採用試験②

 ――セルシア・アン・フェルメール



 すでに採用試験開始から3日が経ちました。

 さすがに500人を超えたあたりからヨイチさんの疲れが目に見えて色濃くなってきました。

 受験者全てを紹介するのは難しいので、幾つか紹介したいと思います。



 ――世界最強の存在



「次の方どうぞ」


「失礼……します」


 呼ばれたので部屋へと入る。

 部屋には2人が真剣な面持ちで待ち構えていた。

 上手く声が出せずに消え入りそうな声しか出せなかった。

 張り詰めた空気が私の精神を削っていく。

 おや? なぜか私を試験するはずの2人も私と同じように額に汗を浮かべていた。


 …………

 ……

 …


 もともと話し下手だけど、自分の想いは伝えることができた。

 物心ついた頃には次期魔王としてそだてられ、自分で何かになりたいなどと考えたことはなかった。

 しかし、今はなりたい。

 ヨイチの役に立ちたい。

 何でもしてあげたい。

 だから今回の「こうし」とやらの募集に参加した。

 2人とも最後まで私の話を聞いてくれた。

 きっといい結果が待っていることだろう。


「本日はありがとうございました」


「あ、ありがとう……ございました」


 最後もなんとかあいさつできた。

 きっと、メフィストも「成長しましたね」と褒めてくれるだろう。

 部屋に入る時より、ひと回りもふた周りも成長したのを感じながら自らの居城へと転移した。



 ――セルシア・アン・フェルメール



「次の方どうぞ」


 ヨイチさんの声に促され入ってきたのは私たちのよく知る人物でした。

 ベアトリーチェ。

 魔王と呼ばれる、世界最強の存在。

 親しくなると、とてもかわいい方だと分かるのですが、なにせ魔王ですから恐ろしいイメージが強く、今まで親しい方が少なかったらしく、少々(?)お話されるのが苦手です。


「マジか……」


 隣でヨイチさんが呟くのが聞こえました。

 気が重いといった様子です。


 気持ちだけではなく、実際に空気が重いです。

 多分、ベアトリーチェさんの緊張が、魔力を介して空気――空間そのものに影響を与えているのでしょう。

 なんだかベアトリーチェさんの周りの空気がバチバチ青白い火花を散らしています。

 正直、怖いです。いつ暴発するか分からない爆弾のようなものです。

 しかも、その爆弾が魔王様本人なのですからその威力は想像に難くない。


 ヨイチさんは平静を装いながら他の受験者のように質問をします。

 相手は魔王。1つ扱いを間違えばお店だけでなく王都――いや、大陸の1つや2つ消し飛んでもおかしくない。

 だが、どうやら額に浮かべる汗は、それとは別の理由のようです。


 ベアトリーチェさんの自己PRは、もはや愛の告白。

 一国のトップの愛の告白を丁重にお断りしなくてはならないヨイチさんの心の疲弊は相当のものなのでしょう。


「本日はありがとうございました」


「あ、ありがとう……ございました」


 ベアトリーチェさんが部屋を出たことで空気がだいぶ軽くなった気がします。


 なんとか面接を終えたヨイチさんは大きく息を吐いて額の汗を拭った。



 ――黒羽夜一



 はぁ、疲れた……

 ベアトリーチェの告白同然の自己PRの間隣からの圧力が凄い。

 なんかベアトリーチェがバチバチしてると思ったら横でもバチバチ。

 2人とも自分が火元になる可能性に気付かないのか?

 いやはや、店が燃えなくて良かった。


 さすがに疲れた。

 しかし、ベアトリーチェが折り返し。まだ半分……

 はぁ……

 ため息しか出ない。早く解放されたい。

 だから僕は休むことなく呼び込む。


「次の方どうぞ」

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