第382話、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その11)

『──「人類最終防衛ライン」、最前線に配置中の、すべての兵士に告ぐ!』




『──総員、即刻、撤収せよ!』




『──繰り返す、総員、即刻撤収!』




『──「大陸風タイリク・フーウィルス」濃度、臨界値を突破!』




『──これ以上は、防護服も、役に立たないぞ⁉』




『──ちっ、まずいっ! もうおいでなすった!』




『──「敵性体」を、肉眼で確認!』




『──全天を真っ黒に覆いつくほどの、尋常ならざる濃度です!』




『──魔導力のほうも、マイナス値、上限に到達!』




『──第二形態、来ます!』




『──駄目だ、間に合わない!』




『──無数のウィルスが寄り集まって、第二形態である、多数の巨大なる『イナゴ』に変化メタモルフォーゼすると、すべてを食い尽くされてしまうぞ⁉』




『──あいつら、ウィルスをまき散らしながら襲いかかってくるから、始末が悪い!』




『──「半島」の防衛ラインにおいても、兵士たちを始めとしてすべての国民を、あらかじめウィルスで弱らせておいて、アメリア合衆国軍との合同演習すらできないほど無力化した後で、大群で襲いかかってきて、すべてを食い尽くしたんだからな!』




『──しかもたちの悪いことに、あいつらの好物は、米や小麦やカップラーメン等の食料品のみならず、マスクやアルコール消毒薬等の医療用品や、トイレットペーパー等の日用品等といった、人が生活していくための必需品ばかりを狙って、喰らい尽くしやがる!』




『──どう考えても、己の身体の体積以上を喰い続けていやがるのだが、研究によると、体内に文字通りの「蟲穴ワームホール」が存在していて、大陸奥地の「巣」へと、瞬間的に「転移」ならぬ「転売」をしているらしいぞ⁉』




『──何て悪辣な、虫けらどもだ、見つけ次第駆除しなければ!』




『──これも政府が、もっと早く、大陸からの入国を封鎖していれば……ッ』




『──何せあいつらは、まずは第一形態の「ウィルス」として、人や輸入品等あらゆる物体に付着して、国境を越えて入国しておいて、第二形態の「イナゴ」としての本性を現すや、暴虐の限りを尽くし、すべてを喰らい尽くそうとするんだからな!』




『──そもそも、ウィルス自体が悪質で、感染力が高いだけではなく潜伏期間も無駄に長く、知らぬうちに広範囲の人々が感染してしまっているという有り様だ』




『──もはやすでに、大陸人が全員死滅してしまっているので、詮無きことだが、これって間違いなく、「人の手によるバイオ兵器」だよな』




『──「列島」内の、「発症者」の数も、もはや深刻なレベルだし』




『──それでもこれまでは、国内において第二形態化する個体数は少なく、散発的な被害で済んでいたが、ついに本格的に侵攻してくるとは……』




『……これで、我が国は──否、人類は、おしまいか』




『──いや、まだだ! まだ、希望を捨てるな!』




『──たった今、大本営からの急電を授受!』







『──これより、「魔法デストロイヤ少女ー・ガール」の、緊急投入を開始する!』







『『『──なっ⁉』』』




『……間に合った?』




『──やった、やったぞ!』




『──これで「イナゴ」どもは、皆殺しだ!』




『『『──我々人類の、勝利だ!』』』




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




 ──聖レーン転生教団、聖都『ユニセクス』教皇庁最上階、最高幹部会議場。




 現在ここでは、教団における実際上の最高権力者である、枢機卿たちが揃い踏みして見守る中で、超大型ホログラム映像がリアルタイムで、ジパング海峡の最前線の模様を映し出していた。




 そしておもむろに、海面の上を滑走するようにして現れる、フリルやレースに飾り立てられた色とりどりの可憐なコスチュームに身を包み込んだ、十数名ほどの幼い少女たち。




 確かに海中に沈むことなく高速移動できるのはすごいと思うが、普通魔法少女というものは、海ではなく空を飛んで現れるものではなかろうか?


 しかも全員、魔女や魔法少女のシンボルである魔法の箒や杖どころか、完全に手ぶらであり、武器らしきものは何一つ見当たらなかった。




 ──とはいえ、その一部始終を目の当たりにしながらも、並み居る上級聖職者たちは、誰一人として疑問の声を上げたりはしなかった。




「異端審問二部、ルイス特務司教、準備は万端かね?」


「──はっ、万事抜かりなく」


「では、始めたまえ」


「ははっ。──こちら、司教、作戦を開始しろ」




『──了解、「各艦」とも、集合的無意識との、アクセスを開始!』




『──了解、駆逐艦「シグレ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「ユウダチ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「ムラサメ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「ヤマカゼ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「アカツキ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「オヤシオ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「アキグモ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「シラユキ」、集合的無意識とアクセス!』


『──了解、駆逐艦「サギリ」、集合的無意識とアクセス!』




 司教の号令を、現場指揮者らしき者が復唱するや、それに応じて次々に声を上げていく、画面の中の他称『魔法少女』たち。


 ──それとともに、彼女たちの身の回りに忽然と現れる、『異形』の数々。


「「「おおっ、これは⁉」」」


 どよめく、会議場内。


 それも、当然であった。




 何とそれは、大砲や魚雷発射管や対空機銃等々、軍艦で言うところの『艤装』を、少女の身体の大きさに見合うように、ダウンサイジングしたものであったのだ。




「──どうです、皆様、彼女たちこそが、我が異端審問部特設秘匿研究室が誇る、人造魔法少女『駆逐艦デストロイヤー・ガール』でございます!」


 呆けるように画面を見つめている枢機卿たちに向かって、いかにも自信満々の表情で高らかに言い放つ、特務の青年アオニサイ司教。


「──素晴らしい!」


「何もない空間から、あれ程の重武装を、瞬時に顕現できるとは⁉」


「これも不定形暗黒生物『ショゴス』としての、自他の『肉体構成情報の書き換え』能力の賜物か!」


「このショゴスならではの力を使えば、自分の周囲に迫り来たウィルスさえも、清浄な空気に『書き換える』ことが可能だからな!」


「つまり、別にあの化物『イナゴ』どもと直接闘わなくても、すべての個体を強制的に集合的無意識にアクセスさせて、その肉体を構成する量子を『形なき波』の状態に書き換えるだけで、事実上『消滅させる』ことができるではないか!」


「まったくもって、まさしくこれぞ文字通りの、『無敵の兵士』の実現よな!」




 そのように、教団の最高権力者である枢機卿たちから手放しに絶賛されて、鼻高々となる黒衣の青年司教殿。




「ええ、ええ、おっしゃる通りでございます。何せ、小さな少女の身体に、かつての大日本帝国海軍の誇る駆逐艦デストロイヤーの攻撃力と防御力とを秘めた、人造魔法少女『デストロイヤー・ガール』たちこそは、その文字通りの反則技チート的スペックにより、現代物理学の中核をなす量子論や集合的無意識論に則れば、Web小説等でお馴染みの剣と魔法のファンタジー異世界をも含む、全次元において、最強の存在と申しても過言では無いのですから!」

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