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「小森桜さん」楓は言う。
「はい」
「小森桜さん。僕は、小森桜さんのことが好きです。あなたのことがずっとずっと昔から、本当に、好きです」楓は言った。
思わず、桜は無言になった。
なんて返事を返していいのか、わからなかった。
桜は楓のことが決して嫌いではなかった。でも、まだ桜の中には律くんがいた。桜はまだ、自分の失恋から立ち直ることができていなかったのだ。
「二年前に言えなかった言葉を今、言います。小森桜さん。僕とお付き合いをしてください」そう言って楓は桜に頭を下げた。
「……楓くんは、一週間後には引越し先に帰っちゃうんでしょ?」と桜は言った。
「そうです」頭を下げたまま、楓は言う。
「私と付き合っても遠距離恋愛になっちゃうよ? それでもいいの?」
「はい。いいです」楓は言う。
桜は迷う。
それから、迷っている自分にびっくりする。
桜はずっと楓のことを友達だと思っていた。懐かしい写真を偶然見つけた。その写真に偶然映り込んでいた昔、ちょっとだけすれ違ったことのある、男の子の友達。それが小町楓だと思っていた。
楓が自分に今も思いを寄せている、ということはなんとなく桜にもわかってはいた。
でも、楓がこんな風に自分とデートをしたりするのは、そんな自分の気持ちや後悔をした過去に、きちんとさよならをするためだと思っていた。
言うなれば恋のお祓いだ。
桜はそれを手伝うつもりでいた。
できれば自分の恋のお祓いも同時に行えたらいいな、と思っていた。
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