幻獣召喚

 イルザがスミレの“隷属の鍵エスクラブ・オブ・キー”を解く少し前。




 絶体絶命の危機を迎えていたエルザは“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”による“ムーンサイド・レイ”を打破する方法を思いついていた。




 上空から一筋の光線を確実にエルザめがけて降り注ぐ“ムーンサイド・レイ”と“極光の月弓アルテミス”から放たれる、光の短剣の円陣攻撃。




 縦と横の隙の無い攻撃。一度は凌いだものの、威力を抑えた短剣を一本腕に受けてしまった。同じ方法で凌ぐには、諸刃の剣である。




 (・・・あと何回この痛みに耐えられるだろうか)




 最も厄介なのは“ムーンサイド・レイ”である。




 最初の攻撃を試しにと、落下地点へ一点集中型の防御魔法である“プロテクション”をかけてみたのだが、ものの見事に魔法ごと打ち砕いた。




 きっと“妖精の輝剣アロンダイト”と同じ、魔法を無効化する力が“ムーンサイド・レイ”に付与されているのだろう。




 それに反し、光の短剣はある程度は魔法で威力を軽減することが出来る。おそらく、力の大半を“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”に回しているせいで、魔法の無効化を付与することが出来なかったのだろう。




 もし、あの“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”が持続顕現型の魔法と同じならば、術者を直接叩けば発動を阻止できるかもしれない。そんな隙があればの話だが。




 (・・・ちょっとだけ、グレンの真似をしてみるね)


 「さっきは私の攻撃を凌いだことに驚いたが、あと何回その方法が通用するかな? 見届けるのもまた一興だろ? さあ! 三回目はどんな反応を見せてくれるか!」




 弦を引き短剣をエルザの周囲に展開する。




 エルザは上空からの光線を避けつつ、塗装がはがれている地面に何かを素早く刻み、それを消さないように別の魔法陣“守護方陣・界”を描く。




 マントを体の前に重ね、短剣の威力が弱まったところを突撃する。




 「っぐ・・・!」




 痛い。




 魔法とは言え刃物と変わらない。




 鋭い痛みに何とか耐えながらも腕に刺さった短剣を抜き、次の位置へと移動する。




 「ほら! ほらほら! ほらほらほらほら! もっと踊りなよ!」




 四回。




 五回。




 六回。




 七回。




 何度も、何回も同じ方法でブランの怒涛の攻撃を凌ぐ。エルザのマントは既にボロボロだった。




 だが。




 (・・・準備はできた!)




 後は術者を叩く隙を伺うのみ。ベストなタイミングとしては次の短剣攻撃の時だ。




 僅かの時間だが、短剣を動かした後のブランはエルザの様子を見たいのか、覗くような動作をする。その隙を狙えばこちらの攻撃が届くかもしれない。




 意識が半分朦朧としてきている。




 身体強化の魔法をかけているとはいえ、何度も切り傷を負わされ、出血すれば体力も失っていく。きっと、次の攻撃で耐えられるのは最後だろう。




 エルザの生きて帰る覚悟がほんの少し揺らぐ。




 「そろそろ辛そうだね? いいねぇ! 少女の苦しそうな表情というのはさぁ!」




 弓を構えるブラン。




 (・・・来るっ!)




 慎重に、タイミングを計る。“ムーンサイド・レイ”を避けつつ、防御魔法の魔法陣を描く。




 (・・・来いっ!)




 その時。




 「さぁ、反撃よブラン!」




 姉の、イルザの声が部屋に響いた。




 ブランは驚愕の表情を見せ、手を止めた。




 エルザはそれを見逃さなかった。




 「・・・今!」




 杖で地面を叩き魔法を発動させる。その魔力の行き先は攻撃を凌いでいるときに、捲れている地面に描いた五か所の魔法陣へと伝っていく。




 その五か所の魔法陣は五角形の巨大な魔法陣となり、紫電が轟く。




 「召喚、“雷帝ボルティック・ペガサス”!」




 激しい轟音と共に魔法陣の中心から、一体の巨大な紫電を帯びた天馬が顕現する。




 「幻獣召喚だと⁉」




 ほんの少しの隙がとんでもないものを呼び寄せてしまった。




 (しかし、なぜ、魔法陣が残っている? 発動している個所はどこもかしこも“ムーンサイド・レイ”の焼き跡が・・・)




 ブランはそこで気づいた。遅すぎた気付きだった。




 召喚の魔法陣のすぐ横には、魔力吸収の魔宝石の塵が残っていた。それを使ってエルザは魔法陣を守っていたのである。




 「くそおおおおおおお!」




 怒りの声を上げると同時に紫電の天馬が翼を広げ、ブランの体を貫き天を駆ける。




 そして、貫いた体を巨大な月、“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”に叩きつけ、砕いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る