第14話、わたくし、BL同人誌の世界へTS転生してしまったのですの(その1)
「──アル様、朝ですよ、早く起きてください、学院に遅れますよ!」
「……う、う〜ん」
もはや恒例の朝の儀式として、
………………うん? 気のせいだか、何かほんのちょっぴり声が低いような。
目を開けてみると、視界に飛び込んできたのは、相も変わらず少々無礼な半笑いを浮かべている………………………………男の子?
「──メイ! あ、あなた一体、どうしちゃったのです⁉」
思わずお布団を吹っ飛ばすように(笑えよ)、ガバッと跳ね起きて、まじまじと二度見三度見する。
そうなのである。目の前の一見おかっぱじみたボブカットの人物は、今やトレードマークともなっているメイド服ではなく、純白のドレスシャツにサスペンダー付きの漆黒の半ズボン、そしてその両手には指ぬきグローブという、ヤンチャ系とエレガント系がミックスしたかのような、いかにも『大人びた男の子♡』といった装いをしていたのだ。
──少年執事だ! 少年執事だ! しかも戦闘スキル
「……どうした、と申されますと?」
「いきなり、そんな変な格好をして…………あ、いや、変ではなく、ものすんごく似合っているんですけど、何と申しますか…………あ、そうそう、いつものメイド服はどうしたのです?」
「メイド服う⁉ 何で私が、そんなものを着なければならないのです、
「
「え? そりゃあ、決まっているではないですか、私は、あなた様の──」
当然、続く言葉は、『専属メイド』…………………のはずで、あったのだが、
「専属従者──より詳しく申せば、
…………………………………………………………………………………………。
「──すんげえ、本当に、少年執事だよ! しかも、武装系ってか? カックイイー‼」
「あ、アル様⁉」
「しかも、実はそれが、美少女による男装少年執事であるところが! もうっ! ただそれだけで! ご飯が三杯いけるというか!」
「アル様、落ち着いてください! 何ですか、美少女とか、男装とか、わけのわからないこと言って! そりゃあ私はよく女顔って言われますが、そんじょそこらの美少女なんか太刀打ちできない、これぞ美少女顔のアル様が言っても、皮肉にしか聞こえませんよ!」
「──そりゃあ、そもそも
「へ? 珍しいですね、あれほど
「え?」
「え?」
……おかしい。何か話が、微妙に食い違っているような。
「あの、ですね、もしも、ですよ? もしもメイが正真正銘
「いや、今更何をおっしゃっているのですか? 問題なんてあるわけないでしょう。だって──」
だって?
「私、メフィストフェレス=アカシック=ドーマンが男子であるように、我が
………………………………は?
「わ、わたくしが、との、がた?」
「え、ええ…………ていうか、何ですその、幼児退行したかのような口調は?」
「──ちょ、ちょっと、失礼!」
そう言って
そして、一分ほどもぞもぞと、『ナニか』の有無を確認したところ──
「うぎゃあああああああああああああああっ!!!」
「アル様⁉」
「つ、付いてる!
「ちょっ、一体、何をおっしゃって…………」
「TSだ! これぞ噂のTS転生だ! まさか悪役令嬢の
それか、元からの男性が何らかの理由で悪役令嬢を演じる、『男の
「さっきから何をわけのわからないことばかり、おっしゃっているのですか⁉ ──ええい、であえ! であえ! アル様がご乱心だ!」
とても目の前のイチモ○…………もとい、現実を認められず、ベッドの上で悶え苦しみ七転八倒していたら、屋敷中の執事やメイドが大挙して駆けつけてきて、
その顔ぶれと装いを見るに、
──そう。実はこれこそはまさしく、元の世界で『二の姫』が作成していた、『びーえるドージンシ』の世界の中への
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……こんな感じでいいかな? 姉上」
その時我が妹、ホワンロン王室第二王女にして、希代のびーえる作家『ジミ王子』こと、『二の姫』は、
「ああ、導入部としては上々だ。これ以降もこの調子で頼むよ」
「でも本当にこんなことが、あの薄汚い侵略者である『転生者』どもに対する、『
「『こんなこと』、って?」
「だから、この我々の現実世界の、パロディ的Web小説なんかを創ったところで、それを『本物の世界と勘違いさせる』なんてことが、本当にできるのかって、聞いているのよ」
「ああ、なるほどね。確かに現実世界とあくまでも作り物である小説の世界とを、一緒にするなんてことは、普通だったらあり得ないだろうね」
「だったら──」
「大丈夫、そもそも相手も、『普通ではない』んだからさ」
「え?」
「おいおい、複数の世界間を転生してくるような輩が、元から普通の存在であるわけがないだろうが?」
「──あ」
「だいたいが『転生者』なんてものは、『ゲンダイニッポン』における量子論や集合的無意識論に則れば、確固とした人間の『魂』や『人格』なんかではなく、『記憶や知識』──すなわち『
「『転生者』自体が、『
「しかも今回は、ただ単に現実のボクたちの性別を全員逆転させた、いわゆるTS型『びーえるドージンシ』であるだけでなく、肝心のこの世界のアルテミス嬢自身を、TS転生という形でご登場願っているのだから、彼女こそを
「え、でも、それじゃ、現にあっちの世界に転生しているアル嬢が、危ないんじゃないの?」
「大丈夫。今回の場合、アル嬢も『転生者』なのだからして、あくまでも彼女自身も『
「え、アル様もデータに過ぎないって、私、自作の中の彼女のことはあくまでも、現実の存在──つまり確固とした
「ああ、構わん構わん。『小説家になろう』や『カクヨム』の作家様方だって、『転生者』が単なる『
「……むう、何かその言い方だと、我々Web作家が何も考えずに、ただ本能に従って小説を書き殴っているようじゃないの⁉」
「え、ちがうの?」
「もうっ、姉上ったら!」
「あはは、冗談冗談──あ、いや、一つだけ、ちょっと気になることがあったっけ」
「へ? 気になることって……」
そう。ボクはその時、あくまでもちょっとした思いつきを述べただけであった。
「あ、ほら、この世界においては、『わたくし、悪役令嬢ですの!』【びーえる版】を自作のWeb小説として作成している君が、まさに『わたくし、悪役令嬢ですの!』【びーえる版】の世界の中においては、どんな小説を創っているのかなあって、ふと疑問に思ったわけなのさ」
──実はこれこそが、この世の秘められた真理をも導き出し得る、けして開けてはいけない、『パンドラの箱』だったとも知らずに。
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