第276話、あたしリ○ちゃん、あなたに最高の異世界転生をさせてあげるわ♡(その3)

「──こんなふうな『都市伝説』が、ここ最近ネット上でまことしやかに噂されているのを、ご存じですか?」


「──小説創作サイトで、『異世界転生』系の作品を創ったり、それに対して熱狂的な感想を送ったり、個人的にブログやツイッター等で『異世界転生』について熱く語ったりした人のもとに、『あたし、リ○ちゃん』、という文章で始まるメールが届くそうなんですよ」




「──それには、要約するとただ単に、『真に理想的な異世界転生を、するつもりはありませんか?』、といった文言が記されているそうです」




「──『イエス』と答えれば、どうなるのか?」


「──まさか本当に、異世界転生が実現できるわけでもないだろう?」


「──普通は、そのように、考えてしまいますよね?」


「──しかし何と、『イエス』と答えた人は全員、望み通りに異世界転生を行うことになったのです!」




「──ただし、むしろ自分自身の身のうちに、異世界人を転生させるという形でね」




「──それも、オークとかゴブリンとかオーガとかいった、異世界ならではのモンスターたちをね」


「──そうです、そうです」




「──例の、仮称『転生病』の発症による、これまで日本人以外の何物にも見えなかった被疑者たちが、突然暴徒と化し、『自爆テロ』そのままに暴れ始めた事件の裏には、必ず謎の『リ○ちゃんからのメール』が存在していたのですよ」




「──しかも、彼女たちの巧妙なる『工作活動』は、そのような表層的なものだけではなく、水面下においても着々と、広く根を張っていったのです」


「──ネット上における、異世界関係者の中でも、己自身Web小説を作成し、各種創作サイトで発表しつつも、イマイチぱっとしない、いわゆる『永遠のワナビ』の方々に対しても、何と『洗脳』が…………おっと失礼、『異世界からの転生』による、精神の乗っ取りが行われていたのです」


「──するとどうしたことでしょう、本人の劣等感コンプレックスによる嫉妬心に、異世界人の現代日本からの転生者による横暴への憎しみの感情がブレンドされて、そのようなテンプレ異世界転生作品を作成し、サイトのランキングの上位を占め、その実績と人気とでアニメ化すらも果たした、大成功者のWeb作家に対して、ネット上で非常に粘着極まる『アンチ活動』をし始めたのです!」


「──それも、一人や二人の数ではございません。まるで『おまえはその作家さんに、親でも殺されたのか?』と言いたくなるほどに、ネット上の当該大ヒット作家さんやその作品の専用版においては、『アンチどものふきだまり』と化してしまい、普通の神経を持っている人たちには、とてもニコニコしながら閲覧することができないという、『名前負け』な掲示板と成り下がっているといった体たらく。しかしそれにしても、いくら引きこもりのニートばかりとはいえ、何でそのように四六時中掲示板に張り付き粘着しているのか、普通そこまでするメリットは無いだろう? 『アンチ』や『ヘイト』なんて、やればやるほどエネルギーを無駄遣いするだけで、損じゃないの? そんなに『成功者』が妬ましいのか? それともそれこそどこかの組織だった『アンチ勢力』から、金でももらっているのか? ──とでも、皆さん思われていたでしょうが、実は何とその裏には、『異世界人の意志』が存在していたのです!」


「──そりゃそうでしょう、アニメ化するほどに一般大衆に受け容れられやすい、『テンプレ異世界転生』作品の主人公こそが、異世界において常に文字通りに『主人公面』をして、異世界人の迷惑を顧みず、やりたい放題やり尽くして、異世界人の男性に無償の強制労働を課したり、異世界人の美女や美少女たちを『ハーレム要員』として『性奴隷』化したりして、異世界人からの『ヘイト値』を溜め込んできたのですから、そりゃあファンタジー異世界ならではの『召喚術』を変則的に活用して、異世界のモンスターを現代日本に転生させて大暴れさせるといった、絶大なる効果を誇る破壊活動だってしでかそうというものでしょう」


「──え? 現実とフィクションとを、ごっちゃにするなですって?」


「──あはは、他ならぬ『語り部』殿──つまりは、『世界の作者』であられるあなたが、何をおっしゃっているのですか?」




「──現代物理学の中核をなす量子論に則れば、小説の中で異世界を描けば、現実にもそれとそっくり同じ世界観を有する異世界の存在が、のは、もはや常識でしょう」




「──何せ多世界解釈量子論に則れば、どのようなパターンの世界であろうと、すべてことになるのですからね」


「──それというのも、そもそも量子論そのものが、『この世界の未来には無限の可能性があり得る』ことを説いている理論ですので、我々が次の瞬間にも、小説に描かれた異世界そっくりの世界に転生する可能性もまた、けして否定できなくなるのですよ」


「──もちろん、存在しない世界に転生したりはできませんので、必然的に、小説に描かれたような本来架空のものであるはずの世界も、存在することになってしまうのです」


「──ていうか、あなたの『世界の作者』としての力は、この理論に則ってこそ、実現されているのですから、これってまさしく『釈迦に説法』でしたね、失礼失礼♡」




「──だったら同じように、異世界人が現代日本人に復讐をする小説を作成すれば、それが実現する可能性だってあるわけなのですよ」




「──そう、実は、大人気作家に対するコンプレックスをこじらせた、『永遠のワナビ』作家のうちの一人が、妬みや自己嫌悪のあまり、異世界人の立場に立って、現代日本人に対して復讐をするといった、まるで今回の事件そのものの小説を作成したのです」


「──そして彼はネット上で、『リ○ちゃんが異世界転生を叶えてくれる』という噂を故意に流して、『都市伝説』を自らのです」




「──都市伝説とは、本源的には実体のない『概念的存在』でしかないゆえに、誰かがその存在を強く願えば、むしろ本当に存在することになるのです」


「──それはまさしく、元々異世界転生の実現を熱望していた人たちが、『都市伝説』を信じ込み、自分にアクセスしてきたリ○ちゃんの申し出を、何の疑いもなく受け容れて、まるで暗示にかかるかのようにして、異世界のモンスターそのままになってしまったようにね」




「──ところで、精神科医や心理学者や物理学者といったふうに、何かと肩書きが多い私ですが、実はもう一つ、プライベートの『顔』を持っているのですよ」




「──まあ、最初は遊び半分に始めたんですけどね、いつの間にか結構本気でのめり込んでしまいましてねえ」




「──本当、『Web小説づくり』って、素晴らしいですよねえ」




「──でも、そのうち欲が出て来たんですよ。そう、世間でよく言う、Web作家ならではの、『承認欲求の肥大化』ていうやつですか?」


「──つい思ってしまったんですよ、何で世界の精神学界や心理学界の重鎮である、この私の超本格的な作品が、全然認められないというのに、口当たりがいいだけで中身のない、テンプレの作品ばかりがもてはやされるのかって」




「──そこで思い余って、私の愛用の『リ○ちゃん』人形に願ってしまったのです、私のことを認めてくれないこんな世の中なんて、異世界人たちに復讐されて、むちゃくちゃになってしまうがいい──ってね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る