第189話、【GW特別編】わたくし、悪役令嬢ワリーさん、今異世界にいるの。(その8)

「──と言うわけなのよ! さあ、観念しなさい、『すべての黒幕』にして『世界の敵』めが! あなたが『世界の作者』である『語り部』の力によって、この世界そのものを自分の意のままに改変して、私からふみの記憶を奪って、私の中の『録』の部分──すなわち、『の巫女姫』の部分を抜き出して、異世界転生させて、別の世界の中に閉じ込めてしまったことは、当の『現在異世界に閉じ込められている、もう一人の私自身』である、自称『悪役令嬢』のアルテミス=ツクヨミ=セレルーナから、洗いざらい聞いたんだからねえ⁉」




 十連休という、例年になく長かった今年のゴールデンウイークも、新元号『れい』のスタート等の、様々な記念すべきイベントをこなしつつも、ついに終わりを迎えるに当たって、将来の『当主専属執事』としての修行もつつがなく修了し、おのあるじである『御本家のお嬢様』に暇乞いの挨拶に訪れた、筆頭分家の跡取り息子にして、一つだけ年下の遠縁の少年、うえゆうに向かって、私こと、我が国でも一二を争う名家明石あかしつき家の次期当主候補にして、ピチピチのJK女子高生である明石月よみは、自信満々に豊満な胸(自称)を張りながら、高らかに糾弾した。




 しかし当の他称『すべての黒幕』にして『世界の敵』のほうは、むしろこちらのほうを哀れむかのように、深々と大きくため息をつくばかりであった。


「………………………はああ」


「な、何よ? そのいかにもわざとらしいため息と、まるで『可哀想な子』を見るような、哀れみの視線は⁉」


「お嬢様、本当にその子──僕の自作のWeb小説のヒロインの名前を騙る、『アルテミス』とかいう輩の言うことを、何の疑いもなく、信じたわけですか?」


「そ、そうよ、何せあなたと同様に、量子論や集合的無意識論に則って、論理的かつ詳細に論証してくれたんだから、疑う理由なんて、どこにも無いわ!」


「………………………はああああああ」


「だから何なのよ! そのさも『残念な女』を見るような、蔑みの視線は⁉」


「……お嬢様って、『世界五分前仮説』とか、無条件で信じてしまいそうですよね」


「『世界五分前仮説』って、ああ、『この世界のすべてが、五分前に創られたかも知れないことは、誰にも否定でいない』ってやつだっけ? うん、信じているわよ。ネット上の質問箱を全部読みあさってみても、誰もが『反証不可能』と言っているしね。しかも何よりも提唱者ご本人が、ノーベル文学賞受賞者のお偉い先生なんだから、間違いは無いでしょう」


 これって、世界で最も売れた超有名SF系ラノベなんかにおいても、取り上げられたことがあるので、皆さんもよくご存じであろうが、なぜ反証不可能かと言うと、たとえ「俺には五分より前の記憶がちゃんとあるぞ?」とか、「この切り株を見ると、五年以上の年輪が刻まれているぞ?」とか、「そもそも歴史の教科書には五分前の記述があるではないか?」などと、反論したところで、「あなたの『記憶』も、切り株の『年輪』も、教科書の『記述』も、五分前にいっぺんに創り出されたのだよ〜ん」と言われてしまえば、ぐうの音も出なくなるわけである。


 いやそもそも、お偉いノーベル賞受賞者や、超有名ラノベに対していちゃもんをつけて、ケンカを売るような命知らずのバカが、いるはずはないよね♡




「──え、いや、僕だったら、簡単に『反証』できますよ?」




 いたあああああああああああ、命知らずのバカが、ここにいたああああ!!!




「──だから何であんたは、ノーベル文学賞受賞者とか、ラノベの金字塔(w)とか、出版界全方面に対して、むやみやたらとケンカを売ろうとするのよ⁉」


「知りませんよ、出版界がどうのこうのとか。こんなでたらめな放言をほざいているようなやつや、その受け売り作家なんかに、ノーベル賞やラノベ最高の栄誉を与えるほうが、間違っているんじゃないですか?」


 だから、やめろって、言っているだろうが⁉


「だったら、その『反証』ってのを、言ってみなさいよ! 言えるものならね⁉」


「いいですけど、まず最初にお嬢様に伺いたいんですが、この『世界五分前仮説』とか言う『命題』だか『思考実験』だかって、何かが足りないとは思いませんか?」


「へ? 足りないって、何が?」


「いわゆる『主語』ですよ。要するに、一体誰が、五分前に、世界なんていう大それたものを、創ったと言うのです?」


 あ。


「ていうか、そのノーベル文学賞受賞者の、ええと、バート=ランドセルでしたっけ?(※正しくは『バートランド=ラッセル』) 何かこれまた超天才(w)の、アインシュタインとも仲が良かったとか言う。彼自身も世界を創り出せる超常的存在なんて考えもつかなかったものだから、あえて言及しなかったんじゃないですか? つまりこの時点でこの『仮説』は破綻しているのであって、『反証』するまでもなく、ゴミ箱にでも放り込めばいいんですよ」


「『主語』不在だから、破綻しているって、そんなの単なる『揚げ足取り』でしょうが⁉ それに世界の創り手って言ったら、誰でも普通に思いつくじゃないの? 例えば『神様』とか!」


「……あのねえ、その神様なんてもの自体も、存在していないんですよ。なぜなら神様というものは、あくまでも『概念』的存在に過ぎないんですからね」


「何言っているの? 『世界五分前仮説』同様に、『神の実在』も、『反証不可能』なのよ! ネットの質問箱で言っていたもん!」


「もう、馬鹿は、ネットを見るな」


「な、何ですってえ⁉」




「古今東西の宗教上の神様はすべて、あくまでも『信仰の対象』に過ぎないのであって、けして実体を持たないし、神様自身は『奇跡』も『天災』も起こしたりしないんですよ。実は『偶像崇拝』を絶対的に禁止している狂信的な宗派は、宗教としては非常に正しかったりして、ものすごく綺麗な言い方をすれば、『人の信仰心の中にのみ、神は存在する』のです。よって、物理的に肉体を有する、ヒキオタニートの皆さんが大好きなゲームの中に出てくる、例のモンスターみたいな神様は、真の神様なんかではなく、文字通りモンスターでしかないんですよ」




 ──だからどうしてあんたは、発言がいちいちケンカ腰なのよ⁉




「まあ、これについては確かに、揚げ足取りと言えば揚げ足取りだから、もっと細かく論理的に反証をすれば、まず何よりも、そもそも『神様』同様に『時間』そのものが『概念的存在』に過ぎず、実際にはそんなものは存在せず、『五分前』も『古墳の前(方後円墳)』も無いんですよ。わかりやすく言えば、時間──ひいて世界そのものは、『現在』以外は存在せず、過去や未来なんてものはあくまでも『概念的存在』に過ぎず、たとえ五分前であろうが、確固とした過去なぞ存在しないし、たとえ五分後であろうが、確固とした未来なぞ存在しなくて、あえて視覚化して例えると、我々は『現在』という名の自動車に乗って、概念上の『時間』というハイウェイを、概念上の『過去』から概念上の『未来』に向かって、ドライブし続けているようなものなんです。車の中から窓を通して見る分には、ちゃんと前後左右に景色が広がり、季節の移り変わりすら確認することができるものの、実は車の外には景色なぞ存在せず、特に『時間というものは概念的存在に過ぎない』ことの象徴として、その自動車の足下にのみ、概念としての時間の具現である『道路』は存在しているけど、それ以外には先ほども申したように、道路のみならずすべての事象が存在していないのです」


「じ、時間すらも『概念的存在』でしかなく、実際には存在していないですってえ⁉」


「……ええ、この前『ブラックホール』が話題に上がった時、知ったかぶりのSF関係者どもがこぞって、『知っているかい? ブラックホールの付近では超重力のために、時間の流れが歪むんだぜ☆』とかほざいていたけれど、 存在もしないものが歪んだりするか! おまえらは『Newt○n』に『死ね』と書いてあったら、言われた通りに死ぬのか?」


 だからあんたは、何でいつもいつも(ry


「おや、まだご理解いただけないようですけど、これについては散々、これまでもご説明してきたつもりなんですけど?」


「え、あなたこれまで、『世界五分前仮説』について、何か言っていたっけ?」




「もうお忘れですか? 『時間には現在しか存在しない』って、これまで何度も何度も申してきた、『実は世界というものは、一瞬だけの時点に過ぎず、しかもそのすべては、最初から──つまりは、歴史の開闢から存在しており、途中で改変されたり消失したり新たに生み出されることはないのだ』、そのものではありませんか?」




 あ。




「だから、そもそも世界には『五分前』なんか存在せず、何か神様もどきの存在から創ってもらう必要も無く、未来の時点すらもすべて最初から存在しているゆえに、五分前だろうが五分後だろうが一兆年前だろうが一兆年後だろうが、新たに創られることは無いわけなんですよ」




 そ、そうだ、世界というものが『一瞬のみの時点』に過ぎず、しかもその時点がすべて最初から揃っていることは、現代物理学の誇る量子論や集合的無意識論や、そして何より祐記独自の『ギャルゲ理論』によって、完璧に証明されているから、『世界五分前仮説』なんていうインチキ理論が成り立つ余地なんか、はなから無かったんだ。


「……いや、どうしてそこまで、情け容赦なく徹底的に、『世界五分前仮説』を全否定するのよ? まさか本当に、『ノーベル賞受賞』でも狙っているんじゃないでしょうね?」


「もちろん、肝心要の『本論』である、僕が『世界を思うがままに書き換えることができる』とか言う、『作者』であることを否定するためですよ」


「は?」




「まさしく『五分前に世界を創り出したということになっている超常的存在』と同様に、アルテミス嬢の言っている『外なる神アウター・ライター』なる存在は、いろいろと無理があり過ぎるんですよ。言ったでしょう? 世界というものは『一瞬の時点』だからこそ、けして改変も消去も創造もすることはできないって。なのに『外なる神アウター・ライター』とやらは、どうして自作を書き換えることによって、世界そのものを自分の意のままに、改変したりできるんでしょうね?」




 ──‼

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