嬉しい誤算③

【セルシア】


 おかしいのです。

 つい先日、魔放送『モーニング・ドラゴン』を見ながら不敵な笑みを浮かべていたヨイチさん。

 大きなため息をついては、「失敗したなぁ~……」と呟くばかり。


《ジャンク・ブティコ》の売上げは右肩上がり。順調過ぎるくらいなのだが、納得いっていないらしい。

 どちらかといえば、何か大きなことを見落としていて大きな利益を逃した、といった雰囲気だ。


 今、世間は空前のペットボトルブーム。

 大人も子どももペットボトル。

 冒険者同士の情報交換の話題も、子どもたちの学校での会話の中心も、奥様達の井戸端会議にいたるまで、ペットボトルが席巻していた。


 このブームに乗じて《ジャンク・ブティコ》もすぐさま動いた。

 ペットボトルそのものを売り出した。

 この商売は見事に当たった。


 間違いなく売り上げに貢献し、新たな目玉商品となった。

 しかもペットボトルは、その製造・流通に至るまで全て掌握している。

 いわば、《ジャンク・ブティコ》の独占市場と言えた。

 それなのにヨイチさんは浮かない顔をしている。


「純利益がなぁ……」


 ヨイチさんの眉間の皺がより深く刻まれた。



【黒羽夜一】



 利益は出ている。

 しかし、売上と収支のバランスがいびつだ。

 詳しく言えば、売上から出る利益の一割しか《ジャンク・ブティコ》には入ってこない。

 すずめの涙程度の利益なのだ。


 世間でブームの商品の利益がなぜそんなに低いのかというと、利益とは分配されるものだからである。

 品物を売る販売店だけでなく、生産する者もいるという事だ。

 そして多くの場合、生産する側の取り分が大きい。

 だからこそ現代では、著作権だの特許だのが存在し、それらは大金でやり取りされる。

 そのような概念があったばかりに夜一は「正当な対価」を払ってしまっているのだ。


 あぁ、もったいない。


 本当の意味での市場独占とは、販売・流通・生産の三本柱すべてを自社で行うことだ。

 そのジャンク・ブティコは生産ラインについてはノータッチ。

 介入の余地がない。


 そもそも魔王ベアトリーチェの常軌を逸した魔法力があって成せる業(生産)だ。

 生産ラインは暗黒大陸が独占している状況になっていた。


 今の状況は現代日本にも見られる。

 100円ショップでは様々な商品が買える。押しも押されぬ人気店だが、売上イコール利益という訳ではない。

 多くの商品は中国の工場で生産され、輸入されている。

 つまり、生産と流通分を差し引いたものが販売店の利益となる。中国への利益は莫大なものとなる。


 転移魔法が使えるベアトリーチェやメフィストのいる暗黒大陸との商品のやり取りは実質タダである。

 しかし転移魔法は高等魔法。

 二人だからこそタダで何の見返り無しに商品を納品してくれている。

 本来、高額の運搬費を請求されてもおかしくないのだ。

 その点を考えればプラマイゼロ。もしくはプラスに転じてくれているかもしれない。


 なんだかんだ恵まれてるのかもなぁ……


 でもいずれは生産も流通も自分たちで賄えるようにしないとな。


 そしたらぼろ儲けだ。ぐふふ。


 あれ? もしかしたら……ぐふふ。


 守銭奴と化した夜一の頭には新たな事業構想が生まれつつあった。

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