第314話、【ハロウィン企画】わたくし、少女漫画界のレジェンドの生誕70周年を言祝ぎますの♡(その2)

「──治安維持部隊は、一体何をやっているのだ⁉」




 早朝の、シブヤ・ユーリ&ハラジュク・フーリ大管区会議室にて響き渡る、中年男性の胴間声。


 その途端、肩をすくめて縮こまる、シブヤとハラジュクという、ネオトウキョウにおいても指折りの、二大治外法権特区のエリート役人たち。




 それだけ、このでっぷり肥え太ったハゲ男──ハチコウグチ=ドウゲンザカ大管区指導者ガウライターは、ネオトウキョウ──否、ネオジパング王国きっての、権力者であったのだ。


「ハロウィンだからと言って、シブヤ区民でも無い田舎者どもが、大挙して押しかけてきて、この一週間というもの昼も夜も無く、魔物や精霊セイレーンである『悪役令嬢』のコスプレをして、馬鹿騒ぎばかりしおって! 別にハロウィン期間中とはいえ、何をしてもいいわけでは無いんだぞ? 『治外法権特区』の意味をはき違えているんじゃないのか? これはあくまでも俺様のような権力者が、法を度外視して住民どもを取り締まることができるという意味なんだぞ? それなのに、器物破損から恐喝暴行傷害に性的犯罪等々と、軽犯罪から重犯罪まで、やりたい放題やりおって! もはや大管区留置場は、このハロウィン期間中だけで満杯ではないか? そんなにお祭り騒ぎで浮かれたいのなら、地元のしょぼい秋祭りで、乱交パーティでもやっていろって言うんだ、田舎者どもめが!」


 再びいかにも憤懣やるかたなしといった感じで、言いたい放題わめき立てる、いい歳した政治家のおっさん。


 本来ならまさしく、『触らぬ神に祟り無し』の状態であろうが、さすがに今の発言には聞き逃せない点も多々あったようで、シブヤ・ゲットーの専属役人の一人が、恐る恐る声を上げた。


「し、しかし、区長……いえ、大管区指導者ガウライター閣下、我がシブヤは、そういった『田舎者』の皆さんによる、各種経済効果によって成り立っておるわけでして……」


 次の瞬間、「ふざけるな!」という怒号ともに、窓際まで吹き飛び、強化ガラスに激突する小役人。


 いつの間にか机と椅子を蹴倒すようにして立ち上がり、サイバー義手であるごっつい右腕を振り抜いた格好のままで、顔を怒りのあまり赤黒く染め上げている、縦横両方向に巨大な体躯の男。




「そんなこと、言われんでもわかっておるわ! 確かに我がシブヤは、身分不相応にもトウキョウ大好きなおのぼりさんの『田舎者』どもに、『御奉仕サービス♡サービス』することで成り立っている! しかし、勘違いするな! シブヤはけして『本番OK♡』のソー○嬢やピン○ロ嬢ではない、あくまでも『キャバ○ラ嬢』なのだ! 言葉巧みに客に気のあるフリをして、金を巻き上げるだけ巻き上げて、けして本番どころか、行きすぎた『お触り』すら許さぬ、まさしくそういった『ベテランのビジネスライクな特殊技能をお持ちの女性の皆様』(極力穏当な表現)なのだ! ──それを何だ、現在のハロウィンにおいては、まるで我がシブヤは、すでに服を全部脱がされて、今にも『最終関門』(意味深)を、突破されんとしている有り様ではないか⁉ 貴様ら、ちゃんと治安維持部隊の出動においては、十分な人数や武器を用意していなかったのか⁉」




「そ、そんなことはありません! 私は治安維持軍シブヤ分隊司令官として、十分な数の隊員に対して、十分な数の麻酔トランキライザーガンを持たせております!」


「──古っ! トランキライザーガンて、マジで70年代かよ⁉」


「あ、いや、最近のF○においても、使われているみたいですよ?」


「ふん、○Fと言っても、どうせ古いヴァージョンのやつだろう? これまでまったく実績を上げていないのが、いい証拠だ。単なるコスプレをした、田舎者どもをいくら検挙しようが意味は無い。あいつらが『コスプレ神』と熱狂的に信奉している、『悪役令嬢』自身そのものを捕まえなければ、事態の沈静化は不可能だ。──どうしていまだに、あやつらをただの一人も、捕縛できていないのだ⁉」


「そ、そうは申しましても、何しろきゃつらときたら、『精霊セイレーン』種だけあって、身軽に屋根の上を飛び交って、ただでさえ捕捉しにくいところに、今回のハロウィンにおいては、重ねて『武装』しておりますもので……」


「……はあ? 何だ、武装って。コスプレの間違いじゃないのか? おいおい、いくらハロウィンとはいえ、コスプレ用の武器類の持ち込みは、あの我が国最大のコスプレの祭典である、『ネオ・コ○ケ』においても、いまだ絶対の御法度なんだぞ?」


「それがですね、きゃつら、よりによってコスプレに選んだのが、かんむ──」


 そのように、ローカルの木っ端小役人どもが、ごちゃごちゃとやり取りをしていた、まさにその時、




「──おやおや、どうやら、お困りのご様子ですね?」




 唐突に、この場の混乱を制するように響き渡る、涼やかな声音。


 一同揃って振り向けば、いつしか会議場の入り口の手前には、数名のいまだ年若き女性たちが立ち並んでいた。


 ──年の頃はそのほとんどが、十代半ばくらいか。


 その華奢な肢体を覆っているのは、すべておそろいの、濃紺のワンピースと純白のエプロンドレスに、おかっぱ頭ショートボブの上にはヘッドレスと、いわゆる『メイド装束』と呼ばれるものであった。


「──なっ⁉」


 なぜかその有り様を一目見るや、ただ一人顔面蒼白となる、大管区指導者ガウライター閣下。


 しかし、そんな己の上司の動揺に気づくこと無く、高飛車に闖入者へと詰め寄っていく、最も入り口近くに座っていた、下っ端の役人。


「……何だ、おまえらは? ここはシブヤ・ユーリ&ハラジュク・フーリ大管区の、最高幹部会の会議場だぞ? メイド風情が立ち入るなどと──ぶぎゃあっ⁉」


 言葉途中で顔面にこぶしを食らい、あっけなくKOされる、女子供に対して偉ぶる割には、貧弱極まりないおっさん。


 そして、十二、三歳ほどの一番年下らしき少女を先頭にして、会議場の最奥──すなわち、最も上座の席へと向かって歩み行く、メイドたち。


 それに応じるようにして、慌てふためいて席を立ち、彼女たちの面前へと走り寄り、




 文字通りに『足下にひれ伏すようにして』土下座する、大管区指導者ガウライター閣下。




「──こ、このたびは、部下が、大変失礼いたしましたあああああっ!!!」




 会議室に響き渡る、大の男の絶叫。


 ぎょっとなる、部下たち。


 それを見て、先頭の少女は、ニッコリと微笑んで、




 ──己のか細い右足を、大管区指導者ガウライターの頭の上へと、たたき落とした。




 音が聞こえるほど、勢いよく床に衝突する、男の顔面。


 更にぐりぐりとねじ込むようにして、踏みつけ続ける少女メイド。


「──き、貴様、何ということを!」


「今すぐ、その足をどけろ!」


「小娘が! シブヤ治外法権特区区長であられる、大管区指導者ガウライター閣下に対して、無礼であろうが⁉」


 あまりの暴挙に、当然のようにいきり立つ、部下たちであったが、




「──馬鹿者! よさないか⁉ 無礼者は、貴様らのほうだ! このお方を、どなたと心得る、女王親衛隊の隊長閣下であらせられるのだぞ⁉」




「「「…………へ?」」」




 頭を踏まれたままで放たれた、当の大管区指導者ガウライター閣下の叱責の声に、耳を疑い一気にトーンダウンする、小役人たち。


「……親衛隊長って」


「そのメイドが、ですか?」


「ちょっ、ということは、『近衛師団長』でもあられるわけではありませんか⁉」


「──そう言っているのだ! わかったら、おまえらも拝伏どげざせんか!」


「「「ははーっ!!!」」」


 まさに一瞬にして、会議場の床面のほとんどすべてが、むっさいおっさんたちの土下座で埋め尽くされた。


 それを冷ややかで見回している、公称『近衛師団長』の少女に対して、恐る恐る言上する、こちらも公称『大管区指導者ガウライター』閣下。


「そ、それで、本日は、一体どのようなご用件で、メイ様?」




「……ご用件も何も、ありませんわ。どこかの能無し区長が、たかが『悪役令嬢』ごときに、手をこまねいているもので、ついに女王陛下の堪忍袋の緒が切れたというわけですの」




「──っ。ま、まさか⁉」


「ええ、そのまさかです」




 予想だにできなかった事態に、まさしく現場責任者として進退窮まり、今度こそ完全に言葉を失う巨漢の中年男を尻目に、あっさりと驚愕の言葉を宣う幼い少女。




「──つまり、これよりのちの『悪役令嬢狩り』については、この近衛師団長メイ=アカシャ=ドーマンが、隷下の女王親衛メイド隊を率いて、自ら当たらせていただきますので、悪しからず♫」

















「……『悪役令嬢狩り』って、おそらく原典オリジナル(?)の『精霊○り』にかけていらっしゃるんでしょうけど、何か『おフランスな書院』あたりの、タイトルみたいですなあ」


「──貴様! 我ら女王親衛隊を、愚弄するつもりか⁉」

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