第314話、【ハロウィン企画】わたくし、少女漫画界のレジェンドの生誕70周年を言祝ぎますの♡(その2)
「──治安維持部隊は、一体何をやっているのだ⁉」
早朝の、シブヤ・ユーリ&ハラジュク・フーリ大管区会議室にて響き渡る、中年男性の胴間声。
その途端、肩をすくめて縮こまる、シブヤとハラジュクという、ネオトウキョウにおいても指折りの、二大治外法権特区のエリート役人たち。
それだけ、このでっぷり肥え太ったハゲ男──ハチコウグチ=ドウゲンザカ
「ハロウィンだからと言って、シブヤ区民でも無い田舎者どもが、大挙して押しかけてきて、この一週間というもの昼も夜も無く、魔物や
再びいかにも憤懣やるかたなしといった感じで、言いたい放題わめき立てる、いい歳した政治家のおっさん。
本来ならまさしく、『触らぬ神に祟り無し』の状態であろうが、さすがに今の発言には聞き逃せない点も多々あったようで、シブヤ・ゲットーの専属役人の一人が、恐る恐る声を上げた。
「し、しかし、区長……いえ、
次の瞬間、「ふざけるな!」という怒号ともに、窓際まで吹き飛び、強化ガラスに激突する小役人。
いつの間にか机と椅子を蹴倒すようにして立ち上がり、サイバー義手であるごっつい右腕を振り抜いた格好のままで、顔を怒りのあまり赤黒く染め上げている、縦横両方向に巨大な体躯の男。
「そんなこと、言われんでもわかっておるわ! 確かに我がシブヤは、身分不相応にもトウキョウ大好きなおのぼりさんの『田舎者』どもに、『
「そ、そんなことはありません! 私は治安維持軍シブヤ分隊司令官として、十分な数の隊員に対して、十分な数の
「──古っ! トランキライザーガンて、マジで70年代かよ⁉」
「あ、いや、最近のF○においても、使われているみたいですよ?」
「ふん、○Fと言っても、どうせ古いヴァージョンのやつだろう? これまでまったく実績を上げていないのが、いい証拠だ。単なるコスプレをした、田舎者どもをいくら検挙しようが意味は無い。あいつらが『コスプレ神』と熱狂的に信奉している、『悪役令嬢』
「そ、そうは申しましても、何しろきゃつらときたら、『
「……はあ? 何だ、武装って。コスプレの間違いじゃないのか? おいおい、いくらハロウィンとはいえ、コスプレ用の武器類の持ち込みは、あの我が国最大のコスプレの祭典である、『ネオ・コ○ケ』においても、いまだ絶対の御法度なんだぞ?」
「それがですね、きゃつら、よりによってコスプレに選んだのが、かんむ──」
そのように、ローカルの木っ端小役人どもが、ごちゃごちゃとやり取りをしていた、まさにその時、
「──おやおや、どうやら、お困りのご様子ですね?」
唐突に、この場の混乱を制するように響き渡る、涼やかな声音。
一同揃って振り向けば、いつしか会議場の入り口の手前には、数名のいまだ年若き女性たちが立ち並んでいた。
──年の頃はそのほとんどが、十代半ばくらいか。
その華奢な肢体を覆っているのは、すべておそろいの、濃紺のワンピースと純白のエプロンドレスに、
「──なっ⁉」
なぜかその有り様を一目見るや、ただ一人顔面蒼白となる、
しかし、そんな己の上司の動揺に気づくこと無く、高飛車に闖入者へと詰め寄っていく、最も入り口近くに座っていた、下っ端の役人。
「……何だ、おまえらは? ここはシブヤ・ユーリ&ハラジュク・フーリ大管区の、最高幹部会の会議場だぞ? メイド風情が立ち入るなどと──ぶぎゃあっ⁉」
言葉途中で顔面に
そして、十二、三歳ほどの一番年下らしき少女を先頭にして、会議場の最奥──すなわち、最も上座の席へと向かって歩み行く、メイドたち。
それに応じるようにして、慌てふためいて席を立ち、彼女たちの面前へと走り寄り、
文字通りに『足下にひれ伏すようにして』土下座する、
「──こ、このたびは、部下が、大変失礼いたしましたあああああっ!!!」
会議室に響き渡る、大の男の絶叫。
ぎょっとなる、部下たち。
それを見て、先頭の少女は、ニッコリと微笑んで、
──己のか細い右足を、
音が聞こえるほど、勢いよく床に衝突する、男の顔面。
更にぐりぐりとねじ込むようにして、踏みつけ続ける少女メイド。
「──き、貴様、何ということを!」
「今すぐ、その足をどけろ!」
「小娘が! シブヤ治外法権特区区長であられる、
あまりの暴挙に、当然のようにいきり立つ、部下たちであったが、
「──馬鹿者! よさないか⁉ 無礼者は、貴様らのほうだ! このお方を、どなたと心得る、女王親衛隊の隊長閣下であらせられるのだぞ⁉」
「「「…………へ?」」」
頭を踏まれたままで放たれた、当の
「……親衛隊長って」
「そのメイドが、ですか?」
「ちょっ、ということは、『近衛師団長』でもあられるわけではありませんか⁉」
「──そう言っているのだ! わかったら、おまえらも
「「「ははーっ!!!」」」
まさに一瞬にして、会議場の床面のほとんどすべてが、むっさいおっさんたちの土下座で埋め尽くされた。
それを冷ややかで見回している、公称『近衛師団長』の少女に対して、恐る恐る言上する、こちらも公称『
「そ、それで、本日は、一体どのようなご用件で、メイ様?」
「……ご用件も何も、ありませんわ。どこかの能無し区長が、たかが『悪役令嬢』ごときに、手をこまねいているもので、ついに女王陛下の堪忍袋の緒が切れたというわけですの」
「──っ。ま、まさか⁉」
「ええ、そのまさかです」
予想だにできなかった事態に、まさしく現場責任者として進退窮まり、今度こそ完全に言葉を失う巨漢の中年男を尻目に、あっさりと驚愕の言葉を宣う幼い少女。
「──つまり、これより
「……『悪役令嬢狩り』って、おそらく
「──貴様! 我ら女王親衛隊を、愚弄するつもりか⁉」
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