第272話、わたくし、ジェット機誕生80周年を言祝ぎますの。【Me262版・後編】

「──それで、いよいよ本題に入ろうかと思うんだけど、Me262の主翼って言えば何よりも、これまた史上初の本格的な、『後退翼』であることだよね?」




「そうなの、まさしく後退翼であることこそが、他のドイツジェット機を始めとして、当時におけるすべてのジェット機とは比較にならない程の高性能──特に『高速性能』を発揮できた、最大の理由だったの。後退翼の優位性については、すでに述べているから、ここでは詳しく言及しないけど、Me262に関しては、一つだけ言っておきたいことがあるの。よくMe262が後退翼を採用したのは、『機体の設計変更による重心の移動に対応するために、偶然後退翼にすることになっただけの話』という説が,最も有力けど、あたしはけしてそれだけとは思わないの。なぜならこれまで述べてきたように、何よりも高速性こそを念頭に置いて、微に入り細に入り機体設計に全力を尽くしてきた技術陣が、後退翼を単なる偶然の産物と捉えることなんてあり得ず、ちゃんと後退翼の高速性こそに主眼を置いて、あれこれと微調整を行い、最先端のジェット機にふさわしく、より高速かつ安定した機体の実現を目指していったはずなの。事実メッサーシュミット社の技師たちは、主翼が途中から折れ曲がっているといった不格好な後退翼から、前縁すべてを一定の角度で後退させるように改めることによって、最高速度が時速700キロ止まりだったところを、時速800キロ以上出せるようにし、更には後退翼ならではの弱点である、低速時における『翼端失速』に関しては、メッサーシュミット社独自開発の『前縁間隙翼スラット』を付加することで、見事解消に成功しているの」




「へえ、やはり何よりも肝心な主翼においては、まさしく時代を超越したかのような新技術が、あれこれと惜しみなく投入されているんだ」


「それは何と言っても、ジェット機開発の最大の目的である、高速性能の実現のためには、後退翼の導入は絶対に必要だったからなの。現代の最新鋭ジェット機へと至るまでの、主翼の形状の変遷史をみるまでも無くおわかりのように、主翼の後退角を高めるほど高速化が実現するわけだけど、実はそれだけではなく、飛行体はスピードを上げて音速に近づくほどに、衝撃波に見舞われて機体破損の可能性が高まるものの、それに対して主翼の後退角度を拡大することによって、衝撃波の発生を抑えることができるので、まさに後退翼こそ、ジェット機のような高速機にとっては、無くてはならないものと言えるの」


「つまり、『スピードを出すためには後退翼を取り入れるべき』なんてレベルでは無く、『高速飛行を続けていれば、機体が破壊されかねないので、後退翼にするのは必須である』なんだ?」


「それなのに、終戦直後の英米においては、エンジンだけを新開発の高出力ジェットエンジンに変えた、相変わらずの旧態依然とした直線翼機に,時速1000キロを超過させる実験を繰り返して悦に入っていた時期があるんだけど、そのような遷音速域において主翼が後退していないと、衝撃波をもろ食らって機体が破損しかねないので、実験機ならともかく、実用機としてはとても運用できなかったはずなの」


「はあ〜、何だかんだ言っても、当時において本当にジェット機のことを理解していたのは、ドイツだけだったということかあ」


「それはMe262に採用された、これまた世界初の実用ジェットエンジンである、Jumo004についても同様なの。実は当時のジェットエンジンは名ばかりのものが多く、結局英米連合軍も日伊枢軸国も、プロペラ機程度の性能しか実現できなかったけど、Jumo004のみは、静止推力900キログラムという、当時のジェットエンジンにしては破格の大出力で、しかもいち早く実用化に成功して、Me262やAr234の大活躍に貢献したのはもちろん、Ho229やJu287の試験飛行も成功させることによって、『……何とドイツ第三帝国は、第二次世界大戦当時すでに、ジェット全翼機とジェット前進翼黄の開発に成功していたのだ!』という、破格の栄誉を永遠に誇り続けることを可能にしたの。逆に言えば、もし仮にドイツがJumo004の開発に失敗していたら、全翼機等の先鋭的な試作機はもちろん、何よりも重要なるMe262の実戦投入もならず、『ジェット機王国』とは呼ばれることなぞ無かったはずなの」




「……あ、でも、確かJumo004って、耐用時間が実質10時間くらいしか無かったり、それでなくとも故障しやすくて、空戦中にいきなりエンジンが止まってしまったりするなんてことが、あったんじゃなかったっけ?」


「──ったく、そういった物事の一面しか見ようとはせず、人の受け売りしかできない輩ばかりで、ホント、うんざりしちゃうわ」


「な、何よ、その言い草は⁉ これってむしろ、定説でしょう? 私何か、間違ったことでも言った⁉」




「間違ったことは言っていないけど、あまりにも考えが浅いの。あの大戦末期のあらゆる物資が欠乏状態にあったドイツにおいては、熱に強い希少な金属レアメタルを少なからず必要とするジェットエンジンを大量生産することは、本来不可能だったはずなの。それを超先進的な技術力でカバーして、希少金属レアメタルの『代替金属』を開発して多用することで、一応実用に耐えるものは実現できたものの、大量生産すればそれだけ不良品の絶対数が多くなり、そうでなくてもそもそも代用金属は、耐用時間が極端に短いものと相場が決まっているので、いろいろと不具合はあったものの、それは最初から織り込み済みのことであり、任務中のエンジンの不具合により多数の犠牲者は出したけれど、そのような万難を排しても実戦に投入することによって得ることのできた戦果は大きく、特に高速性を始めとするジェット機ならではの高性能を成し遂げたことは、誇ることはあってもけして卑下する必要なぞありはしないの!」




「ああ、まあねえ、それだけの実績を示したんじゃ、少々の不備を指摘したくらいでは、英米等の他のジェット機開発国にとっては、『負け惜しみ』以外の何物でも無いわよね」




「負け惜しみ? それどころではないの! 戦後ドイツに派遣された、『魔術師ウイザードワトソン』という通り名のアメリカ軍の情報将校ときたら、『Me262は、朝鮮戦争で(本格的な後退翼機である)F86が投入されるまでは、どのアメリカ空軍のジェット機よりも優秀であった』と、手放しで賞賛したほどなの。そのように、ジェット機としては紛う方なく人類史上『最初の一機』でありながら、味方のみならず敵からさえも、その群を抜いた優秀性を褒め讃えられたMe262こそは、たとえ時代が移って技術が進歩して各種の新型のジェット機が開発されようとも、その歴史価値はけして損なわれることなぞ無く、永遠の『最高傑作機』として讃え続けられるべきだと思うの」
















「何か、アメリカ陸軍航空隊の『ワトソン・ウイザーズ』とか聞くと、『パ○ツでないから、恥ずかしくないもん』を常套句としている、某魔女っ子部隊を連想してしまうよね♡」


「……それって、『シ○ミ子が悪いんだよ』同様、本編では使われていない台詞なの」


「ええっ⁉」

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