第162話、わたくし、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』になりましたの!(その10)
「……そんな、アルテミスが、まさか」
絶望的な有り様を見せつけられて、その場に膝をつく、私こと『九尾の魔法令嬢』、ヨウコ=タマモ=クミホ=メツボシ。
「──くっ、アルやんが、こんなことに……ッ」
いつも陽気な、『現代兵器の魔法令嬢』ユーディ=ド=ベンジャミンさえも、悔しさのあまり、両の拳を手近な鏡面へと叩きつける。
「……『
そのように口惜しげにうめくのは、そもそもこの夢の世界自体を構築している、『夢の悪役令嬢』の実の娘である、メア=ナイトウ。
「お母様、一体、どうして……」
目の前の鏡の中にのみ姿を見せている、『すべての元凶の人物』に対して、恨めしげにつぶやく、『白魔術の魔法令嬢』こと、タチコ=キネンシス。
──そう。私たち『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の最後のメンバーにして、現在意識不明の状態にある、『
それに対して余裕綽々の表情の、この場のすべてを支配している、妙齢の女性。
「ふふふ、そんなに悲観することもないでしょう? 私はただ、実の母親と娘でありながら、私たち『悪役令嬢』とあなたたち『魔法令嬢』との間で、これ以上無益な争いなぞ、やめましょうと──」
「「「……アルテミスが、アルテミスが、いい歳した『悪役令嬢』の、性的好奇心の、毒牙にかかってしまうなんて!!!」」」
「………………………………………………は? ──いやいやいや、何言っているの、あなたたち⁉」
図星を指されて、途端に動揺し始める、『おねロリ』ならぬ、『おばロリ』な性犯罪者。
「しらばっくれるな! こんな閉鎖空間に、アルテミスだけを閉じ込めたのが、何よりの証拠だ!」
「……アルやんは、うちら『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の中でも、とびきりの美幼女やからなあ」
「自分の娘が連れてくる、『お友だち』の中で、まさしく『自分好みの子』を、以前からチェックしていたんでしょうねえ……」
「……お母様、信じていたのに」
微塵も容赦なく、口々に非難の言葉を浴びせかける、正義のJSたち。
今や登場時の余裕なぞ欠片も無く、焦りまくる『悪役令嬢』。
「な、何をわけのわからないことを、言っているの⁉ 私はこの鏡の世界の支配である、『鏡の悪役令嬢』なのであり──」
「そうだ、ここが、『悪役令嬢の手によって創られた、特殊な無数の鏡でできた空間』であることこそが、問題なのだ」
「──すべては、私の意のままに、なるのであって…………って、ええっ⁉」
言葉途中で、私の台詞にインターセプトされてしまい、言葉尻を濁してしまう、自称『鏡の悪役令嬢』。
「大方この鏡だらけの空間は、本人の秘められた欲望を、そっくりそのまま具象化できる──といったところではないのか?」
「──っ、どうして、それを⁉」
「やはりな、我々の『ダミーの願望』が、あれほど忠実に、具現化してしまうはずだ」
「……え? だ、ダミー、って」
「おいおい、貴様本気で、我々のようなJSが、『同級生の女の子の全裸』とか、『おっさんのフル○ン』とか、『ロリ巨乳化した母親』とか、『無限増殖するツインテールの妹』とかを、求めているとでも、思ったのか?」
「なっ⁉ で、でも、この空間は、人の秘められた欲望を、自動的に暴き出すのであって、けしてダミーなどと言った、『作意』を加えることなんて──」
「できるんだよ、忘れたのか? 我々が『魔法令嬢』であることを──そう。貴様ら『悪役令嬢のカウンターパンチ』として、
「──‼」
「どうやら、わかったようだな? ──それで、本題に戻るが、『魔法令嬢』である我々は、別にこんな空間なぞ平気なのだが、貴様のほうはどうかな?」
「こ、今度は、何を言い出す気? ここは私が創った空間なんだから、私だって平気に決まっているでしょうが⁉」
「果たして、そうかな?」
「はあ?」
「貴様は自分のことを、『悪役令嬢』であると思い込んでいるようだが、それもただ単に、貴様の願望にこの超常的空間が反応して、具象化てくれているだけとは、考えられないか?」
「………………へ?」
「つまり貴様は単なる、日々の生活に疲れ切った主婦に過ぎず、自分の娘の友達の中で、むちゃくちゃ可愛い子がいて、その子と現実世界とは別の世界に逃げ込んで、二人だけで永遠に暮らしていけたら、どんなにいいものか──とでも夢想していたところ、この『人の願望を何でも叶えてくれる、不思議な鏡だらけの空間』に囚われることになって、自分のことをこの世界の
「──ちょっと、何をとんでもない、『メタ展開』なんかをやろうとしているのよ⁉ だったらあなたたちは、一体何者だって言うつもり?」
「実は私たちすらも、貴様の願望が生み出した、幻影みたいな存在だったりしてな」
「そんな! そんなことを言い出したら、もはや何でもアリじゃん⁉ え? え? 違うよね? あなたたち、私を騙そうとしているだけだよね? これって、確かに現実だよね⁉」
「……いや、これは元々、『夢の悪役令嬢』が創り出した、夢の世界なのであって、現実ではないだろうが?」
「あっ、そうだった! ……じゃ、じゃあ、一体どうなるわけ? やはりすべては、私の妄想だったりするの⁉」
今や完全に混乱を
それを見ながらほくそ笑んでいる私へと、こっそりと耳打ちをしてくる関西弁の少女。
「くくく、どうやら、うまく行ったようやな?」
「……まさか、ここまで完璧に、乗せられてくれるとはな? ──メア、『状況』は、どうなっている?」
「いい具合よ♡ この世界の創造主の動揺をもろに受けて、全体的にかなり強度が下がっているわ」
「……ほんと、お母様が、こんなにも『精神攻撃』に弱いなんて。『悪役令嬢』を名乗るのなら、もう少しメンタルを鍛えておくべきだったわね」
「ふん、こちらに自分のことを知り尽くしている、実の娘がいたことを忘れて、得意満面に油断しているから、足を掬われるのだ。──いいか、みんな、合図と共に、一斉に全力で、魔法攻撃を仕掛けるぞ!」
「「「らじゃあっ!!!」」」
「──よし、今だ!」
私の号令を合図に、全員の魔導力のつぶてが、正面の一際巨大な鏡へと炸裂する。
「──ぎゃああああああああああああああああああああっ⁉」
これまで圧倒的な防御力を誇っていた鏡面をあっさりと通過して、『悪役令嬢』へと直撃し、抱きかかえていたアルテミス共々、バラバラの方向に吹っ飛ばす。
「……いや、今更なんやけど、あれって、アルやん、大丈夫なんか?」
「心配するな、ここに存在しているのは、我々自身も含めて、『魔法令嬢としての魂』に過ぎず、物理的ダメージを受けることはまったく無いのだからな」
「みんな、おしゃべりは後にして、すかさず追撃よ!」
「……ごめんなさい、お母様」
余裕ぶって、そんなことを言いながら、次の攻撃に移ろうとした、
まさに、その瞬間。
「「「「うわああああああああああああああああっ⁉」」」」
周囲の無数の鏡から放たれた雷撃に、全員まとめて打ち倒されてしまう、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーたち。
「……このクソガキどもが、大人を見くびりやがって……ッ。今からしっかりと、きついお灸を据えてやるからなっ!」
そう言いながら、憤怒の表情で立ち上がり、更なる攻撃を仕掛けようとしてくる、『鏡の悪役令嬢』。
「……くっ、万事休すか⁉」
今度こそ嘘偽りなく、絶望に駆られてその場に膝をつく。
そんな私たちを、満足そうに睥睨する、この世界の支配者。
──しかし、私たち、敵味方の全員が、いまだ気づいていなかったのである。
真の『絶対的強者』が、まさに今、迫り来ていたことを。
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