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 葵が木野さんに恋をしたのは、木野さんが働いているレストランの店内でのことだった。

 その日も雨が降っていた。

 葵は中学校ですごく嫌なことがあって、とても落ち込んでいた。あるいは葵は気づかないうちに、泣いていたのかもしれない。泣いたら負けだと思って我慢していたけど、それは葵の外側にまで、いつの間にか少しだけ溢れてしまっていたのかもしれない。

 葵はそのとき、本当に一人ぼっちだった。

 一人で、コーヒーを飲みながらいろんな気持ちを我慢していた。

 そんな葵に笑いかけてくれたのが、木野さんだった。

 それは個人的なことではなくて、もちろんお仕事的なことだった。

 木野さんはお店の制服を着ていて、葵の高校時代のときのようにコック服を着てキッチンで料理をしているわけではなかった。あとで話を聞くとはじめはフロアで応募して、それからキッチンになった、ということだった。

 葵はその笑顔に救われた。

 木野さんは本当に優しい人だった。

 葵はその笑顔を見て、木野さんに恋をした。

 その瞬間、葵は木野さんに恋をしたのだけど、それが恋だとわかるまでには、結構時間がかかった。

 葵は木野さんと同じレストランでバイトを始めた。

 そして、今も、そのレストランで、葵はバイトを続けている。

 木野さんは大学院に入るのと同時にやめてしまったけど、木野さんの存在がそこになかったとしても、そのころには葵にとって、そのレストランはとても大切な場所になっていた。

 だから今も、そこでバイトを続けている。

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