第270話、わたくし、ジェット機誕生80周年を言祝ぎますの。【後編】

「……ところで、都市伝説的存在であるメリーさんと、この子たち──He162の妖精的存在である『ザラマンダー幼女団』って、どう違うの? もしかして、同じようなものだったりするわけ?」




 私こと、かつてのHe162実験部隊第1戦闘航空団JG1『エーザウ』の司令大佐にして、『魔法令嬢育成学園』初等部六年生でもある、ヘルベーラ=イーレフェルトは、目の前にたたずんでいる、金髪碧眼に純白のワンピースをまとった、いかにも『避暑地のお嬢様』といった出で立ちの、自称『都市伝説』の幼女に向かって、現在自分にまとわりついている五名ほどの、犬耳に尻尾付きの可憐な幼女たちを指し示しながら、常日頃抱いていた疑問をぶつけてみた。




「……まあ、『概念的存在』であるところは、都市伝説であるあたしと同じようなものと言えるの。──ただし彼女たちはどちらかと言うと、『つくがみ』みたいなものなの」


「つ、付喪神って、年代物の骨董品や古道具なんかに、魂が宿って『妖怪』化するという、アレのこと⁉」


「今回の議題テーマを、忘れてもらっちゃ困るの。こうして生誕80周年を祝うくらいに、ドイツが世界初のジェット機を開発してから、相当の年月がたっているの」


 ──‼


「そ、そうか、大戦末期の最後の実用ジェット機であるHe162も、全機とも生産されてから、すでに80年くらいたつんだっけ」


 それが幼女の外見をして、犬耳や尻尾をつけているのって……。


 私のうろんな目つきに気づいたのか、あたかも「余計なことを言うな!」と言わんばかりに、メリーさんのほうを睨みつける、外見上は四、五歳ほどの幼女たち。




「──ふはははは、本作において『可愛い幼女♡』枠は、あたし一人だけでいいの……ッ」




 いかにも勝ち誇るかのように、滑走路中に大笑を響き渡らせる、自称『可愛い幼女♡』。


 それを見ていた幼女団の瞳が、禍々しい鮮血のごとき深紅へと、変わり果てていった。


「──っ。まさか、『原形化』⁉」


 何と、全身の肌や髪の毛までも、真っ白になったかと思えば、五人全員が一体化して、巨大なる一匹の獣が現れ出でたのであった。




「超巨大な………………………………………………ポメラニアン?」




 そう、そこに突然出現したのは、私の故郷ポメラニア地方原産の、小型愛玩犬の代名詞、ポメラニアン(スケール10000%ヴァージョン)であったのだ!




「ちょっ、待つの! あなた、待つの! いつまでも、待つ……グエッ!」


 情け容赦なく、メリーさんを踏み潰す、巨大ポメラニアン。




「……まあ、彼女も一応都市伝説なんだから、これくらいで死にはしないでしょう」




 ──と言うことで、前回に引き続き、【蘊蓄コーナー】へと移りまーす!




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──そうなの、確かにMiG15やF86は、大戦中に実用化されたMe262よりも、大幅に出力の大きなエンジンが使用されていたけど、その基本構造はジェットエンジンとしては原始的で劣等な『遠心式』であり、更に出力を高めていくにはエンジン正面の直径を大きくしなければならず、爆撃機や旅客機のような大型機ならともかく、戦闘機のような小型機においては、朝鮮戦争時点で限界となり、より高度な技術が必要とされるものの、直径を変えることなくどんどんと高出力化が達成可能な、まさしく大戦中にMe262が装備していた、『軸流式』ジェットエンジンを採用することになったの」




「待って待って待って待って待って待って待って待って待って!」




「私待○わ、いつまでも待○わ♫ ちなみに『艦○れ』の海防艦の私的ベスト艦む○も、『松』ちゃんなの♡」


「あ、でも、『艦○れ』の海防艦と言えば、まったくの新キャラの『○くら』ちゃんが発表されて、今話題騒然だそうよ?」




「その通り、あたし自身も、まったくもって、感無量なの……ッ」




「えっ、いきなり、どうした⁉」


「その『○』ちゃんを担当した絵師様が、誰あろう、エー氏なの」


「──! そ、それって、まさか⁉」




「そう、かの『2010年版あか』の、絵師様なの!」




「……何とまあ、言わば『オリジン』が、『艦○れ』に、ご降臨なさったわけ?」


「これで更に『艦○れ』は安泰だし、しかも業界における、大企業と個人クリエーターとの、新たなる関係の在り方モデルを示したとも言えるの」


「私たち外野には、『内部事情』はわかりかねるけど、とにかくめでたいことには違いないわよね」


「別にこんな豆知識を知る必要は無く、提督プレイヤーの皆様は、これまで通り『艦○れ』をお楽しみになれば、それでいいの」


「今のところ、ユーザーや二次創作家の皆様には、好評のようだし♫」


「──おっと、話が少々、脇道に逸れてしまったの」


「……少々でも無いようだけど、まあいいわ。──それで、何ですって? アメリカもソビエトも散々ドイツの技術をパクって、どうにか朝鮮戦争において本格的なジェット空中戦を実行したかと思ったら、それすらもすでに時代遅れでしかなく、技術的価値なぞ微塵も無く、結局は大戦中のドイツのレベルにさえも、追いつくことができなかったですって?」


「そもそも、朝鮮戦争に投下された航空機技術は、全般的に時代遅れだったの。爆撃機はジェット機かどころか、大戦中のB29をそのまま使って、最新鋭ジェット機のMiG15にバタバタ撃墜されてしまったし、そこで慌てて実戦投入したF86にしても、使用兵器が7,9ミリ機銃って、もはや第一次世界大戦レベルでしかなく、大戦中のMe262が使用した空対空ロケット弾、R4Mの足元にも及ばない有り様。もちろんアメリカとしてもR4Mのコピーに挑戦はしたんだけど、技術力が足りず劣化コピー品しか製造できず、計画をいったん取り止めたという体たらくなの」


「……はあ〜、ドイツのほうは第二次世界大戦前に、すでにジェット機を飛行させているというのに、何という技術レベルの差なの? 何でドイツは戦争に負けたわけ?」


「それだけジェット機というものが時代を先取りしすぎて、大戦中には真に効果的に運用できなかったというのもあるけど、ドイツにおいても、ジェット機開発そのものが、あまりはかばかしくなかったというのが実情なの」


「でも史実では、後続のイギリスが最初のジェット機を飛ばすのが、He178初飛行の一年以上も後のことで、結局最後までMe262と同レベルの実用機を投入することすらも、叶わなかったんでしょう?」


「確かにそうだけど、ここら辺のことについて徹底的に詳しく述べると、イギリスのほうが基本的に、フランク=ホイットルという一人の軍人兼科学者を中心にして、ジェット機やそのエンジンの開発を行っていたのに対して、ドイツのほうは、先駆的な実験を行い数々の世界記録を打ち立てるのを『ハインケル社』に一任しつつ、実用機の開発のほうは『メッサーシュミット社』に任せるといった、いわゆる『二本立て』でジェット機の開発を行っていたのであり、確かに『記録』的には英米に大きく差をつけているけど、実用機であるMe262やAr234を実際に実戦に投入したのは、1944年半ば頃という、イギリス空軍初のジェット戦闘機『グロスター・ミーティア』の実戦投入と、ほとんど変わらない時期だったの」


「えっ、そうなの? だったらその間、他国どころか、同じドイツの他のメーカーからも、大きくリードを取っていたハインケル社は、一体何をやっていたのよ?」


「ハインケル社は、確かに世界最初のジェット機を実際に飛行させたけど、それはあくまでも実験機に過ぎず、とても実用化などできない性能でしかなく、しかも実用化を目指して開発された新型エンジンであるHeS8エンジンさえも、最大耐用時間がたった一時間以内で、しかも故障する可能性も高く、とても実用には耐えず、結局より堅実な設計方針で開発が進められていたJumo004の完成を待って、Me262を実用化させることになったんだけど、それが達成されたのが1944年半ばだったわけ」


「……ああ、つまりはジェット機を本当に実用化させるには、どの国もそのくらい時間が必要だったということなのね?」


「そうなの、昔のドイツ機マニアや、下手したらプロの執筆家さえも、『ハインケルのジェット機が採用されなかったのは、政治的圧力のせいだ』とか、いい加減なことを言っている輩が多かったけど、実のところはただ単純に『技術的問題』に過ぎなかったのであり、結局は実用に足るジェットエンジンを作成できなかった、ハインケル社の自己責任なの」


「……それで、最後の最後にはプライドを捨てて、他社製のジェットエンジンであるBMW003を導入してまで、自社製のジェット戦闘機He162の大量生産に挑んだというのに、今度は終戦によってその夢が潰えてしまうなんて、ハインケル社はジェット機開発においては、完全に運に見放されていたわよねえ」


「とはいえ、ハインケル社におけるジェットエンジン開発が、まったく無駄だったということは無いの。むしろ後世に対して与えた、『時代を超越した新技術』としての影響のほどは、航空科学技術史上において、けして無視できない功績を数多あまた残しているの」


「『時代を超越した新技術』に、『けして無視できない功績』、ですって?」




「ジェットエンジン開発においては、自他共に認める『先駆者』であったハインケル社だけど、もちろんそれだけで満足することは無く、『実績』という観点からも『第一人者』になることを目指し、その一環として、何とそれこそ世界が認める『第一人者』となったJumo004の開発会社である、ユンカース社の発動機開発部門から技術者を引き抜き、自社内においてわざわざ新たに開発部門を設けて、He162に搭載されたBMW003相当の静止推力800キログラムを誇る、先進的な軸流式ジェットエンジンHeS30の開発を進めつつ、先程述べたように生産中止となったHeS8についても、そこで完全に諦めたりせず、何と現在のアメリカ空軍主力戦闘機であるF15やボーイング社のジャンボジェット機と同様の最先端技術である、ターボファンジェットエンジンとしての改良を施すことに成功し、そして何と言っても終戦直前においては、ドイツ第三帝国最後の希望である、軸流式と遠心式をミックスした新型大出力エンジン、HeS011の実用化一歩手前まで迫るといったふうに、ジェットエンジン開発のパイオニアとしての意地を見せつけたの」




「ええーっ! すでに80年前に、F15やジャンボジェット機と同等の、ジェットエンジンを開発していたですってえ⁉」




「もちろんそれは、何もハインケル社だけでは無く、ドイツの液冷式レシプロエンジンメーカーの代表格であるダイムラー・ベンツ社においても、ターボファンジェットエンジンであるDB007の自社開発を進めつつ、HeS011のターボプロップ型であるDB021への改造も行っていたし、Jumo004のユンカース社やBMW003のBMW社においても、二軸式ターボジェットエンジンや、長距離戦略爆撃機用の大出力ターボプロップエンジンの開発を進めていたといったふうに、ドイツにおいてはほぼすべての航空機エンジンメーカーが、先進的なジェットエンジンの開発に取り組んでいたのであって、まさしく人類の科学技術史においては、未来永劫讃えられるべき偉業であることには、間違いないの」

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