第412話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その7)
「──同じ現代日本からの転生者のチートスキルでありながらも、魔王等の使う悪の力の素である『負の魔導力』のほうが、私たち勇者等の使う正義の力の素である『正の魔導力』よりも、すべての点で上回っているなんて、そんな馬鹿な! 普通は逆でしょうが⁉」
突然魔王(アダルティな美女♡)から、実は日本からの転生者はすべて、『偽りの創られた肉体』を与えられることによって、チートスキルを使えるようになるのであり、そこに『勇者』か『魔王』かの違いなぞは無く、しかも正の魔導力と負の魔導力とは、俗に言う『プラスマイナス』の関係には無く、負の魔導力とはただ単に、正の魔導力における『上限値』をオーバーしたものに過ぎない──などと言われて、さすがに黙っていられなかった、自他共に認める(現役☆JCの)勇者である私であった。
しかし当の魔王陛下のほうは、こちらの至極当然と思われる反論に対して、いかにも訝しげに眉根を寄せた。
「逆だと? むしろ、当然の
はあっ? と、当然って⁉
「おいっ、いくら何でも、当然は無いだろ、当然は⁉」
そんなんじゃ、勇者が絶対に、魔王等のラスボスに、勝てなくなるじゃないか?
おまえは、何が何でもバッドエンドにしないと気が済まない、自称『意識高い系』のへそ曲がりな、Web作家か何かか?
「……何だその、さもあきれ果てたかのような目つきは? だったらお伺いするが、おまえや我のような者は、現代日本においてはそもそもどんな精神状態にあったんだっけ? 『なろうの女神』などといういかにも胡散臭い存在に唆されて、異世界に転生することの引き換えにチートスキルを手に入れたのは、どうしてだったかな?」
うん? 何を今更なことを、聞いているんだ?
「そりゃあもちろん、自分の人生や世界そのものに、完全に
……ほんとあいつって、女神と言うよりはむしろ、悪魔だよな?
何で『希望』では無く、『絶望』のほうを
「その通り、だからこそ、異世界転生した時点では、チートスキルにはほとんど個体差は無かったと言うのに、我のようにいわゆる『闇堕ち』して魔王等になった者だけが、より強い力を手に入れることになったのだよ。──なぜなら、我々はこの本来は『理想郷』であったはずの異世界において、現代日本にいた時以上の、絶望に見舞われることになったのだからな」
なっ⁉
「現代日本において絶望したから異世界転生したのに、その異世界においても、絶望してしまったですって⁉」
「……おまえ、我らラスボスキャラが、どうして『闇堕ち』なんかをすることになったと、思っていたんだ?」
「それはやっぱり、自分のチートスキルを笠に着て、この世界を自分の欲望のままに支配してやろうと、邪心に囚われてしまったとかでは?」
「ほんと、画に描いたような
「ええっ、私は勇者だから、実際にはやらないけど、自分のチートスキルをフルに活用すれば、ある程度は世界を思い通りにしたり、大陸の一つぐらいは支配できたりする自信があるよ?」
「お、おまえ……」
あ、あれ?
なぜだか、魔王はおろか、仲間であるはずのパーティのメンバーたちまでが、私ことをいかにも残念そうに見ているぞ?
「あのなあ、基本的に人生というものが、思い通りにいくわけがないだろうが? おまえだって現代日本にいた時分は、挫折の連続だったろうに、もう忘れたのか?」
ひえっ、魔王様から、人生についてお説教されてしまった、屈辱う!
「──でもでも、それはあくまでも、いわゆる『完全なる現実世界』である日本での話であり、ある意味私たちにとって『
「「「「おまっ、それは絶対に、言っては駄目なやつ!」」」」
一斉にツッコミを入れてくる、パーティメンバーたち。
ただし、一人魔王陛下だけは、予想外の反応を示してきた。
「……ほう、ちゃんと、気づいているではないか?」
はい?
「ま、魔王さん、それって、どういうことでしょう?」
何だ、一体こいつ、何を言い出すつもりなんだ?
その時、私の中の、勇者としての本能が、盛大に
──耳を塞げと。
──けして、
「実はな、我々はまさに、『小説の登場人物』のようなものでしかないのだよ。チートスキルを使って、何でも思いのままにできるように思えるのも、最初からそのように舞台が整えられていて、決まり切った役割を演じているだけなのさ」
……何……です……って……。
(続く)
「──いや、続かないよ! 何が『……何……です……って……』だよ、前回のラストと、まったく同じじゃないか⁉ 『実はこれはすべて小説だったのだ』とか、何をメタ中のメタなことを言い出しているんだよ!」
「……そのセリフ、そっくりそのまま、お返ししよう。何が『前回のラスト』だ、そっちのほうこそ、完全にメタじゃないか?」
そりゃそうだけど、そもそも『パンドラの箱』を開けたのは、そっちが先だろうが⁉
「第一我は、この世界が『
「いや、さっき確かに、『小説の登場人物』とか何とか、言ってたじゃん⁉」
「それはあくまでも、例えとして言っただけで、この世界は『
出た、お得意の『作り物』路線かよ? もはやワンパターンだな。
「……『
「おいおい、これまで散々言ってきたではないか、我々異世界転生に関係する者は、すべて不定形暗黒生物である、『ショゴス』によってつくられているのだと」
「もちろん覚えているわよ、私たち転生者は、この世界における自分自身の肉体的『受け皿』として────って、ちょっと待って! あなた今、何て言った? 『転生者』では無く、異世界転生に『関係する』者、ですって⁉」
これって、微細な差異のようでいて、根本的に意味が違うんじゃないの⁉
……だとしたら、
──まさか、
──まさか、
──まさか、
──まさか、
──まさか、
──まさか、
ようやく私は、本当に耳を塞ぐのは、この時であることに気づいたのだが、もはやすべては遅かった。
目の前の美女の、柘榴のような深紅の唇が、ゆっくりと開いていく。
「──そうだ、この『勇者による魔王退治』という、最初からすべての筋書きが決まっていた『猿芝居』は、我々現代日本からの転生者だけでは無く、一見生粋の異世界人だと思われた者たちも含めて、あたかもRPGのNPCであるかのように、すべてショゴスによって構築された、『作り物』であったのだよ」
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