、あたかも真夏の入道雲が沸き立つかのように姿を現す、巨大なる『人影』。


 そうそれは、信じられないことにも、深い海中に足元を浸からせながらも、雲をつくような高大なる、『ヒトカタチ』をしていたのだ。


 髪の毛から一糸まとわぬ幼くほっそりとした肢体まで、全身初雪のごとく純白に染め上げられている中で、人形そのものの端整なる小顔の瞳だけが、あたかも鮮血そのままに真紅に輝いていた。




 ──『海底の魔女ヘクセンナハト』。




 正体不明の人類の敵であり、どこかの神話の冒瀆的なまでに醜悪極まる名状しがたき邪神たちのように、必ず海から現れる、異能かつ異形の存在。


 唯一『彼女』たちに対抗できるのが、同等の力を持つ超常の存在『悪役令嬢』の幼体である、わたくしたち『魔法令嬢』であったのだ。


 しかし、今回の『海底の魔女ヘクセンナハト十号』は、まさしく『レベル666』──いわゆる、『天災級』の破壊力を有していると思われた。


 確かに、純白の巨体の周辺を埋め尽くしている、無数の『大陸風タイリク・フーウイルス』が凝集して擬態している『イナゴ』の群れは、あたかも嵐を運ぶ雷雲でもあるかのようにも見えた。


「……まさか、これほどの威容とは」


「アグネスはん、何でや」


「違うよ、あいつはもう、アグネスちゃんなんかじゃ無い!」


「そうよ、今の彼女は、単なる私たちの敵よ」


「情け容赦なく、最初から全力で、ボコることにいたしましょう!」


 魔導大陸の誇る『魔導令嬢育成学園』特戦隊の中にあっても、自他共に認めるエースチームである、わたくしたち『ちょい悪シスターズ』の5人が、(最後のあまりお嬢様らしくない台詞も含めて)怪気炎を上げていると、そこにすかさずかけられる、幼くもクールな声音。




「……息込んでいるところ、申し訳ないが、先鋒は、私たちに任せてもらえないか?」




 咄嗟に振り向いたところ、そこにいた思わぬ人物に目を丸くする。


「……げつちゃん」


 一瞬、ドキッとなってしまった。


 それもそのはずである。


 何せ彼女ときたら、一見『海底の魔女ヘクセンナハト』を思わせる紅い瞳をした、自分たちと同学年の十歳ほどの少女であったからだ。


 更には魔法令嬢でありながら、『吸血鬼の真祖』みたいな存在でもあって、多くの魔法令嬢の血を吸って自分の眷属にすることによって、密かに独立した軍団を創り上げて、学園に対して反旗を翻したものの、残念ながらわたくしたち魔法令嬢の戦隊との決戦に敗れてしまい、これまでずっと姿をくらましていた、明確なる『敵組織』のリーダーであったのだ。




「ふふふ、そんなに意外そうな顔をしなくてもいいだろう? 我々吸血鬼だって、この魔導大陸における、れっきとした住人なのだし、そもそも私や眷属たちは、君たち同様魔法令嬢でもあるのだから、魔法令嬢や魔導大陸そのものを滅ぼそうとしている海底の魔女ヘクセンナハトは、まさしく『共通の敵』ではないか?」




 そ、そういえば……。


 あまりにも理路整然とした彼女の言葉に、納得しきりとなるわたくしたち『ちょい悪シスターズ』であった。


 そんな5人の有り様を『無言の肯定』と受け取るや、自らの眷属へと言い放つ、月季ちゃん。


「──さあ、行こう、我がしもべたちよ!」


「「「イエス、マイマスター!!!」」」


 その瞬間、少女たちの黒衣に包まれた背中を突き破るようにして、同じく漆黒の大きな翼が生え、ミサイルであるかのごとく、大空へと飛び立っていった。


「……す、すごい」


 我らが『ちょい悪シスターズ』のリーダーであるヨウコちゃんの言葉通り、まさしく嵐のまっただ中の暴風雨を切り裂くようにかっ飛んでいく、巨大なコウモリそのままな少女たちの大編隊の前には、大陸風タイリク・フーウイルスの第二形態であるイナゴごときでは、手も足も出ないままに弾き飛ばされるばかりであった。


 そしていよいよ本丸の海底の魔女ヘクセンナハトの面前へと到達し、あの巨体に対して、どのような攻撃を試みるのかと、ハラハラしながら見守っていると、


「「「「「………………は?」」」」」




 何と、海底の魔女ヘクセンナハトに激突するように突っ込んでいった吸血鬼魔法令嬢たちが、本当に激突するとともに、そのまま張り付いてしまったのだ。




「……何だ? まさか『カミカゼアタック』か?」


「それはむしろ、『量産型海底の魔女ヘクセンナハト』たちの十八番おはこやろ?」


「──あっ、ほら、見て!」


「……え、吸血鬼少女たちが皆、青い瞳をたくさん生やした、真っ赤な肉体に変化メタモルフォーゼした、だと?」


「──『ショゴス』ですわ! 自ら集合的無意識とのアクセス経路をすべて遮断キャンセルして、ショゴスに先祖返りしたのですわ!」




 ……えー。


 何でここ一番の勝負時に、あえて脆弱なショゴスなんかに、変化メタモルフォーゼしちゃうわけえ?


 なんか、この作者ってば、最近どの作品でも、こんなふうに『ショゴス化』イベントばかり行っているけど、まさか『大○万博の公式ロゴマーク』の、ステマじゃないでしょうねえ?


 ──などと、わたくしが若干メタ交じりに、内心で毒づいていると、


 とんでもない『異変』が、起こったのであった。




「──なっ⁉」


「……紅い肉塊が、増殖してるやと?」


「周囲の海底の魔女ヘクセンナハトの肉体を、『浸食』しているの⁉」


「ていうか、『同化』じゃない?」


「つ、つまり、『集合的無意識とのアクセスのキャンセル領域』を、己の肉体以外にも、拡張しているわけですの⁉」




 ──そうなのである。


 本来、わたくしたち人間を始めとする万物は、常に集合的無意識とアクセスをし続けることによって、己の身体カタチを維持しているのであり、集合的無意識とのアクセスを全面的に遮断されて、人間としての形態情報をダウンロードできなくなってしまえば、デフォルトの状態である、不定形であるがゆえに何にでも変化メタモルフォーゼすることのできる、かのクトゥルフ神話で高名なる『ショゴス』へと、先祖返りしてしまうのだ。


「……言うなれば月季ちゃんは、吸血鬼ならではの集合的無意識との上級アクセス権を使って、海底の魔女ヘクセンナハトの集合的無意識とのアクセス経路を、強制的に遮断しているわけなの?」


 わたくしを始めとして呆然となる平メンバー4人であったが、独りリーダーであるヨウコちゃんは、さすがにこんな時でも前向きであった。




「確かに驚きの戦法であったが、いつまでも指をくわえて見ているわけにもいかん。──さあ、我々も出撃するぞ!」




「「「「らじゃっ!!!!」」」」




 そのようにお互いに檄を飛ばし合うようにして、いつものごとく愛機であるジェット戦闘機の、He162のコクピットへと飛び乗った。


 ……いや、「自分たちも魔法令嬢なんだから、翼を生やさないまでも、魔法の箒ぐらいには乗れよ?」──と、思わなくはないが、これがわたくしたちの『スタイル』なので、仕方ないのだ。




「──行くぞ! 私たちの戦いは、これからだ!」




「「「「おー!!!!」」」」




 そうして、5機の『火蜥蜴ザラマンダー』が、巨大な『海底の魔女ヘクセンナハト十号』へと向かって、飛び立っていったのである。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




メリーさん太「……だから、前回に引き続いて、一体何だって言うのよ?」




ちょい悪令嬢「え? 読んでいて、わかりませんでした?」


メリーさん太「……まさかとは思うけど、『海底の魔女ヘクセンナハト十号』って、台風の擬人化だったりするんじゃないでしょうねえ? 日本国──特に九州方面の現状を鑑みるに、少々不謹慎じゃないの?」


ちょい悪令嬢「ああでも、結局のところ、どうやら『特別警報』のほうは、適用されないことになったようですよ?」




メリーさん太「──そんな軽はずみなことを、言っちゃ駄目! 台風の進路上にお住まいの皆様! たとえ『特別警報』が適用されなかったとしても、『並以上の勢力』を伴った台風であることには、違いは無いのですから、十分にご注意のほどを、よろしくお願いいたします! けして気を抜いたりなさらないように!」




ちょい悪令嬢「まあ、それはもちろん、その通りですわね。──この作品も、別に今回の事態を茶化しているのでは無く、むしろ台風を(これまではライバルだった者が、思わず味方になっちゃう程の)強大なる『ラスボス』クラスとして描くことによって、天災の恐ろしさを強調しているわけですので」


メリーさん太「……相変わらず、『物は言いよう』だな?」


ちょい悪令嬢「でも、それだけではございません! 実は驚くべきビッグニュースが、舞い込んできたのです!」


メリーさん太「へ? ビッグニュースって、この全国的に危機的状況にあるなかに?」




ちょい悪令嬢「何と、一昨日発売されたばかりの『ダ・ヴ○ンチ』10月号において、あの超傑作魔法少女アニメ『ま○か☆マギカ』の外伝作品である、『マギア○コード』のアニメ版が特集されていて、そこでの総監督さんのインタビューにおいて、『アニメ版二期セカンドシーズンは、原作に当たるソシャゲ版とは、異なる結末を迎える』と、明言なされたのです!」




メリーさん太「なっ⁉ ま、まさか!」




ちょい悪令嬢「ほんと、『まさか』ですわよね。まさかこれほどまでに、本作の作者の望んだ通りの展開になるなんて♫」




メリーさん太「……うん、もしかしたら、何度も本作で言っていた通りに、原典である『ま○マギ』との──特に、直近の劇場版である『叛○の物語』との、意外なる『繋がり』が明かされるかも知れないわね」


ちょい悪令嬢「同じくインタビューにおいて言及されていた、来年の『10周年記念イベント』においての発表が噂されている、大方のファンが熱望している『叛○』の続編へと、ストーリーが『繋がる』ように、仕組んでくるかも知れませんよなあ?」


メリーさん太「まあ確かに、その可能性も、けして無くは無いよな………って、ああ! そう言うことか⁉」


ちょい悪令嬢「うふっ、ようやく気づかれました?」




メリーさん太「今回の前半部って、もろ『ワルプルギスの夜』だったのか⁉」




ちょい悪令嬢「そもそも、本作で頻繁に使っているキーワードである、『ヘクセンナハト』って、ズバリ『ワルプルギスの夜』のことですものね」


メリーさん太「本来の『特別警報』レベルの台風だったら、まさしく『ワルプルギスの夜』の襲来、そのものだしな」


ちょい悪令嬢「どのみち『マギ○コ』アニメ版二期セカンドシーズンにおいても、『ワルプルギスの夜』に触れずにはいられないでしょうしね」


メリーさん太「それで勝手に、予想を立ててみたってわけか?」


ちょい悪令嬢「いえいえ、何度も申していますように、本作の作者はゲームオンチゆえに、『マギ○コ』のソシャゲ版はまったく行っておりませんので、ゲーム内において『ワルプルギスの夜』イベントがどんな風だったのかは、知る由もありませんから、これはあくまでも『妄想レベル』でしかないのですよ」


メリーさん太「うん、せっかくゲームシナリオに変更を加えてまで、オリジナル路線で勝負しようとしているアニメ版二期セカンドシーズンが、こんな単純な内容になるはずは無いからな」


ちょい悪令嬢「単純とは、失礼な。こう見えても、ちゃんと『独自色』を付け加えているのですよ?」


メリーさん太「独自色って…………ああ、『ショゴス』の場面ところか」




ちょい悪令嬢「そもそも『ま○マギ』における『ワルプルギスの魔女』って、複数の魔女の集合体であるという説もあるので、『マギ○コ』の独自設定の『ド○ペル化』を行って、あえて『ワルプルギスの魔女』と『同化』することによって、内部から『浸食攻撃』をするというのも、面白いとは思いません?」




メリーさん太「……なるほど、『ま○マギ』と『マギ○コ』との両方の設定をミックスしたわけか。結構希少なる(『マギ○コ』をも含む)『シリーズ全体のファン』である、本作の作者ならではの着想だな? ……とはいえ、なんか知らんけど、『無数の青い目を生やした紅い肉塊』って、最近『馬鹿の一つ覚え』みたいに、使い過ぎじゃないの? ほとんど『ステマ』レベルじゃん」


ちょい悪令嬢「ギクッ…………な、何のことでしょう? おほほほほほほ☆」


メリーさん太「しらばっくれるのもいいけど、何事もほどほどにしておけよ?」




ちょい悪令嬢「──それはさておいて、いよいよ『マギ○コ』アニメ版二期セカンドシーズンの具体的な情報も出たことですし、本放送のほうを是非とも期待して待ちたいかと思います!」




メリーさん太「現在絶賛発売中の、第一期ファーストシーズンの最終話収録の円盤5巻においては、若干ストーリーの構成を変更しているそうですので、ご興味のお有りの方は、どうぞご覧になってみてください♡」

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