第248話、わたくし、『ドイツ幼女団』の指揮官になりましたの。(その1)

 ──聖レーン転生教団直営、『魔法令嬢育成学園』の敷地内に併設されている、初等部生専用寄宿舎、深夜23時。


 明かり一つついていない、真っ暗闇の中、一つの部屋の扉がそっと開かれて、忍び込む一つの人影。




「……げへへ、思った通り、アルテミスお嬢様と相部屋のアグネス様は、魔法令嬢としての補習訓練のために、まだお帰りになっていないようですねえ」




 そして私こと、お嬢様の忠実なるメイドにして、魔法令嬢にとっては無くてはならない『使い魔』でもある、メイ=アカシャ=ドーマンは、抜き足差し足忍び足で、お嬢様のベッドへと近づいていった。


「これは何も、いかがわしいことを行おうとしているのでは、ございません。いわゆる若かりし時のとよとみひでよしを見習って、『お嬢様のお布団を、このメス猿めが、人肌でぬくめておきました♡』ということに過ぎないのですからね。まあ、その過程で、お嬢様のニホヒを堪能することになるのは、あくまでもこのご奉仕活動の副産物的なものでしかなく、別にそれこそが目的というわけではないのです」


 そのように、言い訳じみたことを口にしながら、いざベッドの中に潜り込んで、お嬢様のことを待ち伏せしようとしたところ──




「ふんぎゃああああああああああああああああああああ⁉」




 寄宿舎中に轟き渡らんとする、特大の悲鳴が、私の唇から飛び出したのである。




「──ちょっと、どうしたの、今の声⁉」




 そして慌てて飛び込んでくる、アグネス様を伴った、愛しのお嬢様。


 私としては当然のごとく、あまりの恐怖ゆえに、体当たりするようにして、彼女の許へと飛び込んでいく。


「──死ねえええええええええええええええええええ!!!」


「何その、むしろこっちのほうが、恐怖しか感じられない、必死の形相に、腰だめに構えた、文化包丁は⁉」


 しかしそこは何といっても、現役の『魔法令嬢』のお嬢様、ひらりとお避けになるや、逆に私のことを後ろから羽交い締めにして押さえ込む。


「放してください、この『スケコマシJS女子小学生』! 私というものがありながら、アグネス様だけでは飽き足らず、あのような幼女まで、ご自分のベッドの中に連れ込んだりして!」


「は? 幼女って………………………………ちょっと、あなた、一体誰よ⁉」


 そこで初めて気がついたようにして、ベッドのほうへ声をかけるお嬢様。──何て、白々しい!


 そしてその言葉に応じるようにして、やおらベッドから降り立つ、年の頃四、五歳ほどの矮躯。


 淡いプラチナブロンドのショートボブの髪の毛に縁取られた、小作りに整った顔の中でキリリと輝いている、水色の瞳。


 私たちが完全に言葉を失っている中で、裾の短いノースリーブの純白のワンピースを翻して、右手を高々と挙げるや、お嬢様に向かって声高に、舌足らずの名乗りを上げた。




「ぐーてん、なはと、まいん、! 本機は、He162『ざらまんだー』三番機、『ひるだ』であります!」




「「「なっ⁉」」」


 アグネス様をも含んで、驚きの声を上げる私たち。


 なぜなら、その言葉は、あまりにも聞き捨てならなかったのだ。


「マイスター──つまりは、『御主人様』ですと⁉ お嬢様のことをそう呼んでいいのは、メイドにして使い魔である、この私だけだというのに! 貴様、やはり私から、お嬢様のことを奪う気か⁉」


「メイ、ツッコミどころが、完全に間違っているわ! むしろ問題にすべきは、その後のほうでしょうが⁉」


「……へ? その後って、何か言ってましたっけ?」


「言っていたじゃない、『He162三番機』って! ちょっとあなた、それって、どういうことよ⁉」


 幼女である自分よりも更に幼い女の子へと、詰問口調で迫っていくお嬢様。


 すると右手を上げた姿勢のままで、力強く答えを返す、謎の幼女。


 ──見える見える、そのワンピース、裾が異常に短いんだから、そんなに右手を思いっきり挙げたりしたら!




「つまり本機は、まいんまいすたーの乗機の中核たましい的存在が、人間の形へと、へんしたものであります!」




「えっ、それってつまりは、あなたって本質的には、私たち『ワルキューレ隊』の、He162三号機というわけなの⁉」


JAやー!」


 キリッと真面目くさった表情のままで、あっさりと答えを返す、自称『最新型ジェット戦闘機』そのものの幼女。




 ──って、つまりはまたしても、『戦闘機の美少女擬人化』イベントかよ⁉




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「別に、戦闘機が女の子になるくらい、おかしくも何ともないの。要は、現代日本の都市伝説であるはずのあたしが、こうして異世界に存在しているのと、同じ『理屈』なの」




 突然現れて自らを戦闘機だと名乗った幼女と、ほぼ同じくらいの歳の幼女が、毎度お馴染みの何の感情も窺えないクールな無表情で言ってのける。




『餅は餅屋』であり、『怪奇現象には怪奇現象』ということで、生ける都市伝説の『メリーさん』に相談を持ちかけてみたところ、あっさりと答えを示してくれたのであった。


「……メリーさんと同じ理屈ということは、『誰かがこの世界において、He162が女の子として存在することを望んだから』というわけ?」


「その通りなの、あなたでは無いとしたら、あなた以外の『ワルキューレ隊』の誰かが、そのように願っているはずなの」


「ああ、何となくだけど、心当たりがあるわ」


 やっぱ、こういったことをしでかすのは、『ミリオタの魔法令嬢』として名高い、あの子だよな。


「それは良かったの。──しかし、問題のは、そこでは無いの」


「え? 問題の在り処って……」




「わざわざあなたたちの乗機が、女の子にへんして姿を現したということは、超常の力を有する彼女たちが直接出張らなければならないほどの危機が、自らの『御主人様マイスター』である、あなたたち『ワルキューレ隊』に迫っていることの証しなの」




 ──‼

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