第253話、【連載250話突破記念】わたくし、すべては夏の暑さが悪いと思いますの。(後編)

「──っ。ということは、このKADOWAKAカドワカ自体が、『悪役令嬢結界』によって創られた、幻影みたいなものだったわけか⁉」


 あまりに驚愕の事実の発覚に、私こと『ワレキューレ隊』のリーダーにして、ついうっかり今回の『ザラマンダー幼女団誘拐KADOWAKAし事件』の片棒をかついでしまった、ヨウコ=タマモ=クミホ=メツボシは、思わずわめき立てながら、当の悪役令嬢であることが判明した、今回の主犯の少女のほうへと振り返った。




 しかしそこには相も変わらず、まるで幼稚園のお手伝いアルバイトでもしているように、シンプルなセーラー服にエプロンをまとった、いかにもおっとりとした雰囲気の、自称魔導大陸聯合艦隊所属の女学生が、柔和に微笑んでいるばかりであった。




「……大鯨シン・クジラ大姉、あなたは私のことを、騙していたのですか? なぜです、ネット上ではあんなにまで、『おねロリ至上主義者』の同志として、理解し合えたと思っていたのに、あれもすべて、偽りだったのですか⁉」




 もはや『質問』と言うよりも、『詰問』と言うべき勢いで食ってかかる私に対して、むしろ『きかん坊』でも相手にしているかのように、困り顔となる、悪役令嬢。


「……あら、まだわからないの? 私は『おねロリ』だからこそ、あなたを騙したのよ?」


 …………へ?


 私同様に『おねロリ』だから、私を騙したって? 何だそりゃ。


 もはや何が何だかわからなくなり、盛大に首をひねっていると、いかにも見かねたようにして、アルテミスが口を挟んできた。




「ヨウコちゃんたら、すっかり忘れているでしょう? 自分が小学五年生の、十歳の女子児童──すなわち、このKADOWAKA市においては、立派に『誘拐対象』に含まれる、ロリキャラであることを!」




 ………………………………あ。


「そうだ、そうだった! 自分自身、いつも大人口調というか男口調ばかり遣っているので、完全に忘れていたけど、私って『幼女』と言っても差し支えの無い、年齢設定だったっけ!」


 つまり、同じ『なが○ん』と言っても、『艦○れ』では無く、『アズ○ン』のほうだったわけだ。


「……ということは、大鯨シン・クジラ大姉も」


「ええ、最初からあなた自身も、れっきとした誘拐対象だったの。そんなあなたを唆して、『ザラマンダー幼女団』までおびき出すことができたのは、まさしく『鴨鍋』そのものだったわ」


「……くっ、『同好の士』の振りをして、この私まで毒牙にかけようとするとは、何と卑劣な! 大鯨シン・クジラ大姉──いやさ、『シン・クジラップスの悪役令嬢』! どこまで性根が腐っているのだ⁉」


「……うわあ、リーダーはんが、それを言うか?」


「ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン」


「まさにこれぞ、人を呪わば穴二つ、そのものね」


「そもそも自分もロリのくせに、『おねロリ』も無いでしょうが?」


「──そこ! 正論で、自分たちのリーダーを、追いつめようとするんじゃ無い!」


 そのように、同じ『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』同士で、馬鹿なやりとりを繰り広げていた、まさに、その刹那であった。




「──そうよお? ヨウコちゃんのお仲間の皆さん。あなたたち自身も御同様に、まんまとこのKADOWAKA市という名の、私の『悪役令嬢結界』の中におびき寄せられた、ロリキャラに過ぎないことを、お忘れではなくってえ?」




 ──‼


 ……まずい、そういえば、そうではないか⁉


「あ、いや、むしろここが貴様の『悪役令嬢結界』であるがために、私以外のメンバーがバトルコスチューム化していることからもわかるように、『魔法令嬢』としての超常の力を使えるわけで、むしろ多勢に無勢となって、貴様のほうが分が悪いのではないのか?」


「ふふふ、それは『悪役令嬢結界』ごとの、特質によるのではないかしらあ?」


「む、まさか『悪役令嬢結界』ごとに、それぞれ特質が違うとでも言うのか?」




「もちのろん☆ 『幼女誘拐専用治外法権都市』として設定されている、このKADOWAKA市においては、当然『獲物ターゲット』である幼女の力は弱体化して、『狩人ハンター』である『シン・クジラップスの悪役令嬢』たる、私の力が増幅するわけなの♡」




「な、何だと⁉」


「くふふふふ、いかな魔法令嬢といえども、この私の結界内においては、いつもの十分の一の力さえも、発揮できないでしょうね」


 そう言ってのけるや、深紅の唇の上で、盛んに舌なめずりを繰り返す、この非存在的世界の構成者。


「あはっ、何て間抜けな、魔法令嬢さんたちなのでしょう? 自ら私の巣穴に転がり込んでくるなんて。──さあ、『ザラマンダー幼女団』と一緒に、存分に可愛がってあげますから、大人しくホテルについてらっしゃい!」


 ──く、くそう。


 もしここが夢の世界同様の『悪役令嬢の結界』であれば、私自身も魔法令嬢としての超常の力が使えるはずであるが、まさに彼女の言う通りに、むしろ普段よりも力が低下しているほどであった。


 それは他の『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーたちも同様のようであって、誰一人とて手の出しようも無く、ただひたすら悪役令嬢のほうを睨みつけるばかりであった。




 ──まさにその時、何者かが、私の袖口を引っ張ったのである。




「──りーだー殿、りーだー殿」


「うん、君は、アルテミスのザラマンダーの、『ひるだ』だったか?」


「話を聞いておりましたが、つまりあの初対面の女性は、我らのまいすたーたる『わるきゅーれ隊』の皆様の、『敵』と言うことで、よろしいでしょうか?」


「ああ、まあ、そうなるけど……」


「わかりました。──ざらまんだー幼女団、総員ただちに、本機の後に続くであります!」


「「「「JAやー!」」」」


 そして、残りの幼女ザラマンダーたちを率いてとことこと、『シン・クジラップスの悪役令嬢』の許へと歩み行く、『ひるだ』ちゃん。


「まあまあ、自分たちから、来てくれるなんて、何というお利口さんばかり──ぶべしっ⁉」


 ひるだの軽いパンチ一発だけで、派手にぶっ飛ばされて、ハイ○ース共々、砂漠の彼方へと消え去る悪役令嬢。


 ──それと同時に、『悪役令嬢結界』が消滅して、いつしか我々も、砂漠のど真ん中に、ぽつんとたたずんでいた。


「……ええと、ひるだちゃん、今のは一体? 君たちだって幼女なんだから、力が制限されていたのではないのかな?」


 その愛らしい外見からは想像だにできなかった、底なしのパワフルぶりを見せつけられて、恐る恐る問いかける、誘拐犯の片棒かつぎ。


 それに対して、あまりに予想外の言葉を返してくる、ひるだちゃん。




「──ないん、本機は幼女に非ず! あくまでもHe162の化身にして、静止推力800kg──馬力換算でおよそ3000馬力を誇り、たとえ悪役令嬢であろうと、ぱんち一発でのっくあうとであります!」




「えっ、君たちって、そんなに強かったの⁉」


 よ、良かった、下手に手を出さないで。


「あ、でも、大鯨シン・クジラ大姉だって、聯合艦隊所属だから、軍艦パワーで──」


「──ヨウコちゃん、それ以上はいけない!」


 なぜか血相を変えて、本日最大の慌てぶりで、私の言葉を遮る、アルテミス。


「聯合艦隊所属だからって、軍艦擬人化美少女キャラとは決まっていないし、著作権その他諸々の関係上、『クジラ』の名前が付いているのが、『大鯨』しか思いつかなかったことに、しておいてちょうだい!」


「……お、おお、わかったよ」


 アルテミスが何を言っているのか、さっぱりわからなかったが、そのあまりに必死な形相に、つい頷いてしまうのであった。(棒)


「そこら辺のところは、もう何も言及するつもりはないけど、こんな砂漠のど真ん中に置いてきぼりにされて、どうやって学園に戻ればいいのだ?」


「それについても、ご心配なく。どうぞご覧になってください、りーだー殿!」


「見ろって、何を………………って、おわっ⁉」


 振り向けば、何とそこには、砂漠に不時着したと言う他のメンバーの乗機だけでなく、私の乗機をも含めて、5機のHe162が勢揃いしていたのだ。


「……一体、いつの間に」


なに、当然のことであります」


「何せ、我々のいるところに、He162があり、He162があるところに、我々がいるのですから」


 完全に呆気にとられてしまった私に対して、口々に答えを返す、ひるだと私の乗機の妖精である、『らな』の二人であった。


「何と、『ザラマンダー幼女団』には、そんな驚きの機能まで、あったのか────って、ちょっとらなさん、何で私の両腕に、手錠なんかかけているのですか?」




「今回の件については、まいすたーも同罪であります! よって学園でお待ちになっている、まいすたーの使い魔のさろめ様に、お仕置きをしていただく所存であります!」




「──ちょっ、サロメにお仕置きをさせるとか、私を殺す気か⁉」


「残念ながら、すべてはまいすたーの自業自得であります! ──なお、帰りの航行については、すべて本機が自動操縦しすてむで行いますので、どうぞご安心を」




 そう言い放つや、無情にも私をHe162のほうへと引っ立てていく、『ザラマンダーの幼女』。




「やめろ、やめてくれ! 嫌あ、サロメのお仕置き、嫌ああああああああ!!!」




 砂漠のど真ん中で響き渡る、私の哀願の叫び声。




 しかしそれに応えてくれる者なぞ、今この場に存在する、魔法令嬢とザラマンダー幼女団の、双方の構成員を全員合わせても、ただの一人もいなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る