断罪の月光(ジャッジメント)


 「“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”」


 ガルビーストによって運よく破壊された天井に向けて矢を射る。


 太陽の光を吸収した矢は黄金の球体となり、疑似的な黄金の月へと変化した。


 (イルザさん達が必死に時間を稼いでくれているです。私は、私の出来ることをやるです)


 イルザとグレンがガルビーストを引きつけているおかげで、“極光の月弓アルテミス”の大技の一つである“断罪の月光ジャッジメント”の準備が着々と進んでいる。


 本来、ガルビーストは主であるブランとスミレの制御下にあるのだが、ブランはスミレを除外した。


 絶対服従であるブランの魔獣は、たとえ主が殺そうとしても反撃しないように作られている。しかし、スミレの放った最初の一撃を振り払ったのが、制御から外された証拠であった。


 制御できないのなら殺すしかない。と、スミレはあの一瞬で判断した。


 対魔族用に改造されたガルビーストは非常に頑丈である。筋肉を結晶化することができ、任意に筋肉を結晶化することで、貫通を防いだり、腕や足を武器にすることが出来る。


 “妖精の輝剣アロンダイト”をもってしても心臓を貫くことが出来ないのはその影響である。


 しかし、結晶化にも欠点がある。


 脳が結晶化の信号を送り、結晶化が始まるまでほんの僅かな時間がかかることだ。その間およそ0.01秒。だが、その隙を突くのは至難の技である。


 スミレにはガルビーストに認識すらできない程のスピードで攻撃する方法がある。それこそが“断罪の月光ジャッジメント”である。


 この技には三つの制約があり、一つは月が出ている状態、二つ目は十分な月光を吸収していること、そして最後に自分以外の魔力を矢とすることである。


 一つ目と二つ目は“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”による疑似的に作り出した月で時間はかかるものの解決できる。三つ目の制約である矢をどうするか、これはひとつの賭けだった。


 スミレはイルザの“妖精の輝剣アロンダイト”を矢として扱おうと考えている。


 だが、本当に矢として射出できるのか、スミレ自身わからなかった。もし、失敗したらあの暴走しているガルビーストを止める手段はない。不安との戦いであった。


 (大丈夫です。できるです。イルザさんが、皆が信頼してくれているです。だから大丈夫です)


 不安で手が震える。初めて自分の意思で戦うのだ。幼い少女には荷が重い。


 “極光の月弓アルテミス”の月光吸収に集中している中、スミレの手に温かなものが触れた。


 「・・・大丈夫よ、私が傍にいて守ってあげる。・・・“守護方陣“」


 エルザの手がスミレの手に触れていた。温かな手・・・。それだけで安心出来た。


 「ありがとうです、エルザさん。あともう少し、頑張るです」


 襲ってくる不安は消えた。傍に誰かがいるだけでこんなにも勇気が湧いてくる。スミレは改めて心の温もりを感じ取った。


 月光の吸収はもう間もなく完了する。


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