第489話、【哀悼】わたくし、尾翼の無い飛行機の運命は無残だと思いますの。(後編)

メリーさん太「──そんな! それこそ、今回の【座談会】そのものの、全否定じゃないの⁉」


ちょい悪令嬢「全否定などとは、とんでもない。──最初に言ったでしょ? 『あえて愚かなことをしようとしている、輩がいる』って」


メリーさん太「……ああ、そういえば、そうだったかしら?」




ちょい悪令嬢「そうなんですよ、なんと某『シモ半島国』の空軍においては、自国開発の新型ステルス機に、よりによって『全翼機』タイプを採用することを発表したのです!」




メリーさん太「げえ、また某シモ半島のやつらかよ? ──いやでも、全翼機をステルス機として採用するのは、別に構わないんじゃないの? 現にアメリカ空軍のBー2も、全翼機なんだし」


ちょい悪令嬢「だから言っているじゃないですか? 本来全翼機なんて、飛行機としてはイレギュラーなのであり、いくらフライ・バイ・ワイヤ等で補おうが、それは機体制御に無理をさせているだけであって、下手したらいつ墜落してもおかしくは無いって」


メリーさん太「──いやいやいや、だったらどうしてアメリカ空軍は、全翼機なんて採用したのよ⁉」




ちょい悪令嬢「当時は全翼機にも、それなりにメリットが有りましたからね。特にステルス効果については、正面から見ると横方向に細長く一直線にしか見えず、レーダーに映りにくく、映ったとしても飛行機とは認識できなかったのですよ。──しかし、それもすでに昔の話で、現在においてステルス効果を得るためには、別に不安定な全翼機にする必要は無く、機体の素材や塗装等に、レーダーに反応しにくい特殊な物質を使用すれば十分であり、極一般的な機体デザインでも構わなくなっているのです」




メリーさん太「……た、確かに、最近のステルス機って、別に全翼機タイプじゃ無いよな」


ちょい悪令嬢「まあ、爆撃機とか輸送機とかだったら、全翼機であっても構わないんですけどね。こういった機種は小型の戦闘機みたいに、無理な空中機動を行う必要はありませんので、通常の任務においての墜落の可能性はかなり低くなるものと思われます」


メリーさん太「──と言うことは、逆に言えば」




ちょい悪令嬢「ええ、第二次世界大戦時のドイツの『Ho229』みたいに、空中機動の激しい戦闘機等の機種に、全翼機を採用するのは、自殺行為でしかないのですよ」




メリーさん太「自殺行為って……シモ半島のやつら、まさかとは思うけど──」


ちょい悪令嬢「ご想像の通り、近い将来自国開発するステルス型の全翼機を、爆撃機や偵察機以外にも、戦闘機等として使用するつもりなのですよ」


メリーさん太「あいつら、第二次世界大戦時点で、進化が止まっているのかよ⁉」


ちょい悪令嬢「もうね、アメリカのBー2や、それを扱ったゲーム等のフィクション作品の影響で、『ステルス機=全翼機』って、刷り込まれてしまっているんですわ」


メリーさん太「ほんと、形からばかり入りやがって、中身のまったく無い民族だな⁉」


ちょい悪令嬢「何とこれは、シモ半島だけでは無く、今何かと話題の『中つ国』においてもご同様で、あちらのほうは『無人機』として、戦闘機よりも更に小型サイズのやつを、偵察とか地上攻撃とかに使用するようですよ?」


メリーさん太「……ほう? 複雑な機動を必要としない無人機だったら、全翼機でもOKというわけかしら? さっきあなたが言っていたように、形状的にもステルス効果が期待できるし」


ちょい悪令嬢「実はこれについても、第二次世界大戦において、すでに試されているのですよ」


メリーさん太「え、ほんと⁉ やっぱり、ドイツで?」


ちょい悪令嬢「いえ、これはアメリカのノースロップのほうなんですけど、アメリカ版『Vー1号』ミサイルの開発の過程で、『全翼タイプなら、比較的高速かつ飛行距離が稼げるのでは?』という、安易な発想のもとで試作機が造られたのですが、案の定まともに飛ぶことすらできずに、大失敗に終わったのです」


メリーさん太「やはり全翼機では、『姿勢制御』が難しかったってことか」


ちょい悪令嬢「はい、それは現代においても、同様でしょう」


メリーさん太「……フライ・バイ・ワイヤを、使っても?」


ちょい悪令嬢「先ほども申したように、どのような最新技術を使用しようとも、全翼機というものはすべて『無理をしている』わけであり、当然人間様による何らかの『操縦』が必要となって、『無人機』なぞどだい無理な話なのでございます」


メリーさん太「ということは、中つ国も……」


ちょい悪令嬢「ええ、安直に『形から入った』だけで、中身のほうは完全に疎かにしているわけですよ」


メリーさん太「──駄目じゃん⁉」




ちょい悪令嬢「まあ、もうすぐ東アジアのいずこかの海域にて、なにがしかの『紛争』くらいは起こるかと思われますので、『レッドチーム』であられる両国が、ご自慢の『ステルス全翼機』をどのように有効利用できるのか、あくまでも戦争に参加することなぞ絶対にあり得ない『専守防衛』国家として、せいぜい高みの見物をさせていただきましょう♡」




メリーさん太「……うわあ、相変わらず、性格のおよろしいことで」


ちょい悪令嬢「それだけ全翼機自体そのものが、使いにくいと言うのに、よりによってシモ半島や中つ国のような、『技術後進国』が造ろうものなら、大失敗に終わることは、火を見るより明らかですわwww」


メリーさん太「だったらどうして、そもそも全翼機なんかが、現代の航空産業界で生き残っているのよ? 一部の例外を除けば、軍用機としてはふさわしくないと言うのなら、一体どんな分野だったら大丈夫だと言うの⁉」




ちょい悪令嬢「そりゃあ、何と言っても、『グライダー』ですよ!」




メリーさん太「ぐ、グライダー、って……」


ちょい悪令嬢「いや、そんな馬鹿にしたものじゃ無いんですよ? そもそも全翼機が初めて脚光を浴びたのは、ホルテン兄弟が無動力滑空機グライダーである『ホルテン初号機』を公式レースに出場させて、いきなり優勝をかっさらったからなんですから」


メリーさん太「ほう、初お目見え即優勝とは、大したものですな」




ちょい悪令嬢「何と、『ちんこう率』が、ほとんど0%だったそうですしね」




メリーさん太「──おいっ、てめえ今、何て言った⁉」




ちょい悪令嬢「えっ、『ちんこう率』、ですけど?」


メリーさん太「何でわざわざ、ひらがなで言ったし⁉」


ちょい悪令嬢「あら、『チン効率』のほうが、よろしかったかしら?」


メリーさん太「あんた、自分が仮にも『令嬢』であることを、忘れているんじゃないのか⁉」




ちょい悪令嬢「オホホホホ、冗談はさておき、つまりですね、『沈降率がほとんど0%』と言うことは、無動力のクライダーでありながら、無限に飛んでいけるような勢いだった──と言うわけなのですよ」




メリーさん太「なっ⁉ 全翼機って、そんなにすごいわけ⁉」


ちょい悪令嬢「だって、機体すべてが、『揚力』を発生する翼でできているんだから、ある程度気流に乗れば、ずっと揚力を維持できるって次第ですよ」


メリーさん太「……これって、動力はあるものの、馬鹿でかくて重たい、ステルス戦略爆撃機も、同じなの?」


ちょい悪令嬢「航続距離がむちゃくちゃ長いことが、取り柄の一つであるのは、間違いないですね」


メリーさん太「……はあ〜、確かにこれじゃあ、全翼機にいろいろと難があるとはいえ、アメリカ空軍が超長距離戦略爆撃機として、採用するわけだ」


ちょい悪令嬢「沈降率が低いからこその、『欠点』もあるんですけどね」


メリーさん太「え? できるだけ揚力が有ったほうがいい飛行機において、全翼機であることで、どんな欠点が有るって言うのよ?」




ちょい悪令嬢「着陸しようとしても、機体形状の特質的にいつまでも浮かんでいようとして、着陸距離や時間が異様にかかってしまうことよ」




メリーさん太「な、なるほど」


ちょい悪令嬢「果たしてシモ半島や中つ国が、こういった『短所』まで、しっかりと把握できているのか、大いに疑問ですけどね」


メリーさん太「対策としては、飛行場自体を馬鹿でかくするか、機体に急制動用のパラシュートである『ドラッグシュート』を積むか、エンジンに『逆噴射機能』をつけるかってところよねえ……」


ちょい悪令嬢「そんなことをやっていると、無駄にコストがかかって、全翼機としてのメリットが、相殺されたりしてねw」


メリーさん太「……うん、やはり『見かけ』なんかで選ばずに、日本の航空自衛隊の次期主力戦闘機みたいに、極普通の機体にしておいて、素材や塗料によってステルス性能を付加するってのが、正解みたいね」




ちょい悪令嬢「ごく普通って言うか、むしろ空自の『Fー3』こそが、最も理想的な機体とも言えるのですよ?」




メリーさん太「……最も理想的な機体、ですって?」




ちょい悪令嬢「まず主翼は、『デルタ翼』で、更には尾翼は、『V字翼』──これで、決まりなのです☆」




メリーさん太「……って、それだけ?」


ちょい悪令嬢「Fー3の予想図を、見てごらんなさいよ」


メリーさん太「──ッ。これってまるで、『全翼機』じゃないの⁉」




ちょい悪令嬢「そうなんですよ、元々デルタ翼機って全翼機同様に、第二次世界大戦時にドイツが考案した『(広義の)無尾翼機』の一種で、主翼が水平尾翼を兼用しておりかなりサイズが大きく、真上から見れば『デルタ機』も『全翼機』も『(狭義の)無尾翼機』も、すべて機体が主翼だけできている『全翼機』であるかのように見えるのです。デルタ機と全翼機の最大の違いは、かつてデルタ機には垂直尾翼だけは残されていたのですが、これを左右二枚の斜め翼──すなわちV字翼に改めることによって、上下左右全方向の必要最低限の安定性を確保しつつ、高速性をも両立させた、最も理想的な高速機としての形態を誇っているのですよ」




メリーさん太「つ、つまり、全翼機の弱点をほとんど解決した、真に理想的な軍用機の機体デザインと言うわけなの⁉」




ちょい悪令嬢「そうなのです、これよりも高速性や航続性やステルス性を高めようとすれば、全翼機にするしか無いのですが、大型爆撃機ならともかく、激しい空中機動を必要とする小型戦闘機に全翼タイプを選択するのは、まさしく『自殺行為』以外の何物でも無いでしょうね」




メリーさん太「え? それなら、シモ半島の次期主力戦闘機や、中つ国の無人飛行機って?」




ちょい悪令嬢「もちろん、自殺機ですよ。──ただし、太平洋戦争中の『カミカゼアタック』とは違って、自国に対してのねw」













メリーさん太「──それでは最後となりましたが、ここで今再び、日本航空123便墜落事故における、520名にも上る犠牲者の皆様のご冥福を心よりお祈りいたすことで、閉幕のご挨拶に代えたいかと存じます」




ちょい悪令嬢「当事故に対しましては、全国民が心から反省をして、作中にも述べた通り、旅客航空業においてこれまで以上に、航空各社と旅客との双方が、事故を未然に防ぐように細心の注意を払うようになったのを始めとして、最大の懸案事項であった、『機体の保守管理の外国企業任せ』についても、すでに国内企業各社が新型旅客機の自社開発に努めておるところであり、志半ばでお亡くなりになった皆様の無念を晴らすためにも、企業国民一丸となって、真に理想的な旅客航空業の実現に邁進して参りますので、どうぞ安らかにお眠りください」

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