第450話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その8)

「……あんたら異世界人の言うところの『勇者ミハエル』である、この僕を討伐するために、あんたを始めとするオークたちが『実力行使』を行おうと、この世界に異世界転生してきて、『米軍基地闘争』のために全国から集まってきた、『プロ市民』に身をやつしていただと?」




 ここ沖縄における、某国傘下のエセ人道主義プロ市民工作員による、『米軍基地闘争の闇』の予想外の真相の発覚に、驚愕するばかりの僕こと、那覇市在住のDS男子小学生イクであった。




 そ、そうか、すべての黒幕はやはり、『中つ国』だったわけだけど、この世界の一種独特のイデオロギーに染まりきった、某東アジア大陸のお隣さんでは無く、いわゆる『指○物語』等でお馴染みの、剣と魔法のファンタジー異世界の『中つ国』だったんだ!


 おのれ! 何と卑劣なんだ、『中つ国』は! こんな姑息な洗脳工作活動によって、全世界を精神的に侵略していたんだな⁉


 世界中の『自由を愛する良識ある人々』全員で力を合わせて、海外在住工作員どもはもちろん、一刻も早く国ごと滅ぼさなければ!


 ──あ、何度も何度も申していますように、これはあくまでも、ファンタジー異世界の『中つ国』のことであり、現実の『中つ国』はもちろん、某紅いイデオロギーや、沖縄で地道に活動なされている本物の人道主義者様等々とは、まったく関わりはありませんので、誤解無きよう。


 何せ、この世界の『中つ国』には、オークなんていないし、そもそもネット等を通じて、他国に卑劣な洗脳工作を仕掛けたり、『エセ人道主義』ムーブメントを盛り上げて、他国の国民を人種ごとに『分断』しようだなんて、していないはず…………ですよね?


 ──そのように僕が、「おまえは一体、誰に言い訳をしているんだ?」とでも言われそうなモノローグを、密かで胸中で行っていると、




『ブヒヒヒヒ、どうだ、驚いたか? だが、このまま最強のオークたる『黄金種』である私が、この世界ではただの人間の小僧に過ぎない、おまえをひねり潰したところで、芸が無かろう。ここは一つ、趣向を凝らすことにするか。──いざでよ! 我が異世界『中つ国』のイデオロギーの、忠実なる「同志シモベ」たちよ!』




 ──なっ⁉




 ……これまで散々文字通りの『驚愕の連続』だったので、もはや何が出て来ても、驚かないつもりであった。


 しかしその自信は、もろくも崩れ去ってしまったのだ。


 ──あ、あれは⁉


 何とも嫌らしい笑みを浮かべながら、身の丈3メートルもある黄金きん色の巨体のオークが、これ見よがしに両手を天に向かって振りかざすや、その背後からぞろぞろと現れる、何の意思も窺わせない顔つきをした、あたかも『ゾンビ』のような人々。


 しかもそれが、自分の顔馴染みばかりであったのだから、驚くなと言うほうが無理であろう。


 ──つまり、これまで『基地闘争』などには関係したことの無い、何よりも平穏を愛する、真に常識的な沖縄市民の皆さんだったのである。


 このことは、、断言できるのだ。


 なぜなら──




「……母さん?」




 そうそれは、けして市民活動なんかに参加するはずの無い、他の誰よりも僕の身近にいる、我が身の不幸を嘆くばかりの女性であったのだ。




「……イク、お願い、『中つ国』の軍人オーク様には逆らわないで。沖縄県人はみんな、『中つ国』の異世界礼賛思想に染まって、日本国から独立すべきなの! そうすれば当然、米軍もすべて追放されて、もう二度と、私のような不幸な女は生まれないのよ! ──さあ、あなたもその身に『異世界人の転生体タマシイ』を受け容れて、真の平等社会を実現する最も理想的なイデオロギーのもと、みんなで幸せになりましょう!」




 ──ッ。


 ……母さんみたいな、不幸な女性を、二度と生み出さないためだと?


 だとしたら、だとしたら、だとしたら、


 貴女あなたの『不幸の元凶』そのものである、は、




 ──生まれてきたこと自体が、間違いだったとでも言うのか⁉




『ぐわっははははははは! どうだ、思い知ったか! 沖縄人とアメリカ兵との混血児であるおまえこそは、この地における「不幸の象徴」なのだ! それを勇者などとイキリまくって、異世界である我が祖国において、我が物顔で振る舞うなどとは、片腹が痛いわ! 自分の母親に対して、少しでも罪の意識を感じるのなら、おまえも我が偉大なる異世界イデオロギーに服して、「中つ国」の「琉球自治区」建設のための破壊工作活動に、身も心もすべて投じるがいい!』




 そのように勝ち誇って言い放つ、異世界からの尖兵である、黄金オーク。


 僕は、


 僕は、


 僕は、


 僕は、


 僕は、


 僕は、




 一体どうすれば、いいんだ⁉




「──集合無意識との上位アクセス権を、緊急発動! 現在接続中の下位アクセス権の、強制停止を実行!」




 その時唐突に鳴り響く、どこか聞き覚えのある涼やかな声音。


 それと呼応するかのようにして、あたかも電池が切れたがごとく、次々とその場に倒れ伏していく、母さんを始めとする一般市民の皆様。




『──おのれ、何者だ⁉』




 あまりに予想外の事態に、完全に余裕を失ったオークの誰何の声に応じて、暗がりから姿を現す、思いの外小柄な一つの人影。




 ──そして、ただひたすら僕のほうを見つめている、熱っぽく煌めく黒水晶の瞳。




「遅れまして、申し訳ございません、殿。──大日本帝国海軍所属、大和やまと型戦艦一番艦『大和』、ただ今見参!」

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