採用試験⑨

 ――アリアナ・リード



 名前が呼ばれました?

 まさかの事態です。

 合格したのです?

 合格の理由はさっぱりわかりませんが、やったです! やってやったです!

 これで心置きなく私は夢を追いかけることができるです。




 誰からも理解を示してもらえないというのは悲しいことです。

 いつからだったのか定かではないですが、私には前世の記憶があるみたいです。

 そのことを家族に話すと笑われ、兄弟には馬鹿にされてしまったです。

 この「です、です」という口調はアリアナ・リードの口調で会って私本来の口調ではないのです。

 すでに体に染みついて治せそうにないのであきらめているのです。


 そんな私――前世の記憶の私――は科学文明の発達した世界の住人――科学者だったのです。

 人は宇宙に進出し、人々の居住地は空となったのです。

 かつては大陸と呼ばれる広大な陸地が複数存在していたそうですが、私は一度も見たことはないのです。

 銀河36星雲第24惑星の3連星にある民間コロニーで生まれ育った私は大地というものを踏みしめたことがなかったのです。


 だから初めて前世の記憶を取り戻した瞬間、私は歓喜の声を上げたのです。


 やったのですー!!


 そして歓喜とともに自分の個性あふれる口調を自覚したのです。



 このような話をすると周囲の反応は決まって「ふーん」「あ、そうなんだ」という腫れ物に触れるみたいな反応をするのです。

 私が反対の立場でも同じ反応をすると思うですから、恨んだりなんかはしないですが、寂しい気持ちにはなるのです。

 そんな私にとってジャンク・ブティコは希望の星なのです。

 マーケティングや新たに発売する商品。そのどれもがこの異世界では異質。はるかに先を行く文明の匂いを感じるのです。

 私の元いた世界と同じ匂いです。


 大地に住む心地よさはそれはそれは素晴らしいものでなのです。

 しかし、私の故郷は空――宇宙なのです。

 故郷に帰れる可能性がジャンク・ブティコにはある! そう直感したです!!


 そんなことを考えながら一人研究をしていると、ジャンク・ブティコの募集の話が出たのです。

 これは応募しなくてはと応募したまではよかったのですが、よくよく考えてみれば私は前世では科学者。しかもマッドな科学者という位置づけをされており、対人スキルが壊滅的だったのです。

 もちろんマッドな科学者などではないのです。

 少し前衛的な研究をしすぎていろんな人から首を傾げられただけなのです。

 探求心からしか発見は生まれないのです。

 そんな私は研究に明け暮れ、引きこもり生活を送っていたのです。

 面接なんてもの受けられるはずもないのですが、アリアナ・リード本人の影響なのか普通(?)に話すことができるようになっているのは救いなのです。


 言いたいことを言える。なんてすばらしいことなのです!

 アイアム ハッピー! なのです。


 意気揚々と試験に向かい。面接に臨んだのですが、間違いなく落ちたです。

 だって面接官の顔が死んでいたです。

 なるほど~、と相槌は売ってくれるものの何も理解できていないことはわかるのです。

 でも、いいのです。

 私は夢を――もう一度故郷に帰ることをあきらめないのです!

 その思いだけは伝わっているはずなのです。



 ――黒羽夜一



 これはまたすごい逸材がいたものだ。

 異世界人。それも僕とは違う世界から。

 僕が転移であれば彼女は転生ということになるのだろうか?

 そのあたりの定義はよくわからないが、なんにしても即戦力もいいところだ。

 セルシアはきょとんとしていたが、僕は話の途中から彼女に夢中だった。

 もちろん話の内容ですよ。


 彼女は間違いなく科学に精通している。しかも僕のいた地球よりもはるかに優れた科学世界の住人だ。

 今まで実現できなかった技術も彼女がいれば実現できるかもしれない。

 それに彼女は宇宙に行くと言っている。


 宇宙旅行なんてものが実現できれば丸儲けだ。

 それこそ一生遊んで暮らせる……いや、その前に宇宙への憧れなんかがないと誰も行きたがらないぞ。

 それにはまずSF的な映画でも作って上映するか。そもそもSF=宇宙なのか?

 よくわからないが、スペース●●とか謳っておけばいいだろう。

 映画撮影では間違いなくジャンク・ブティコがこの世界で一番だ。

 そもそも映画事業自体ジャンク・ブティコしかやっていないから2番がまだ存在しないのだけれど。

 将来を見越しておくのは大切だよね。


 そしてフル回転で導き出した銭勘定は――とにかくたくさん儲けが出そう。


 だって僕、ただの大学生だよ。その手の計算は経済学部とかの人が得意なんじゃないの?


 簡単な銭勘定しかできないからこそ上手くいっているのかもしれない。

 わからないから下手に踏み込みすぎない――踏み込めない。


 でも一つの事業の形が見えただけでも上出来だろう。


 笑いが止まらない。


 そんな僕をやれやれとあきれた様子でセルシアが見ていた。

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