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 季節は冬になった。

 日向明里は、二学期に入ってから少しして、急になんだかとても落ち着いて、このころには結構頼りになる生徒会長に成長していた。

 もともと実力もあり、努力もしていたので、明里の周囲にいる人たち(生徒会メンバーや同じ教室の友達、先生たちなど)はなにかのきっかけで明里は変わるとは思ってはいたのだけど、こんなにはっきりと成果が出るほど変わるとは思ってはいなかったらしく、みんなが驚いていた。

 もちろん去年のようなあの伝説の生徒会を率いた伝説の生徒会長のようにではなかったけれども、仕事はきちんとこなし、生徒たちの相談に乗り、先生たちの話をきちんと聞いて、そしてなによりも、自分の理想を自分自身や周囲の人たちに押し付けることがなくなった。

 派手さはないけど、堅実で、それは明里らしい、すごく安心のできる一人の成熟した大人の生徒会長の姿がそこにはあった。

「では、生徒会を始めます」

 明里は言う。

 生徒会室の席は五つとも埋まっている。今は誰も途中で席を立ったりはしなかった。

 その日の生徒会も順調に終わり、少しの雑談の時間に、話の内容は進路の話になった。

 もう直ぐ二学期も終わり、冬休みがくる。

 そうすれば年末、新年と時を過ごし、冬休みが終わって、三学期に入れば、もう卒業まではあっという間だった。

「大学に進学するのはみんなだよね。試験勉強とかちゃんとしてるの?」深田早月が言った。

「あんまりしてない」みんなを代表して結衣が言う。

「じゃあ生徒会メンバーで真面目に勉強しているのは明里くらいかな?」

 早月は一つだけ空いている生徒会長の席を見る。

 明里は今、三学期の仕事や卒業式のことを相談するために職員室に行っていて、生徒会室にはいなかった。

 お嬢様学校である学院では、それほど本格的に受験勉強をしなくても、推薦で系列のお嬢様大学に進学することができた。

 だから真面目に受験勉強をしている三年生の生徒はどちらかというと少数派だった。

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