第8章 命のやりとり


取り巻きが3体と正面奥に鎮座するボス・・・ジェネラルウォーウルフ。


ボス部屋に突入した俺たちは、ボスの取り巻きとして3方向から飛び出してきたウォーウルフをまず処理しなくてはならなかった。


正面をロークが騎士らしくガッツリ受け止め、右側の敵をアニーが影縫いで移動不能にし、フローラがそれを火炎魔法で撃つ。

クロエは真ん中のポジションから、ロークをメインに各メンバーの状況を把握しつつ支援魔法を掛けている。

俺は左側から飛び出してきた敵に初撃としてノックバックを付加した火球を撃ち、相手が後へ下がった瞬間飛び込んで斬撃を入れた。

ロークも盾で敵を押し返し、怯んだところを肩から斜めに斬り下ろした。


これも次第に出来上がりつつある連携プレイなんだろうか・・・取り巻き3体は思ったよりアッサリ片づけることができた。

個々が個々の仕事をキッチリやればこの程度の敵ならこんなものなんだろう。



残すはボスだけとなった。

ジェネラルウォーウルフで注意しなくてはいけないのが「咆哮」と呼ばれる麻痺スタン攻撃だった。

スタン状態に陥ると為す術がなくなり、一定時間攻撃を受け続けなければならない。下手をすれば死に直結する恐れもある。

それを回避できなければ倒すことなど不可能だった。


「最後行くぞぉ~~!」


「了解!」


ロークは雄叫びを上げながら、鎮座するボスに突進をかけた。

下がり目で、右側からアニーとフローラが、左側から俺とクロエが後へと続いた。


鎮座していたボスは迎え撃つように立ち上がり、のっけから「咆哮」を発動した。


ウオォォォ~~~~~~オォ!


耳を塞ぎたくなるほどの叫びだ。

部屋の中の空気がビリビリと震える感じが伝わってる。

クロエは慌てて回避系の範囲バリアを掛けたが、雄叫びはそれを凌駕りょうがする勢いで響く。

ロークは立ち止まり、盾でガードするように中腰になって耐える。

他のメンバーも防御姿勢で耳を抑え、咆哮をやり過ごす為、膝をつき踏ん張っていた。

少しフローラとクロエがスタン気味に動きが鈍くなっていたが、やり過ごした俺たちは一気にボスへと攻撃を集中した。


「麻痺気味なら、すぐ解毒ポーションを!」


アニーはクロエとフローラを気遣うように振り返った。

二人はその言葉に頷いていた。


ボスは正面に構えるロークへと右から左からと腕を振り下ろし鋭い爪を突き立てる。

そのクロー攻撃をまともに受け止めたロークは尻餅をつき体勢を崩した。


「キツイぞぉ~~この攻撃!」


二発目を避けるようにローリングしながら彼は口にした。


「アニー!目を狙え、相手の動きを止めよう!!」


「了解、ご主人さま~!」


アニーはボスの攻撃範囲から距離を保って弓を力強く引き絞った。

尾を引きながら高速で飛んでいくアローショットが見事に左目へと刺さった。


「ナイスだぁ~~アニー!」


「えへっ!」


俺はクロエをカバーしながら照れるアニーにニ発目を眉間狙いにと指示した。

ローリングしながら移動したロークはフローラと攻撃体勢に入ったアニーの前で盾を構えた。


ジェネラルウォーウルフは左目に刺さった矢を眼球ごと抜き去り、動きが鈍るどころか狂ったように暴れだした。

アニーも不測の動きを続けるボスに二発目の狙いを定めかねている。


・・・・・・・・


・・・・・・・・


ロークと俺はスイッチを重ねながらボスへと斬撃を入れ続けた。

中距離からのアニーとフローラの攻撃にダメージも受けているはずだが・・・


さすがにラスボスだけのことはある。

取り巻きウルフのようには簡単に倒せない。

幾度となく繰り返す攻撃でHPは削れているはずではあるが動きは止まらない。


ロークもしだいに守り専念で手数が明らかに減っている・・・


支援魔法でフォローするクロエや、MP消耗度の高い魔法攻撃を続けるフローラのポーションローテも気になるところだ。

その上、無理して連続に矢を撃ち続けるアニーの身体ゲージも心配になる。


戦闘が長引くメリットは皆無だ。

ここらが『勝負どころ』かな・・・俺はそう思い、みんなに呼びかけた。


「もうひと息だ。ここで勝負をかけよう!みんな踏ん張れるか?」


「わかった!一気に行くぜぇ~~みんな!!」


ロークは攻撃をしのぎながら声を上げた。


「了解です!!」


みんなも即座に答えた。


・・・・・・・・


「クロエ、状態異常効果アップの支援頼む!できるか?」


「了解、任せて!」


クロエは短縮詠唱を唱えながら俺の剣へ杖をひと振りした。

俺もボスの動きを瞬間的にでも止められたらと足止め効果を剣に付与し、ボスへと走り出した。


右側ではフローラが詠唱している。


「フローラ、俺がボスに斬りかかって離れたら即撃てるように頼む!」


詠唱を続けるフローラは、俺の言葉に頷いた。


「アニーちゃん、フローラ嬢が魔法撃ったら、即攻撃に移るぞ!」


「了解です!」


暴れるボスから二人の女性をガードしているロークが振り向きざまに声をかける。

俺は加速に加速を乗せるスピードでボスへと飛びかかるように斬りかかった。


右から斬り下ろし、折り返すように左からも状態異常を付与した剣を振り下ろした。そして転げるようにボスから離れた。

ボスは重ね掛けされた付与効果のせいか瞬時動きが止まった。


「フローラ~~今だ!」


「撃ちます~~!」


大きなクリムゾンファイアーがボスの頭上から落ちた。



ズドォ~~~~~ン



ボスの体が炎に包まれ燃えている。



「アニー~~~撃つんだ!」


「はい!」


俺の声に反応するかのように、アニーは炎に包まれ棒立ちになっているボスへと引き絞った矢を放った。

そして・・・その矢は見事に眉間へと深く、深く突き刺さった。



ジェネラルウォーウルフは棒立ちのまましばし動かなかった。

俺たちみんなも動きを止め、その様を息を潜めるようじっと見つめていた。


ボン

ボコッ

ボン、ボォ~ン


ボスは小爆発を繰り返し崩れるようにその姿を灰にしていった。



「うおぉ~~~~!」


「やったぁ~~!!」


「やったぁ~倒した!」


「ひゃ~~~~やったよぉ~」


小躍りして飛び跳ねる女性たち・・・



「終わったな・・・」


「終わった・・・」





そこには・・・歓喜の雄叫びだけが木霊こだましていた。


・・・・・・・・


・・・・・・・・


駄々広い草原の中に馬車がすれ違える幅の道が、少しずつ大きく見える城壁へと続いている。

きっと主要街道のひとつなんだろう。よく整備されている感じがした。


「あのぉ・・・アニーさんでしたっけ?」


「はい」


「もう奴隷商人逃げましたので、俺について来なくても大丈夫だと思うんですが・・・」


振り返れば、『付かず離れず』俺の後ろを歩いてくる金髪蒼眼の女性。

俺は頭を掻きながら苦笑いを浮かべ言葉にした。


「わたし・・・冒険者になる為にバサラッドへ向かう途中だったのです」


目線を下げたまま歩くそのエルフの女性は本当に美しかった。


バサラッド?・・・あぁ、俺が目指してる町の名前だったな。



「なるほど、俺も目指しているんですよ・・・でも、初めてで右も左もわからないんですけどね~」


町どころか、この世界のことが何ひとつ分からないのが現状だった。

俺は一人クスクスと笑った。

アニーは俺のその言葉を聞いて、後ろから肩を並べるように横へと歩を合わせてきた。





「ご一緒してもイイですよね?」



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