第202話、わたくし、『異世界転生型ヤンデレ』なら、死者の恋もOKかと思いますの(その2)

『──お久し振り! みんな大好き、『なろうの女神』デッス☆ 今日は本作の主人公のうえゆう君の疑問にお答えして、毎度お馴染みの『異世界転生』の仕組みを活用することで、果たして『死者のヤンデレ的復活』が本当に可能なのかどうか、懇切丁寧にご説明いたします♡』




「………………けっ、何だよ、『なろうの女神』か。とんだだぜ……ッ」




 僕こと、名門明石あかしつき一族の筆頭分家の後継者、上無祐記の愛用のコバルトブルーのスマートフォンの画面に突然姿を現した、禍々しくも可憐なる漆黒のゴスロリドレスを身にまとった、十三、四歳ほどの妖艶なる美少女──ご存じ『なろうの女神』の、たわけた口上を聞くやいなや、こみ上げてくる不快感を隠そうともせずに、吐き捨てるようにそう言った。




『──ちょ、ちょっと、何よその、いきなりの「塩対応」は⁉ 私が一体何をしたと言うのよ!』


「……まったくよう、同じように『異世界転生×ヤンデレ』をテーマにしている、『なろうの女神が支配する』のほうは、美人の上級生が解説役を担ってくれているというのに、こっちは相変わらず、おまえがやるのかよ? ──つうか、むしろ『なろうの女神』本人であるおまえこそが、あっちで解説役をやるべきじゃないのか?」


『うん、私自身不思議に思っているんだけど、私って、あっちの作品には、一度も登場したこと無いんだわ。──ほんと、一体何を考えているんだろうね、この作品の作者って』


「だからって、こっちの作品ばかりに、登場することもないだろうが⁉ 何だよ、本作の【現代日本編】における解説役ときたら、ほとんど毎回おまえじゃないか? 僕だってたまには、美人上級生のお姉様から、じっくり詳細に解説をしてもらいたいよ!」


『……あー』


「な、何だよ? 急に人のことを、いかにも『可哀想な子』を見るような目つきで見て?」


『実はこの【現代日本編】って、作者の最初期のヒット作の、「ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕」をベースにしているのは、ご存じよね?』


「ああ、まあ……」


『まさにその作中に、主人公にいろいろとアドバイス──と言う名の、ねっちこい「蘊蓄」ばかりを語る、美人先輩のバイプレイヤーがいたじゃない』


「うん、いたね、この場合『プレイヤー』が意味するところは、単に『脇役』と言うだけではなく、『両刀遣いバイセクシャル』でもあったりした、妙に読者様に人気を博したキャラが」




『実はね、何と彼女こそが、さっきあなた自身が例に挙げた、「なろうの女神が支配する」の作中の、「美人上級生のお姉様」のベースキャラクターに当たるの』




 ………………………………………………はい?


「ちょっ、どういうことだよ、それは⁉ 何で本作の基になった作品の、名物かつ美形キャラが、他の作品で再活用されているんだよ? もうわけのわからない『エセ女神キャラ』による、極論ばかりの蘊蓄コーナーにはうんざりしているんだから、本作にこそ登場させてくれよ⁉」


『──む、「わけがわからない」とか、「エセ女神」とか、言ってくれるじゃない? むしろ時代は「上級生キャラ」なんかではなく、「ほっ○ちゃん」や「メ○ーさん」に代表される「幼女キャラ」なんだから、もっと私のことをありがたがりなさいよ⁉』


「何が、幼女だ⁉ あんた見かけ上は十三、四歳くらいだし、そもそも『ロリBBA』的存在なんだろうが⁉ それで『幼女』を騙ろうとは、図々しいもほどがある。──実は僕って以前から、JKなのに『ロリキャラ』扱いする作品って、もはや『詐欺レベル』じゃないのかって、思っていたほどなのに」


『──それ以上は、言っちゃ駄目! あなたそのうち本当に、消されてしまうわよ? Web小説界的に』


「……まあ、いい。これ以上、蘊蓄解説の担い手に、不満を述べても意味は無いからな。じゃあ、さっさと解説を始めてくれ」


『何その、横柄な言い草は? だったら最初から、文句を言わなければいいじゃない!』


「それで、本作でも『異世界転生×ヤンデレ』キャンペーンが、本格的に開始されたかと思ったら、こうしていきなり【現代日本編】に突入して、しかもよりによってテーマが、『すでに死んでるキャラによるヤンデレ』などという、変則パターンで来たわけだが、これって一体どういった仕組みで成り立っているんだ?」


『私のクレームは、スルーかよ⁉ ………もう、いいわよ、ふんっ、どういった仕組みですって? 言うまでもないでしょう、「異世界転生×ヤンデレ」キャンペーンなんだから、いつものごとく、異世界転生の仕組みを活用しているのよ』


「……異世界転生の仕組みって、今回は別に、異世界は関わっていないだろうが?」


『これって、作者の別の作品において、「実は『リ○ロ型の死に戻り』も、ちゃんと論理的に実現できるんじゃないのか?」について述べた時に、すでに解説済みなんだけど、毎度お馴染みの「二つの世界間においては、お互いにあらゆる時点にアクセスできる」という、本作独自の基本的理論は、一見いかにも「現代日本と異世界」の間の話のようにも思えるものの、でもこの「二つの世界間」って、現代日本同士でもいいし、異世界同士でもいいわけじゃない?』


 …………あ。


『よって、ある人物が死んでしまった後に、まさにその世界における未来へと転生したって、別に構わないってことなのよ。何せ元々「転生」って、「生まれ変わる」という意味なんだから、現代日本から現代日本へと、別の人物に生まれ変わっても、あなたたちが普段言っている「異世界転生」と、何も変わるところは無く、当然その「仕組み」のほうも、完全に適用することができるって次第なの』


「……と、言うことは」


『ええ、もはや言うまでもなく、「集合的無意識へのアクセス」方式よ。何せ集合的無意識には、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の「記憶と知識」が集まってきているんだから、当然のごとく、「すでに亡くなった人物の記憶と知識」も存在していることになり、それを誰か存命中の人物の脳みそにインストールすれば、あ〜ら不思議、別に異世界も魔界も絡める必要も無く、「死者の転生」を実現することができるわけ』


「なるほど、それで今回のように、『すでに死せる者のヤンデレ化』という、これまでに無いパターンを、実行することができたのか」


『あら、それは少々違うんじゃないのお? 実のところ「死者のヤンデレ化」は、そんなに珍しいものではなく、むしろ「恋人に捨てられた女性が化けて出て復讐をする」とかいった、ホラー作品の黄金パターンなんて、「死者のヤンデレ化」そのものと言えるだろうし。それに対して、本作がヤンデレ作品にあっても非常に特異な存在であり得るのは、実は「死者であり、なおかつ、生者でもある、二重的ヤンデレパターン」だからなの』


「はあ? 死者であり、なおかつ、生者でもある、って……」


『うふふふふ、これぞまさしく、作者のもう一つの代表作である「なろうの女神が支配する」において、現在絶賛展開中のエピソードのメインヒロインたる、「何としても実の父親を肉欲的に篭絡しないと、未来において自分が誕生することが無くなるので、手段を選ばず父親に執着して肉体関係を迫り、邪魔な泥棒猫どもは実力で排除しようとする、現在実の母親の肉体に宿っている、未来から転生してきた『実の娘の精神体』」に負けず劣らずの、「最強かつ最凶のヤンデレヒロイン」とも呼び得るでしょうね。──まず『死者としてのヤンデレ』の側面についてだけど、これはさっきも言ったように、「ホラー作品における悪霊ヒロイン」類似のパターンだから、まさしく文字通りに「ザ・女の執念☆」的に、ヤンデレの神髄を体現しているの。何せ一度死んでおきながら、奇跡的に甦ることによって、再び愛する人の許に戻れたのですからね、「もう二度と放すものか!」と、心身共にしがみついて離れようとしないだろうし、しかも実質的には「幽霊みたいなもの」なんだから、すでに人間としての倫理観から外れてしまっているので、自分の恋路の邪魔になる「泥棒猫」どもなんて、平気で実力行使でもって排除することでしょうねえ♡』


 ……こ、こいつ、一応女神を名乗っているくせに、こういう話になると、途端に活き活きしやがって。本当は『女神』ではなく、『死神』じゃないかの⁉


 そのように、僕が胸中でこっそりと、スマホの中の少女に対して、あらぬ疑惑を抱いていた、その刹那。




 ──まさしく今日一番の、『爆弾発言』が、唐突に投下されたのであった。




「だがしかーし、本当におぞましいまでにヤンデレなのは、実は彼女が「死者」であるだけではなく、それと同時に、ちゃんと「生者」でもあることなの』




 ………………………………………………は?

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