第252話、【連載250話突破記念】わたくし、すべては夏の暑さが悪いと思いますの。(中編)

「……おまえたち、どうして、ここに」




 私は、自分自身がリーダーをしている『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーたちが、地図にも載っておらず完全なる治外法権下にある、このKADOWAKAカドワカに、魔法令嬢の任務遂行時の正装であるバトルコスチュームをまとって、当然のように姿を現したことに、戦慄しながら問いかけた。




 ……するとなぜか、いかにもあきれ顔で、次々と答えを返してくる、同級生たち。




「いや、リーダーはんってば、あからさまに、挙動不審やったし……」


「どんなにわたくしたちがついていこうとしても、頑として断ったしね」


「……ていうか、『「ザラマンダー幼女団」の訓練は、リーダーであるこの私の責務である!』とか言って、私たち指揮官マイスターからそれぞれの専用機であるザラマンダーたちを、強引に引き離そうとすること自体が、無理があったし」


「しかも、その移動手段が、真っ白なハイ○ースだなんて、もはや『犯罪臭』しかしないではありませんか?」




 ……まったくの、正論であった。正直、ぐうの音を出やしなかった。


「──だ、だったら、どうしてそのハイ○ースに、おまえたちが追いつくことができたんだ? しかも何度も言うように、ここは地図にも載っていない、『秘匿都市』なんだぞ?」


「いやだって、私たち、ジェット機パイロットだし」


「He162やったら、ハイ○ースに追いつくぐらい、アッという間や」


「とはいえ、なんかこの都市の付近にさしかかったとたん、強力な電波妨害や何やらで、航行不能になって、砂漠に不時着しちゃったけどね」


「ただし、ザラマンダーたちの白スク水には、超小型かつ超高性能の発信器が仕込まれているから、後は徒歩でここへとたどり着いたというわけですわ」




「──いや、おまえら、簡単に言うけど、確かに夢の世界の中では魔法令嬢ではあるものの、この現実世界においては単なるJS女子小学生に過ぎないおまえらが、航行不能になった軍用機を、何で無事に不時着させることができたのだ⁉」




「……おいおい、仮にも『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のリーダーが、何を今更なことを言うておるんや?」


「確かに超常の力を発揮できるのは夢の中だけだけど、わたくしたちが魔法令嬢であることには相違無く、この身には膨大なる魔導力が秘められているからして、魔法令嬢用にカスタマイズされたHe162内の、『制御系』か『駆動系』かにかかわらずふんだんに使用されている量子魔導クォンタムマジックパーツが、わたくしたちの魔導力を原動力エネルギーにして、どのような妨害工作をもものとはしない超常的パワーを発揮して、わたくしたちの思い通りに動いてくれたってわけなのよ」


「実はザラマンダーの発信器にも、それぞれの指揮官マイスターの魔導力が秘められているので、少々のジャミングなぞ問題にせず、私たちの量子魔導クォンタムマジックスマートフォン上に、常に現在位置を表示してくれているの」


「……というか、これらのことについては、リーダーであるあなただったら、当然ご承知のことではありませんの?」


 ──しまった、そういえば、そうだった!


「……ヨウコちゃん、あなた」


 いかん、大鯨シン・クジラ大姉が、いかにもあきれ果てたような視線で、私のことを見ていらっしゃるではないか⁉


「だ、大丈夫です、まだ私たちは負けていません! 先ほども申しましたが、我々魔法令嬢は現実世界においては、単なる無力なJS女子小学生に過ぎないのです! 私と大姉が力を合わせれば、撃退あるいは無力化も、造作もないことでしょう!」


「……いや、撃退とか無力化って、私は構わないんだけど、あなたはいいの? 仮にも、この子たちのリーダーなんでしょう?」




「今の私は魔法令嬢やワルキューレである前に、一個の『おねロリ信者』であります!」




「……うわあ、ヨウコちゃんたら、ついに断言しちゃったよ」


「そこまで完全に、魅入られていたとは」


「もはや処置無しやな」


「早く目を覚まさせて差し上げなくては!」




「……うん? みんな、一体何を言っているんだ? 魅入られているとか、目を覚まさせるとか」


「リーダーはん、さっきうちらのこと、ただのJS女子小学生とか言っていたけど、この格好見て、何も思わないんか?」


「何もって、いつものバトルコスチューム…………って、何だと⁉」


「ようやく、気づいたみたいねえ」


「何で、夢の世界でも無いのに、おまえらが揃いも揃って、バトルコスチュームを装着しているんだ⁉」


「それは当然、ここが『普通の世界』ではからよ」


「な、何?」


「……あなたねえ、KADOWAKA市だか何だか知りませんが、本当に現実世界において、幼女を誘拐しても何の罪にも問われない、一部の歪んだ嗜好の変質者にとっての理想郷アルカディアみたいな都市なんかが、実在するとでも思っていらっしゃったの?」


 何、だと?


「いやでも、事実こうしてちゃんと、この都市は、実在しているではないか⁉」




「──実在なんか、していないよ」




 唐突にすぐ真正面から突き付けられる、氷のごとく冷たい声音。


 何とそれは間違いなく、我々メンバーにとっての愛玩動物マスコット的存在であるはずのアルテミスの、花の蕾そのままの小ぶりな唇から放たれたものであった。


「まだわからないの、ヨウコちゃん。そもそも私たちがこうして魔法令嬢となれる空間が、ごく普通の現実的空間であるはずが無いでしょうが」


「……おいおい、まさかおまえは、ここが夢の世界の中だとでも言うつもりなのか? ──いや、そうか! 夢同様のもう一つの非現実的空間、『悪役令嬢の結界』か⁉」


 ──となると、つまりは。


 ようやく『真実』に気づいた私は、慌てて『共犯者』である女性のほうへと振り向いた。


 そう、考えてみれば、その素性をまったく知らない、ほぼ初対面に等しい少女のほうを。


「……大鯨シン・クジラ大姉、あなたは、一体」


「あら、まだわからない? 『悪役令嬢の結界』を構築できる存在なんて、この世にただ一つしかいないでしょう?」




「……悪役、令嬢」




「──その通り、私こそは『おねロリ』の守護者たる、真なる鯨の名のシン・クジラ・付く軍艦シップス──略して、『シン・クジラップスの悪役令嬢』よ!」












「……え、これって、【連載250回突破記念】の番外編とか、作者が暑気あたりのために書き殴った手抜きとかではなく、むしろレギュラーである『魔法令嬢VS悪役令嬢』モノだったの⁉」












「ていうか、何だよ、『クジラップス』とか『おねロリ』って」


「そういや、御本家の『クジラッ○ス』先生って、『おねショタ』方面に進出なされたそうやで?」


「……『鬼畜○リ』の大家が、もったいない」


「いえいえ、『おねショタ』ジャンルを盛り上げる意味からも、むしろ大歓迎ですわ♡」

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