商人ギルドからの招待状①

 お店の売り上げは着実に右肩上がり。

 このままいけば赤字脱出も不可能ではない。むしろ黒字経営が現実味を帯びてきたと言える。


 これはとても喜ばしい事だ。そのはずなのだが、店長の気分は沈んだままだ。

 先日のPOP対決の敗北がいまだに尾を引いているらしい。

 知識を身に着け、更に向上させたPOPを作ればいいではないかと言っているのだが、一向に復調する兆しが見えない。


 おそらく勝負とは別の要因があると思われるが、それが何なのか夜一にはわからない。

 全能の神様ではないのだ。人の心など覗けるわけもなく、店長が塞ぎ込んで数日が経っていた。


 商品の在庫確認や整理は行ってくれるものの、お店には出ようとしない。

 仕方がないので陳列や接客などの業務は夜一が担当している。


 さすがに一人でお店を回すのは厳しい。

 現段階では、大繁盛とは言わなくとも充分に繁盛している。

 それなりに忙しい時間帯というのもある。


 バイトでも雇うか?

 そんな考えが頭を過るも、夜一の一存では何も決められない。

 ジャンク・ブティコは店長であるセルシアの店である。

 夜一は従業員に過ぎない。一切権限はないのだ。


 お伺いをたてようにも店長は現在生気が抜けたような状態。

 生返事しか聞けないような気がする。


 カランカラン♪


 ドアベルが鳴り、扉が開かれるとともに威勢のいい声が入ってくる。


「お手紙お持ちいたしました」


「ご苦労様です」


 手紙を持ってきたのは商人ギルド傘下の配達屋である。

 バイクも自動車もないこの世界でよくやっていると思う。行っていることはそのまま江戸時代の飛脚である。


 労いの言葉と共に、チップを少額ではあるが手紙と引き換えに握らせる。

 そうしないとなかなか彼らは帰らない。

 以前、何も知らずに荷物だけ受け取ると、世間話を永遠に喋り続けた。アレは相当イラついた。


 確かに支給される給金だけではやってられないだろう。

 今ではそのあたりの気持ちもきちんと汲んでチップを渡している。


「それでは失礼します」


 元気な声と共に店を出ていく配達屋の背には、まだいくつもの荷が背負われていた。

 心の中で三度みたび労い、見送った。


「どれどれ……ん?」


 何通かある手紙の内の一通に目が留まった。

 明らかに他よりも品質の良い紙が使われている。

 封蝋には硬貨があしらってある。

 お金大好きアピールか! ここまで露骨にお金を前面に押し出す人間――組織は一つしかない。商人ギルドだ。


 ジャンク・ブティコ宛に書かれたものだったため、勝手に封を切るのは憚られた。


(これは店長宛と解釈して問題ないよな?)


 取り敢えず手紙を店長に届けよう。

 手紙を片手に店長の自室の扉をノックした。

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