第十一章 覚を欲する者
第71話 覚の能力
辿り着いた屋敷は、純日本家屋だった。
土塀は延々と続いており、途中にある門の前には二人の男が立っていた。
十二月の風は冷たく、門番をする者には辛い季節なのだろう。
男は二人ともすっぽりとロングコートを着ている。
「どこから忍び込むんですか? あのくらいの高さの塀なら、わたし、余裕です」
余裕綽々とばかりに言う
紅葉の格好はジャージ姿だった。
頭には鉢巻を巻いている。
「お、俺、――紅葉と一緒に行くの嫌。千兄、よろしく」
車の窓を叩いて、廉弥は笑いこけている。
「いいよ。僕は紅葉と――」
せめて最後まで言い切って欲しかった。
言葉の途中で笑いを堪えて、千弥は肩を震わせる。
車内はこれから命を掛けて弟の救出に向かうとは到底思えない雰囲気だった。
「別にいいです。わたしは一人で
紅葉はふて腐れた。
自分の格好がおかしいなどとはまったく思っていない。
「廉弥、悠弥と連絡を取ってみて。ただし、すぐに移動する。
悠弥は遠くにいる人間の心を読むことができる。
さらに、自分の心の声を離れた場所にいる他の
その能力を利用して、広い屋敷内で悠弥が捕まっている場所を特定しようというのだ。
ただし、悠弥からの返事は覚には聞こえてしまう。
つまり善弥にも聞かれてしまうというわけだ。
しかし、それも計算済み。
逆にそれを利用して善弥たちをこの場所へ誘い出し、その隙に屋敷へ潜り込もうという千弥の計画だ。
「待って廉弥。わたし、なんだかすごく嫌な予感がするの。以前、悠弥を誘拐しようとした人たちはナイフを持っていたし……」
車から出ようとする廉弥を、紅葉は腕を掴んで止める。
紅葉が懸念するのも当然だった。
もしナイフを持った男たちに襲われたとしたら、いくら廉弥が空手錬士で千弥が範士だったとしても、無傷ではいられないかもしれない。
素手で乗り込もうとする二人の身が心配になるのも無理はなかった。
「紅葉はまだ覚の能力を分かってないようだね。攻撃を受ける前にその行動が分かるんだ、紅葉が心配するような事態にはならないよ」
千弥はまるで「ちょっとお茶してくるよ」と言うように軽いのりで言う。
「そ。もし相手が拳銃を持っていたとしても同じこと。かえってそっちの方が、引き金を引く時に込める思念が強くて察知しやすいんだ。だから、実はナイフよりも攻撃が避けやすかったりする。俺、実践済みだから大丈夫。信用しろよっ」
いったいどこで実践してきたというのだろうか。
廉弥は余裕とばかりに笑っている。
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