第108話、わたくし、ちょい悪令嬢ですの! その6、言語問題の先入観。

ちょい悪令嬢「──さあ、今回も始まりました、わたくし『ちょい悪令嬢』による『異世界裁判』! 前回同様、聖レーン転生教団聖都ユニセクスにございます、某秘密教会からお送りいたします!」




アグネス聖下たん「……おい」


ちょい悪令嬢「はい、何でしょう? アグネス聖下たん


アグネス聖下たん「何で貴様、まだここにいるのだ? ──それから、我のことは、『アグネスたん』と呼ぶな!」


ちょい悪令嬢「そ、それがですねえ、このように『裁判』形式で熱い討議を行う場合は、いつものように『仲間内』で行うよりも、わたくしとあなたのように、常日頃から対立関係にある者同士で行った方が、より盛り上がることに気がつきまして、今回も引き続き聖下にご登場いただいたのですよ」


アグネス聖下たん「何でまさしく対立関係にある我が、貴様なんかに協力しなければならぬのじゃ⁉」


ちょい悪令嬢「まあまあ、わたくしに対する協力というよりも、この作品自体を盛り上げるためと思ってくださいよ」


アグネス聖下たん「またそんなメタ的な理由を持ち出してくるのは、ずるいじゃろうが⁉ それに前回あのような思わせぶりな台詞で終わっておいて、今回もまた貴様と仲良く登場したのでは、格好がつかぬではないか⁉」


ちょい悪令嬢「いいではありませんか、何度も申しております通り、あくまでもこれは【番外編】ですので、読者の皆様は誰もシリアス展開なんて望まれていないのですから」


アグネス聖下たん「だから、何でも『メタ』で片づけようとするなと、言うておろうが⁉」


ちょい悪令嬢「──さて、今回審議いたしますのは、異世界系作品における、最大級の懸案事項の一つと目されている、『言語問題』です!」


アグネス聖下たん「勝手に話を進めるな! 相変わらず、マイペースなやつじゃな⁉」


ちょい悪令嬢「でも、異世界転生推進派であられる聖下におかれても、この『言語問題』については、かなり頭を痛めておられるかと存じますけど?」


アグネス聖下たん「……まあな、これはこの作品に限らず、すべての異世界系作品における、共通の問題であろう」


ちょい悪令嬢「これについてのそれぞれの作品における対応の仕方ときたら、まさに百花繚乱といった状況でして、最も多いのは一番最初のシーンで異世界に転生することが決まると同時に、女神等からスキルとして与えられるというやつなんですが、この時点ですでに、『スキルを与えることを明言する』パターンと、『何も言わずに与えられていて、異世界において初めて気がつく』パターンとの、二つのケースに分かれてしまうといった有り様で、更にそのスキルを細かく分けると、『会話もできるし文字も読める』パターン、『会話はできるが文字は読めない』パターン、『お互いに別々の言語を話しているが、自動的に翻訳されている』パターン、『明らかに日本語の読み書きをしているのに、「……ニホン語って、何ですか?」などと、あくまでも異世界人がすっとぼける』パターン等々、まったく統一が取れていないんですよねえ……」


アグネス聖下たん「最近じゃ、すでに『異世界で日本語が通じるのはお約束』みたいになっていて、『言語問題』には一切触れない作品も少なくないからなあ……」


ちょい悪令嬢「まあ、そうは言っても、やはり異世界転生とか転移をしてからすぐの、誰かと会話をした後での最初の感想が、『おお、こんな西欧風な世界でありながら、日本語が通用するんだ⁉』といったパターンが、まだまだ多いみたいですけどね」


アグネス聖下たん「まあな。──ところで、肝心のこの世界の『言語』の扱いって、どうなっておるのじゃ?」




ちょい悪令嬢「え? この作品は最初から、『ネイティブ』か『転生者』かにかかわらず、全キャラクターともに、『日本語』を使っておりますけど?」




アグネス聖下たん「──いやいやいやいや、ちょっと待てえい!!!」


ちょい悪令嬢「うふふ、ご自分の使っている言葉について、今更確認なさるなんて、おかしな教皇様♡」


アグネス聖下たん「おかしいのは、貴様じゃ! 何で『ゲンダイニッポン人』からしたら『異世界人』である我々が、当たり前のようにして『日本語』を使っておるのだ⁉」


ちょい悪令嬢「──ったく。そのような考え方こそが、そもそも間違いなのですよ?」


アグネス聖下たん「……何じゃと?」


ちょい悪令嬢「例えばですねえ、最近では戦国時代なんかに転生や転移するパターンについても、タイムスリップではなく、『戦国転生』とか呼ばれていて、ある意味『異世界転生』の一つとして捉えられているのは、もちろんご存じですよね?」


アグネス聖下たん「ああ、まあな」


ちょい悪令嬢「まさにその、歴史上の戦国時代に似ているものの、各武将の性別が違ったり、重要な事件の推移が違ったりする、『戦国時代のような異世界』においては、当たり前のようにして『日本語』が使われていますよね?」


アグネス聖下たん「そりゃあ、いくら少々『歴史的事実』が改変されていようと、ニホンを舞台にしていることには変わりないからな」


ちょい悪令嬢「つまり、このように特別な例とはいえ、間違いなく異世界と目される世界で、『日本語』が使われているのですから、他の無限に存在し得る、様々な世界観の──例えばニホンとは似ても似つかぬ異世界においても、『日本語』が使われていたって、別に構わないではないですか?」


アグネス聖下たん「何その、論理の超飛躍⁉ 戦国転生と他の異世界転生とでは、事情がまったく違うじゃろうが!」


ちょい悪令嬢「いいえ、そんなことはありませんよ?」


アグネス聖下たん「は?」


ちょい悪令嬢「先程あなたは当たり前のようにして、『ニホンを舞台にしていることには変わりない』とおっしゃいましたが、けしてニホンなんかじゃありませんよ、何度も申しますように、『戦国転生』も異世界転生の一種なのですから、その転生先はいくらニホンに似ていようが、れっきとした異世界なのです」


アグネス聖下たん「へ、屁理屈を申すな!」




ちょい悪令嬢「屁理屈なんかじゃありませんよ? 織田信長が女の子になってしまうよりも、使っている言葉が『ゲンダイニッポン語』とは似ても似つかない言語であるほうが、よほど現実的ではないのですか?」




アグネス聖下たん「──っ」


ちょい悪令嬢「それに別にニホンに限らず、時代によって使用している言語が違っているなんてことも、けして無いとは言えませんからね。例えば大和朝廷による統一政権が樹立する以前の古代日本においては、当時の中国や朝鮮の言語を使っていたかも知れませんよ? ──このように、現実においても時代が変われば『言語』だって十分に変わり得るのに、間違いなく異世界への転生である『戦国転生』において、『日本語』が使われていたのなら、その他の異世界でネイティブの言語として『日本語』が使われていることだって、十分あり得ることになるのです」


アグネス聖下たん「……ぬう、確かにのう」


ちょい悪令嬢「そもそも、異世界転生とか転移と言うと、馬鹿の一つ覚えみたいに、『中世ヨーロッパ』風の世界観にするものだから、何だか『日本語』を使ってはいけないように感じられてしまうだけであって、普通に『日本語』を使わせればいいんですよ。だって異世界なんだから。けして中世ヨーロッパそのものってわけじゃないんだから」


アグネス聖下たん「ううっ、そう言われても、とてもそんなふうに割り切れないのは、我自身もすでにどっぷりと、『異世界=中世ヨーロッパ』の先入観に染まっているからかのう」


ちょい悪令嬢「そもそもですねえ、『異世界=何でもアリ♡』の法則に従って、いい加減な作品づくりばかりをしているくせに、いつまでも『言語』なんていう些細なことにこだわっていること自体が、おかしいのですよ」


アグネス聖下たん「こらっ、『いい加減』とか言うな! それに別に、些細なことでもなかろうが⁉」




ちょい悪令嬢「わたくしとしては、これだけ『ゲンダイニッポンからの異世界転生』が、当たり前のイベントなってしまった現状においては、クリスマスやハロウィン同様に『日本語』についても、もはや『異世界に普通に存在して当然』だと思うんですけどねえ。……まあ、そうは言っても、『言語問題』について作中においてとやかく取り沙汰するのも、お約束の演出の一つとも言えますし、これに関してはそれぞれの作者様の判断にお任せする以外は無いかも知れませんねえ。──というわけで、今回の『異世界裁判』の結論としては、基本的に『現状維持』と言うことになりました。では、皆様、引き続き次回もよろしくお願いいたします♡」













アグネス聖下たん「……何じゃ、この玉虫色の結論は? だったらあれこれ審議する必要は無かったんじゃないのか?」


ちょい悪令嬢「いえいえ、こういったことは、議論すること自体に意義があるのですよ? 誰かが問題提起しないと、いつまでたってもいい加減なままにされてしまいますからね」


アグネス聖下たん「またこいつ、上から目線で勝手なことを。それこそ大きなお世話というものじゃ!」

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