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 それはありていに言えば、運命と呼べるものだった。

 桜は確かにこのとき、楓と言う少年に運命と呼べる、二人を引き合わせようとする強い引力のような力を感じていた。

 中学のときは感じなかったこと。

 手紙をもらったときも、告白を断ったときも、感じなかったこと。

 あのころは、今よりもずっと律くんに夢中だったから?

 その律くんが鈴と付き合うようになって、私は失恋したから、こうして私に思いを寄せてくれている楓くんに、運命を感じている。……私は楓くんに甘えているってこと?

 桜は考える。

 でも、答えはでない。

 小森桜には恋という現象の正体がよくわからない。

 神様もなにも桜にアドバイスをしてくれない。

 桜は「わかった。じゃあ返事はその日より前の日にするね」と言って、楓との電話を切った。

 でも、それが結局、お祭りの日までにした二人の最後の会話だった。


 桜は楓に電話をすることができなかった。

 楓も電話をかけてこなかったし、小森神社の前で、桜を待っていてくれることもなかった。

 お祭りの日の当日はとても大勢の人たちで小森神社の周辺は埋め尽くされた。

 蒸し暑い夏の夜。

 出店が出て、逢坂がライトアップされて、家族や恋人たち、それから周辺に住んでいる近所の人たちがみんなでお祭りを楽しんでいた。

 小森神社の巫女として、桜はその日、仕事をしなければいけなかった。

 実際に桜は赤と白の巫女服をきて、小森神社の中で自分の出番を待っていた。小森神社の中でお願いごとをして、それから神社の境内に作られた祭壇で、舞を舞い、神様を祀る。

 その段取りや、舞の手順を桜は頭の中で必死に何度も繰り返していた。

 すると、桜の電話が床の上で鳴った。

 

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