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「律くんから?」桜は言う。

 鈴は黙っている。と、いうことはそうなのだろう、と桜は思う。

「律くん。なんだって」

「うん。えっと、まあ、その、……お祭りの話」鈴は言う。

「一緒にお祭り行くの?」桜は言う。

「……うん。いく」

 そう鈴が言った瞬間に桜は両足で思いっきり桜の胴体を閉めた。こう見えても桜は剣道をやっている(鈴もだけど)。なので、小柄だけど意外と力があるのだ。

「ちょ、桜、痛い! 痛いって!」抵抗しながら鈴は言う。

「もっと痛がれ」桜は言う。

 それから二人は十分くらい格闘した。


「桜はお祭り、今年も神様にお願いごとをするんでしょ?」

 二人分の夕食を鈴の部屋まで運んでもらって、それを食べながら桜と鈴は会話をする。

「するよ。だってそれがお祭りをする本来の意味だもん」ごはんを食べながら、桜は言う。

 夕食作りは鈴も桜もお手伝いをした。

 みんなで作る料理はすごく楽しかった。久しぶりに桜は、明るい気持ちになることができた。

「大変だね」鈴は言う。

「鈴が律くんとデートをしている間に、私はお仕事だよ。これって不公平じゃない?」桜は言う。

「なにかで埋め合わせするよ。だから許してよ、桜」と笑顔のままで鈴は言う。

 ……鈴は、なんだかすごく落ち着いた。

 それだけじゃなくて、なんだか鈴は、以前よりもずっと大人っぽくなったような気がする。

 そんなことを、心に余裕のある鈴の顔を見て、桜は思った。

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