第76話、わたくし、魔王様とお会いしたのは、初めて……あれ、なぜか既視感がありますの⁉
──さて、長々と、第69話現在の状況の背景事情の説明を、第70話から前回の第75話にわたって続けてきたけど、ようやく今回の第76話から『シナリオ』通りに、『魔王の降臨』とそれに伴う、この王国における筆頭公爵令嬢アルテミス=ツクヨミ=セレルーナの、『
実況は引き続き、このシーンではまったくの『傍観者』ということになっている、『正統派ヒロイン』アイカ=エロイーズ男爵令嬢にして、実は現在この
とはいえ、かなり間隔が空いてしまいましたので、現在一体どういった状況にあるのか、すっかりお忘れの方も多いかと思いますので、ざっくりとおさらいしますと──
……ええと確か、私があくまでも外見上は『アイカ』であるのをいいことに、アルテミス
果たして、デモニウム王国の特務部隊の狙いは何なのか? そして、アルテミス嬢を始めとする、王侯貴族の子女の皆さんの運命はいかに?
──な〜んてね♡ 実は私は現代日本において、Web小説『わたくし、悪役令嬢ですの!』で、すでにすべてを読んでいるから、この先どうなるか知っているんだけどね!
……え? 何で、あくまでも『アル嬢の豚奴隷志望』の
ほら、私って、『自分では乙女ゲーム「わたくし、悪役令嬢ですの!」の世界の中に異世界転生しているつもりでいる』ものの、実は『単にそういった設定のWeb小説「わたくし、悪役令嬢ですの!」の、単なる登場人物に過ぎない』、姫川さんの身に二重転生していたわけじゃない?
それってつまりは、彼女の人生というか半生というかを追体験しているようなものであり、更に極論すれば、
そうなると、特に乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』にのめり込んでから以降の、彼女の『感情や欲望』に強い影響を受けて、ごく自然と、あたかも自分自身の『感情や欲望』であるかのように、錯覚し始めてしまうわけなのよ。
言わば、『ミイラ取りがミイラになる』って感じ? ──いや、違うか。
──だってだってだって、仕方ないじゃない!
それだけアルテミス様って、悪役令嬢のくせに、ロリロリキュートで可愛らしいんだから♡
Web小説版を読んでた時点では、それほどでもなかったんだけどね。
だってWeb小説って、ただでさえ基本的にイラストが付いていないというのに、この作品ときたら、大きな声では言えないけれど、情景描写が
……まあ、この『881374』という作者が実のところは、実際に乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の中に転生していった、ゲーマーたちの寄せ集めだったりするんだから、仕方ないのかなあ。
そんな有り様だったところで、いきなり姫川マヤの目を通して、ゲームにおけるアル様のアニメ絵を見た時の、衝撃と言ったら、もう!
しかも今回はついに、『現物』の彼女を目の当たりにできて、あまつさえこの手で抱きしめたわけじゃない?
何あの、月の雫のような銀白色の髪の毛に、満月のごとき
それでキャラ属性が、『御年10歳のロリロリ悪役令嬢』ときたもんだ。
もう、ね、一目でノックアウトですよ。豚奴隷になりたいという、姫川さんの気持ちがよくわかりました。
──でもね、残念ながら、私は彼女の奴隷になることなんて、けしてあり得ないんだよね。
だって、アル様には、これから目覚めを迎える魔王と共倒れして、私の異世界制覇の礎になってもらわなければならないんですからね♡
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──それではこれより、我ら魔族の
さてさて、無駄話はいい加減にお開きにして、いよいよ第76話本編開始と相成りましたわけですが、冒頭いきなり、デモニウム王国の特務部隊の隊長さんらしき人が、ついに今回のメインキャラクターのお一人であられる、『魔王様』のご入場を促しましたよ! わくわくw
「──なっ」
「あれって⁉」
「そんな、まさか!」
「「「聖レーン転生教団の、アグネス教皇聖下⁉」」」
声を揃えて、驚きの叫びを上げる、生徒たち。
無理もなかった。
確かに、その時全身黒ずくめの特務部隊員を引き連れて教室に入ってきた『少女』ときたら、ネオゴシック調の漆黒のドレスに包み込まれた、いまだ御年七歳ほどの小柄で華奢な肢体も、初雪のごとく純白の長い髪の毛に縁取られた端整な小顔の中で煌めいている、鮮血そのものの深紅の瞳も、聖レーン転生教団現教皇たる、アグネス=チャネラー=サングリア嬢そっくりそのままであったのだ。
「──静まれ! 静まらんか! このお方は転生教団の教皇なんかではない! 我が魔族国家デモニウム王国の
大声で生徒たちのざわめきを抑えようとする隊長さんであったが、それで納得する者なぞ一人もいなかった。
「えー、うそー!」
「そんなに、そっくりなのにい?」
「アグネス
「また性懲りもなく悪巧みをして、自ら出張って来ていたりして」
「俺たちのほうも、わざわざ教皇聖下御自らが、敵地に赴くとは思わないからな」
「それで散々王国や学院で破壊活動なんかをやっておいて、すべてをデモニウム王国の仕業にしたりして」
「あり得る、あり得る」
「何せあの、卑怯極まる、転生教団だからな」
好き勝手さえずり続ける生徒たちに、とうとう堪忍袋の緒が切れかかる隊長さん。
「き、貴様ら、言ってわからぬようなら、実力行使をさせてもらうぞ⁉」
そう言って、腰のホルダーから小型魔導銃を抜き取ろうとした、その時。
「──待ちなさい、グスタフ。ここはこの
教室内に響き渡る、涼やかな声音。
それは間違いなく、教壇に立っている、魔の王を名乗る少女の、花の蕾の唇から発せられたものであった。
「「「『のじゃロリ』じゃない⁉ ということは本当に、教皇聖下とは別人か!」」」
「貴様ら、陛下の尊きお言葉を耳にしての、第一声がそれか⁉」
「「「……今ここに、俺が来なかったか? バカヤロー! そいつが、ルパ──」」」
「だからといって、『グスタフ』ネタをやれとは、言っとらん!」
「まあまあ、それも、『鉄板』とか『お約束』といったものですよ。──ここは
「へ、陛下まで、そんな⁉」
いかにも不服そうな隊長さんをガン無視して、私たち生徒のほうへと改めて向き直る、黒衣の美幼女。
「──皆様、初めまして、デモニウム王国国主にして魔王をやらせていただいております、クララ=クラーレ=サングリアと申します。今回はどうしてもお聞き届けいただきたいお願いがありますので、こうしてまかり越しました。皆様にはご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません」
「「「あ、い、いえ……」」」
本来ならここで、「力尽くで押しかけてきておいて、願いを聞いてもらうも何もないだろうが⁉」とでも反駁するところであろうが、少女のとても魔王とは思えない、あまりに丁寧な物腰に、生徒たちのほうは今やほぼ全員、すっかり毒気を抜かれていた。
……というかさあ、転生教団の教皇もそうだけど、何で7歳の女の子が、魔王なんてやっているのよ?
いくら元々この世界が乙女ゲームベースで、魔王とか教皇とかどうでもいいとはいえ、キャラクターのレベル設定基準が、根本からおかしいんじゃないの?
まあ、いいか。ぐだぐだクレームをつけるだけ、話が進まなくなるから、ここは軽くスルーしておいて、
「──何い、『クララ』、だと⁉」
……言っている
ただしそれは生徒ではなく、教室の入り口の前に立っていた特務部隊の隊員を押しのけるようにして突っ込んできている、目の覚めるような美女が発した言葉であった。
「あれって、ホワンロン王国空軍ジェット戦闘機部隊、第44中隊隊長の、ガランド中将じゃないのか?」
「何で、中将さんが、学院なんかに?」
「すでに軍部が、敵の鎮圧に動いたとか?」
「それにしても、空軍の出番ではないだろう」
「──ちょっと待て、そういえば、中将のファーストネームって」
「……確か、『アーデルハイド』、だったっけ?」
「ということは──」
「「「略すれば、『ハイジ』、じゃないか⁉」」」
愕然と唱和する生徒たちを見やり、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる、他称『ハイジ』ちゃん。
「そうだ、実は私こそまさに、
しかしそれに対して、いかにも困ったように頬に手を当てる、他称『お嬢様』の魔王様。
「……ごめんなさい、たぶんお人違いではありませんか? 私のこの『クララ』という名前は、あちらの世界のロシアでサンタクロースのまねごとをやっておられた、『ゲンダイニッポン』の少女小説マニアであるお祖父様の『ジェド=マロース』が、我ら三つ子のすぐ上の姉である『アグネス』と、ペアでつけていただいた名前に過ぎませんので」
「ええっ、そ、そんなあ〜⁉」
つれなく一刀両断にされてしまって、完全にうなだれ、特務部隊員たちに引っ立てられていく、アーデルハイドさん。
つうか、確かあんたは、あちらの世界の第二次世界大戦中の、ドイツ軍人の
……まあ、アルプスだろうがドイツだろうが、どっちでも
──何せ、自分たちでは、現実の世界から乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の世界に、異世界転生しているつもりでいるでしょうけど、本当は、現在私が異世界転生している、
そして、そんなこんなの騒動も、一段落つき、いよいよ
「実は
「「「……ほう」」」
「それはなぜかと申しますと、いわゆるこの世界における『魔王と対をなす者』──いわゆる『好敵手』の方のほうも、いまだ目覚めておられないからなのです」
「「「ふむふむ」」」
……ふふっ、それがつまり、
「魔王と言っても、国家元首に変わりなく、ちゃんと一人前に覚醒していないと、力ある魔族の家来から舐められたり、国交のある外国の首脳や交易相手の商人の皆様からも侮られたりされかねませんので、一日も早く正式に魔王として覚醒する必要があるのです」
「「「なるほどなるほど」」」
「それでこうして、力尽くで好敵手の方に目覚めていただこうと、特務部隊を引き連れてお邪魔いたしましたの。──何せ先方さんは魔王と対をなす、『正義の味方』を標榜されしお方。何の罪も無い生徒の皆様を人質に取ったとなれば、否やもないでしょう」
「「「えっ⁉」」」
突然飛び出した、物騒な文言に、一斉に顔色を変える生徒たち。
「ちょっと、何ですか、その言い草は、失礼でしょうが! 我々ホワンロン王国民は、そのような脅しに屈する者なぞ、一人とていませんよ!」
「「「そうだそうだ! アル様の、おっしゃる通りだ!」」」
ついに堪りかねたようにして、食ってかかっていく、他人から理不尽な命令を押し付けられることを、何よりも厭う、悪役令嬢アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ。
おお、さすがは他称『正義の味方』、カッコいいー!
まあ、他ならぬあなたが、目覚めてくれれば、いいだけなんだけどね。
そしてせいぜい華々しく、魔王様と共倒れしてちょうだい。
──何よりも、私の異世界完全制覇のためにもね♡
「だったら、さっさとお目覚めになって、同じく力尽くで、我々を追い払えばいいではないですか? ──ねえ、我が『好敵手』殿?」
そう言って、アルテミス嬢から視線を外し、
……へ? 何で?
そして突然の事態に、完全に困惑しきってしまった私に向かって、その
「そうなのです、我が好敵手、『勇者』アイカ=エロイーズよ。
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