商人ギルドからの招待状②
セルシアの自室――
商人としての心得。
第一に利益を出すこと(これが出来なければ生活自体がままならない)。
第二にお客様に喜んでいただくこと(この事は利益に直結する場合も少なくない)。
この二つは商売人にとって欠かすことのできない事案である。
もしかすると、第一と第二はその順序が逆なのではないか、そう思えるほどにお客様至上主義は重要である。
利益を出すというのは難しい。
仕入れ値が高ければ、売値も高くなる。
私は交渉ごとは苦手だし、商人同士の繋がりも希薄で、孤立気味だ。
人手もなく、名前も知られていない一店舗が他の有名店たちに埋もれてしまうのは当然だ。だからこそお客様の事を考える必要があり、その考えを実践してきた。
売り上げに直結せずとも、お客様第一という私の経営理念は貫いているものだと思っていた。
だが、それは違った。
自分よがりな品物の押し付け(押し売り)を行ってしまっていた。
それは商人としてのプライドからだった。
POP勝負に負けたことなどよりも、自分の小さな意地みたいなものを第一に行動したことが許せなかった。優先順位で言えばピラミッドの底辺にあるべきものだ。対してお客様は頂点。
この二つの場所が入れ替わってしまったのだ。
もしかすると今までの私がPOPを書いていれば、ヨイチの言うお客様第一のPOPが書けたのかもしれない。
最近、お店の売り上げが好調なことに慢心していたのか、身勝手なPOPを作ってしまった。
商人のみならず、人は慢心してはならない。慢心した人間の末路は知っている。
王族として生まれ育った私の周りでは、貴族たちの覇権争いが絶えなかった。
そんな中で慢心した貴族は没落。王都で姿を見なくなった。
そんな人たちを、両手の指では数えきれないほど見て来たというのに、自分自身がそんな人たちの仲間入りを知らず知らずのうちにしていたのだ。
商人として以前に人として問題がある。
そんな風に言われた気がした。
もちろん、ヨイチにその様な意図はなかっただろう。
でも、そのように受け取ってしまったのだ。こればかりはどうしようもない。理性ではなく感情の部分だから。自分の意志だけではどうにもならない。
それからは自然と客前から足が遠のいた。
意識的にではなく、無意識のうちにだ。
そのことに気が付いたころには、すでに私の中から何かが欠落していた。
そして失った何かは私から活力をも奪い、自室へと引き篭もらせた。
そんな折、自室のドアが控えめに叩かれた。
気怠い身体に鞭打ってドアを開けると、ヨイチが顔を覗かせる。
「どうかしましたか?」
素気ない態度を取ってしまう。
ヨイチからしてみれば八つ当たりに等しい態度だ。
「商人ギルドから店長宛にお手紙です」
差し出された手紙を受け取ると、ヨイチは一礼してお店の方へと戻っていく。
本来であれば一緒に戻るべきなのだろうが、今の私では足手まといにしかならない。
ドアを閉め、部屋の奥にある書斎机にあるペーパーナイフを手に取り、手紙を開封。
そこに書かれた文面を目で追った。
書面を読み終えた私は一息ついて、思いを巡らす。
(私になんかに務まる話じゃない……)
失意と共に私は部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます