第249話、わたくし、『ドイツ幼女団』の指揮官になりましたの。(その2)

「──アイン、ツヴァイ、ドライ!」




「「「「──アイン、ツヴァイ、ドライ!」」」」




 聖レーン転生教団直営の『魔法令嬢育成学園』の敷地内に併設されている、魔導大陸特設空軍基地第一格納庫前の広場にて響き渡る、元気いっぱいな舌っ足らずの声。


 裾の短いノースリーブの純白のワンピースに包み込まれた、年の頃四、五歳ほどの矮躯に、淡いプラチナブロンドのショートボブの髪の毛に縁取られた、小作りに整った顔の中で、昇る朝陽を浴びて煌めいている、水色の瞳。


 そんな西洋人形そのままな外見を誇る、まるで五つ子のようにそっくりな五人の幼女が、一生懸命短い手足を振り回して、昔ながらの夏休みの風物詩である『ラジオ体操』をしている有り様は、思わずほっこりと和まずにはおれなかった。




「──ふっ、さすがは私の『ザラマンダー幼女団』、見事に五人全員が、息もぴったりシンクロしているな」




 そのように至極ご満悦げにつぶやくのは、我々『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』にして、最新鋭ジェット戦闘機He162の、JS女子小学生パイロットチーム『ワレキューレ隊』のリーダーである、『ミリオタの魔法令嬢』ことワルキューレ1のヨウコちゃん。


 ……いや、いかにもさわやかな笑顔で、さらっと『問題発言』をしないでもらいたいんだけど。


 彼女たちのことを、『ザラマンダー幼女団』と名付けたことに関しては、まあ、妥当な線であろう。


 彼女たちの自称通りの、『ドイツ幼女団』てのを呼称し続けるのは、何かとまずそうだしね。


 とはいえ、勝手に「ザラマンダー幼女団」と宣言するのは、いかがなものか?


 何せ、He162の妖精のような存在である彼女たちは、私たちワルキューレ隊それぞれの愛機一機につき、一人ずつ付いている(憑いている?)のだからして、基本的にはメンバー個々人の所有物であり、強いて言えば隊全体の共有物なのであって、たとえリーダーであろうが、ヨウコちゃんが一人で独占することなぞ許されないのだ。


 ……彼女ってば、前から思っていたんだけど、いかにも男前な容姿や言動からして、『艦○れ』の某戦艦や『アズ○ン』の某空母を思わせるところが多々あるんだけど、やはり『同じ穴の狢ガチのロリ○ン』だったのか……ッ。


『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』きってのマスコットキャラである、わたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナが、いつになく戦慄した表情を浮かべていれば、ようやくだらしなく鼻の下を伸ばしていた表情をキリッと引き締めて、幼女団に向かって声をかける、疑惑のリーダー殿。


「──よし、体操やめ! 横列に整列!」


「「「「「JAやー!」」」」」


「続いて、自己申告! ──まずは、『ザラマンダー1』から!」


「──本機は、He162『ざらまんだー』一番機、『らな』であります!」


「──本機は、He162『ざらまんだー』二番機、『くらりす』であります!」


「──本機は、He162『ざらまんだー』三番機、『ひるだ』であります!」


「──本機は、He162『ざらまんだー』四番機、『しーた』であります!」


「──本機は、He162『ざらまんだー』五番機、『きき』であります!」




「「「「「我ら五機揃って、『ざらまんだー幼女団』であります!!!」」」」」




「──ようし、いいぞ! 最高だ! 『本番』も、この調子で頼むぞ! では、解散!」


「「「「「──JAやー!」」」」」」


 ……いや、何だよ、『本番』て、AVかよ⁉


 それはともかくとして、ヨウコちゃんの号令一下、途端に規律正しき少女兵の表情を消し去り、歳相応のあどけなさを表に出して、それぞれの専属パイロットのほうへととてとてと、頼りなげな足取りで駆け寄っていく。


 ──もちろんわたくしの腕の中にも、『ざらまんだー』三番機の『ひるだ』が、抱きつくように飛び込んできた。


「まいすたー!」


「あははははっ、くすぐったいじゃないの! こらっ、そんなにしゃにむに頬ずりをしちゃ駄目だって!」


 完全にただの幼女に立ち戻って、『御主人様マイスター』──というか、『指揮官マイスター』であるわたくしにじゃれついてくる、『ヒルダ』ちゃん。


 周囲を見やれば、他の『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーたちと、それぞれの幼女ザラマンダーたちも、大体同じような『ラブラブぶり♡』を発揮していた。


 ──まさに、そのような、いかにも微笑ましき雰囲気に包み込まれていた、その時であった。




「「「「「……妬ましい、妬ましい」」」」」




 唐突に、格納庫前の広場に鳴り響く、おどろおどろしい声。


 思わず振り向けば、幅広の通路の端に止めてある輸送車の影から、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーそれぞれの『使い魔』の皆様が、こちらのほうをいかにも恨めしげに見つめていた。




「……お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様、お姉様」




 ──安定の、『百合姉妹』っぷりは、言わずと知れた、ワレキューレ5のタチコちゃんの、使い魔にして『魂の妹ソウル・シスター』である、ユネコちゃん。


 その他、ワレキューレ1のヨウコちゃんやワレキューレ2のユーちゃんやワレキューレ4のメアちゃんたちの、『使い魔』の皆さんも、大体同じようなものだったけど、




「──お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様、お嬢様」




 ユネコちゃん同様の、安定の『ヤンデレ』っぷりをご披露してくれているのは、ワルキューレ3ことわたくしの、使い魔兼専属メイドの、メイ=アカシャ=ドーマンさんでした。




 何で、本来なら常に魔法令嬢と共にあるべき彼女たちが、このように距離を置いてこそこそと物陰に隠れて、こちらを窺っているのかと言うと、少しでもわたくしたち魔法令嬢に近づこうとすると、


「──っ。何よ、その目つきは? いい加減に、お姉様から離れてちょうだい!」


 まるで子猫が外敵を威嚇するかのように、うなり声を上げながら、タチコちゃんのほうに歩み寄ろうとしていたユネコちゃんを牽制する、タチコちゃんの腕の中の、ザラマンダー5『きき』ちゃん。


「ふ、ふざけないでよ、今流行りの戦闘機擬人化美少女キャラだか何だか知らないけど、タチコお姉様のお側に侍るべきなのは、妹で使い魔である、この私だけなのよ!」


 そのようにわめき立てて、不可視の強大な威圧感の障壁バリアを乗り越えて、こちらへと迫り来ようとした、その瞬間。


「──きゃっ⁉」


 文字通り、バリアにでも弾かれたかのように、後ろへと跳ね飛ばされる使い魔の少女。


「ゆ、ユネコ、大丈夫⁉」


 これには堪りかねて、慌てて走り寄ろうとした、タチコちゃんであったが、


「──! あ、あなた⁉」


 何と、彼女の右腕に両腕を絡めて、全身を使って押しとどめる、ききちゃん。


 そして非常に真剣な表情をたたえながら、首を左右に振る。




 まるで、魔法令嬢であるタチコちゃんを、使い魔であるユネコちゃんから、するかのように。




 ──それもある意味、無理からぬ話であった。


 実は最近、学園内で、不可思議な事件が、立て続けに起こっていたのだ。


 寄宿舎内において、突然に昏睡状態となってしまう、魔法令嬢たち。


 なぜか決まって姿を消してしまう、彼女たちの使い魔。




 ──そう、あたかもまさにその使い魔たちこそが、己のあるじの魂を奪い去ってから、行方をくらましたかのように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る