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「……私、昔ね、ずっと好きだった男の子がいたの」 

 そんな風にして、早月は如月陸のことを、高田奏に話し始めた。 

 早月は付き合い始めたときからずっと、陸の話を奏にするかどうか悩んでいたのだけど、最後の最後でやっぱり今日、奏に陸の話をすることに決めた。それは今日、この瞬間にその話をしないと、きっと一生、もう二度と、陸のことを奏に話すことはできなくなってしまうような、そんな気がしたからだった。

 それでも本当に奏に陸の話ができるのか自信はなかった。

 すごく不安だった。

 だけどこうして実際に、すごく辛かったのだけど、早月はずっと秘密にしていた陸のことを奏に話すことができた。

 そんなことが本当にできるなんて、自分でもうまく信じられなかった。

 早月はこの機会を自分に(あるいは自分と奏に)与えてくれた椛に感謝した。

 一度言葉を話し出すと、陸のことが次から次に溢れてきて、早月の言葉は止まらなくなった。

 奏はずっと、そんな早月の話に、静かに耳を傾けていた。


 二人は新宿駅の前から新宿御苑の入り口あたりまで歩いて、そこからまた、今度は歩いて来た道を少し変えて、新宿駅の前まで戻ってきた。

 その間、ずっと雪は降り続いていた。

 きっと雪は、このまま明日まで降り続くのだろうと早月は思った。

 ……この雪は、きっと陸、そのものだから。

 雪を見ると、早月はいつも死んでしまった陸のことを思い出していた。

 また昔みたいに、あのときのように、最後に陸が私に会いに来てくれたのだと、降り出した雪を見て早月は思った。


 二人は散歩の途中で温かい缶コーヒーを買って体を暖めて、新宿駅の中で、冷めた缶コーヒーを飲んだ。

 奏はずっと無言だった。

「ごめんね。なんか急に、すっごく重い話しちゃってさ」

 とわざと明るい感じで早月は言った。

「ううん。そんなことないよ。その話、僕にしてくれてすごく嬉しかった」

 奏は真剣な表情でそう言った。

「ありがとう」

 早月は普段通りの笑顔でそう言った。

 それから二人は電車に乗って、最寄り駅まで移動を始めた。

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