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高校三年生の冬。
受験が終わって少し時間がたったころ。
山吹絵里は、柊木真冬を高校の屋上に呼び出した。
「用事ってなんなの? 山吹さん」真冬はいつものようにとても優しい顔で笑って、絵里にそう言った。
「……うん。えっと、ちょっと待ってね」
絵里はそう言って、真冬に背を向けて、胸に手を当てて深呼吸をした。
心臓が、すごくどきどきしていた。
覚悟していたはずなのに、足がぶるぶると震えていた。
それはもちろん、冬の屋上に吹く、冷たい風のせいだけではない。
絵里は覚悟を決めて、真冬のほうを振り返った。
真冬は一人。
その隣には、いつも一緒にいる早乙女芽衣の姿はなかった。
絵里は、無言のままだった。
真冬はそんな絵里の顔を見ながら、じっと絵里の言葉を待っていてくれた。優しい真冬。絶対に怒ったりしない真冬。穏やかな真冬。絵里の大好きな真冬がそこにはいた。
「……ううん。やっぱりなんでもない」絵里は言う。
「本当になんでもないの?」真冬は言う。
「……うん。ごめん。ちょっと柊木くんに相談したいことがあったんだけど、やっぱりやめておく。相談の内容は、秘密ってことで、ごめんね」絵里は言った。
「わかった。相談してもらえそうになったことも、みんなには秘密にしておくよ」真冬は言う。
「ありがとう。柊木くん」絵里は言う。
それから真冬は教室に戻ろうとする。でも、絵里の足は動かない。
「山吹さんは帰らないの?」
「うん。もう少しここにいることにする」絵里は言う。
真冬は歩き出して、屋上のドアに手をかける。
そこで真冬は振り返って、「もしかして相談って忍くんのこと?」と真冬は言う。
「ううん。違うよ。森野のことじゃない」絵里は言う。
あなたのことだよ、とそれから絵里は心の中で一人、思う。
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