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 映画がお蔵入りになってしまったことは、とても残念なことだったのだけど、そういうことはよくあることだったので仕方がないと思った。

 でも、収穫がまったくないわけではなかった。

 結衣の演技は業界内ではとても高く評価されたし、その仕事に対する姿勢も評価された。それが次の仕事につながっていったし、アイドルの仕事にも良い影響を与えることができた。

 だから結衣は恋坂の仕事に(もちろん、上映されれば本当に良かったのだけど)満足していた。

 ……だけど、一つ面倒なことがらも増えてしまった。

 それは恋坂で共演した結衣と同い年の人気女優さん、鮎川鮮花とライバル関係になってしまったことだった。

 結衣としては鮮花にこれといって興味はなかったのだけど、まず本来は恋坂の主役は鮮花であったこと、それがオーディションを受けた結衣に変わり、その演技が評価されたこと、二人の年齢、キャラクター、売り出していく中での特徴、雰囲気、そしてファン層などがかぶっていたことなの事情があり、結果としてそういう関係になってしまったのだ。

 お互いの事務所同士がライバル関係であったことも、その大きな理由の一つかもしれない。

 でも、実際の結衣と鮮花はとても仲の良い友人関係であった。

 恋坂の撮影を通じて二人は友達になった。

 それは恋坂という仕事をして結衣が得たものとして、もっとも大きなものでもあった。そして、それは鮮花にとっても同じことだった。

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